ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

楽家一子相伝の芸術

2017-05-18 01:12:14 | 徒然の記

 「茶碗の中の宇宙」と題して、国立近代美術館で、楽家の抹茶茶碗の展覧会が催されています。私は無粋なので、茶や花など、高尚な芸道に興味がありません。絵画の展覧会にしましても、行けば何点か惹かされる作品に出会いますが、わざわざ足を運ぶ気になりません。

 要するに私は、あまり言いたくないのですが、美を鑑賞する心や眼力がなく、かなり狭い世界で生きている人間です。「牛に引かれて善光寺参り」という言葉がありますが、今回も、牛に引かれて美術館詣でをいたしました。(牛は、もちろん家内です。)

 楽家の初代は「長次郎」ですが、二代以降現在の十五代に到るまで、「吉左衛門」という名前が受け継がれていきます。館内には、代々の当主の作品が並べられており、圧倒される品数でした。照明を落とした展示室の台に、ほのかに照らされる無数の抹茶茶碗を眺め、どれも同じものにしか見えない私は、退屈を友として時を費やしました。

 一方家内は、何がそんなに面白いのか、近づいたり離れたり、ためつすがめつ作品を眺めていました。所在ない私は、茶碗と一緒に、不思議な家内の姿を眺めて過ごしました。

 「もうひとつ、工藝品館で、動物の作品展がある。」・・・そう言ってわが牛君は、歩いて20分離れた会場へと私を引きつれました。黒田辰秋、荒井照太郎、喜多川平朗氏などなど、およそ聞いたこともない芸術家たちの作品が、第一室から第六室まで、うんざりするほど展示されていました。

 しかし私は、今度は退屈しませんでした。なんとこの建物は、旧近衛師団の司令部庁舎でした。玄関脇の石碑に、明治43年の建造と刻まれていました。最後の御前会議で昭和天皇が終戦の決意を述べられ、お言葉が全国放送のため録音されました。この時陛下の放送を阻止しようと、戦争継続派の近衛師団兵の一部がクーデターを起こし、反対した近衛師団長の森中将が、一人の将校に拳銃で射殺されました。

 その歴史を刻む場所が、この工藝品館だったのです。心を強く動かされ、私は退屈する余裕を失いました。「師団長室は、どこにあったのですか。」「近衛師団の反乱を知っていますか。」私は、館内のあちこちにいる職員に質問しました。若い女性ばかりでしたが、答えはみな同じでした。

「そういう事件については、聞いております。「質問される方も、時々おられます。」「しかし現在、当時のまま残っておりますのは、建物の外観と、内部の階段だけです。」「工藝品館になる前には、別の用途で使われておりましたので、内部は何度も改装されています。」「当時のことは、もう誰も知りません。」

 残念でしたが、気持ちの高ぶりの抑えられない私は、持参したカメラで、建物の外観や内部の階段など、これでもかと思うほど写しました。

「お父さんと私は、感動するものが違うのね。」帰る道すがら、憐れみとも感心したともつかない顔で、家内が呟きました。歴史を知る作業に心を傾けている今の私には、何を言われても気にならない寛容さがあるのです。今日は、有意義な一日でしたし、元気も出てきました。だから、大きな声で言いましょう。

 「牛君、ありがとう。」

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