僕らのステキ☆

一馬が「ステキ」と思うものを好きなように綴っていくブログ。

『ライオンハート』(恩田陸) ★★★

2006-10-20 18:43:12 | 恩田陸
 今回は、恩田陸『ライオンハート』(新潮社)です。

 こないだ日曜日に近所の図書館に行ったとき、司書さんが返却されたこの本を棚に並べようとしていたので、速攻奪ってきました(笑)
 この他に、伊坂幸太郎『グラスホッパー』も借りてきた(珍しく伊坂小説があった!)ので、後日そちらの感想も載せます。

4103971037ライオンハート
恩田 陸
新潮社 2000-12


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 --------あらすじ--------

 いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ…。17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、フロリダ。時を越え、空間を越え、男と女は何度も出会う。結ばれることはない関係だけど、深く愛し合って―。神のおぼしめしなのか、気紛れなのか。切なくも心暖まる、異色のラブストーリー。

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 この小説、一応短編集なのですが、密接に繋がっているし、私は普通のひとつの小説と思って読んでいました。
 ところで、この小説の章題は、

  1.エアハート嬢の到着
  2.春
  3.イヴァンチッツェの思い出
  4.天球のハーモニー
  5.記憶

 となっています。美術に詳しい方ならピンと来るでしょうが、有名な絵画のタイトルが用いられています。そして、その絵画が各章の冒頭に載っています。
 そして、絵画は各章の内容をあらわしています(本当は逆ですけど、読んでいるとそう感じます)。だから、各章を読みながら冒頭の絵を眺めると、頭の中に情景が一気に広がります!

 この絵はすごくイイ!!!

 文庫本にこの絵画が載っているのか知りませんが、これが載ってなければ、この小説の魅力が半減してしまうと思います。


 私が好きなのは、「春」と、「天球のハーモニー」のふたつ。若干世界史の知識があるほうが読みやすいので、老婆心ながら簡単に説明します(笑)

【春】

 舞台は、1871年、シェルブール。
 プロイセンとフランスのいわゆる「普仏戦争」が勃発。プロイセン国王はヴィルヘルム1世、宰相は有名なビスマルク。一方フランスはナポレオン3世(ナポレオンの子孫です)。
 そして、小説に登場する1871年のセダンの戦いにおいて、ナポレオン3世は捕虜となり、フランスは敗北、フランス第二帝政は崩壊。勝ったプロイセンはドイツ帝国となりビスマルクの指導の下、外交を駆使し富国強兵を目指すことになります。

  「ついに、私のエリザベスに会う。
 魂は全てを凌駕する。時はつねに我々の内側にある。
 命は未来の果実であり、過去への葦舟である。


 物語は、ある画家が、ある春の日に、普仏戦争に参加し傷を負った青年と出会い、彼の話を聞くというもの。その青年は、たびたび夢に登場する「エリザベト」という女性を待っていたのだった。
 長い間(世代を超えて)待ち続けたふたりが逢うのは、ほんの一瞬。決して結ばれることのないふたり。別離の痛み。
 切ないけど、結構甘めなラブストーリーです。

【天球のハーモニー】

 舞台は、1603年、ロンドン。イギリス王エリザベス1世の時代のお話。
・エリザベス1世
 テューダー朝最後の王であり、ヘンリ8世とアン・ブーリンの娘。スペイン無敵艦隊を撃破するなど、イギリスが世界の覇権を握った、イギリス絶対王政最盛期の女王ですね。生涯結婚せず、子どもをもうけず、「処女王」と言われた方。彼女の死後、世継ぎがいないためテューダー朝は断絶、スコットランド王ジェームス6世がジェームス1世となり即位し、ステュアート朝が成立しました。
・アン・ブーリン
 ヘンリ8世の2番目の王妃。ヘンリ8世の正妻は、カザリン・オブ・アラゴン(スペイン国王の娘さん)で、アン・ブーリンはカザリンの侍女でした。まぁ、、、ありがちですな。王様が侍女に手出しちゃったわけです。アン・ブーリンは男子を産めなかったため、ヘンリ8世の寵愛を失い、不義密通の罪で処刑されてしまいました。
・メアリ1世
 ヘンリ8世とカザリンの娘。イギリス国内の新教徒を大弾圧し、「ブラッディ・メアリ」とあだ名される方です。「メアリ義姉さん」として小説に登場します。
・エドワード6世
 ヘンリ8世と、3番目の奥さんジェーン・シーモアの子。1603年の段階ではすでに死亡。王位は、ヘンリ8世→エドワード6世→メアリ1世→エリザベス1世と継承されました。
・キャサリン・パー
 ヘンリ8世の最後の王妃。私生児の身分に落とされていたメアリ、エリザベスの身分回復を嘆願。かなりの才女。
・キャサリン・ハワード
 ヘンリ8世の5番目の王妃。アン・ブーリンの従妹。前の恋人との付き合いが絶えず、1540年に不義密通で処刑された。キャサリンは逮捕前にヘンリー8世に嘆願をしたが聞き届けられず、断頭台に消える。
・ロバート・ダドリー
 エリザベスが愛した男。エドワード6世死後、ロバートの父ジョン・ダドリーはエドワードの妃ジェイン・グレイを王位に擁立するが失敗、「九日女王」と呼ばれる。ジョンとジェインは翌年処刑。単行本P196のジェインとは彼女のこと。
・フェルディナント1世
 神聖ローマ皇帝でもあり、スペイン国王でもあったカール5世の弟。ハプスブルク家。カール5世の次の神聖ローマ皇帝。ちょい役ですが一応(笑)

 うわ・・・解説長(笑)
 調べ始めたら止まらなくなりました(爆)
 もっと調べたければ、各人名で検索すればいっぱい出てきます。

 エドワードとエリザベスの時を越えたつながりを生み出したときのお話。2人の輪廻を超えた愛がどのようにして生まれたのかという場面です。
 「from E.to E. with love」という縫い取りのある白いハンカチの謎も解けます。
 なるほど、ここにスタート地点を持ってきましたか!という印象です。

 そして、ラストの「記憶」は、エンディングにふさわしい作品。何故かは読んでみてのお楽しみ。ちょっと救われた気分になります。

 で、結局、エドワード・ネイサン博士はどこに行ったんだ?という疑問は残りつつ、、、結構面白かったです。
 私は真正面からのラブストーリーは少し苦手ですが、これはすんなり読めました。激甘でベタベタなラブストーリーじゃなかったからかな。
 時を越え、時間を越えて、ほんの一瞬だけ交わるふたりの人生。それでも、

 「あなたに会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ」

 と言わしめるふたりの出会い。恩田作品の中ではやや異色の作品ですが、これはオススメ。特に女性はグッとくるかも。


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