風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』

2014-11-07 20:04:46 | 特撮映画
 



                       


前回ご紹介した『フランケンシュタイン対地底怪獣〈バラゴン〉』の、一応の続編のようではありますが、完全な続編とも言えないようです。

前回出演したニック・アダムスと高島忠夫は、それぞれラス・タンブリンと佐原健二に交代。水野久美の役名も、前回は戸上、今回は戸川と、近いけれどもやはり違う。

抑々、フランケンシュタインのデザインそのものがまるで違います。前作は海外の映画に登場するフランケンシュタインに近づけたデザインでしたが、今作ではまるで猿人みたいです。そのまま続編として位置付けるには抵抗がありますね。

まあですから、似て非なる世界。パラレル・ワールドの世界だとでも解釈しておきましょう。




フランケンシュタイン誕生の経緯については、前作ですでに描いておりますので、今作では徹底的に怪獣対決モノに特化した作品作りに集中しています。そこに水野久美らのドラマが彩りを添えるといった展開。ですからドラマ部分は薄くならざるを得ないのですが、かといって決しておざなりではない。その辺のバランス感覚は流石の本多演出です。







どうやら山に逃げ込んだフランケンシュタイン(以後サンダと呼称)から剥がれ落ちた細胞が海に流れ着いて、海の栄養分を吸って成長し、もう一体のフランケンシュタイン(以後ガイラと呼称)なったようです。

サンダは人間に育てられた記憶がありますから、人間に対しては好意的で、どんなに忌み嫌われても人間を襲うことはしません。しかし一方のガイラにはそんな考えは微塵も無い。漁船を襲っては人間を食い、羽田空港に上陸しては人間を食う。大変危険極まりない。



この羽田空港のシーンをはじめ、この頃の作品辺りから、合成ショットの出来が格段の進化を遂げていますね。

この作品が制作されたのは昭和41年(1966)。この年には、円谷プロ制作による歴史的な特撮テレビドラマ、「ウルトラQ」及び「ウルトラマン」が放送されています。

円谷プロ社長にして特技監督の円谷英二氏は、テレビ放送に合わせて、今までよりも短時間で、クオリティの高い合成ショットを得るために、アメリカのオックスベリー社製のフィルム合成用の機械「オプチカル・プリンター」を購入します。

しかし円谷プロに、そんな機械を購入できるほどの資金はなかったんです。

いかにも職人らしい円谷監督のエピソードではありますが、社員の立場としてはたまったものではありません。

オックスベリー社に連絡してみると、すでに船に積み込んだ後で、オプチカル・プリンターは太平洋上を一路日本へ向かっており、もはやキャンセルは不可能でした。

困った~。どうする!?

ウルトラマンなどの一連の作品は、TBSで放映されます。TBSには円谷英二監督の長男、一氏が社員として在籍しており、そのつてを頼りに、TBSに資金援助を頼み込みます。TBSはオプチカル・プリンターをTBS社屋内に設置することを条件に、承諾します。

かくして、事なきを得た円谷プロでありました。

笑える話ではないような、でも笑ってしまいますね。

と、ここまでオプチカル・プリンターの話をしてきましたが、この映画においては、このプリンターは使われていないようです。なんじゃそりゃ!(笑)

「東宝セパレーション」という、東宝特撮合成部門の方達が独自に開発した手法のようです。

同じ円谷英二監督が関わっていても、東宝と円谷プロとは、手法が違うんですね。






合成も素晴らしいですが、この作品における特撮ショットの白眉は、なんといってもやはり、「メーサー殺獣光線車」でしょう。



ガイラ討伐のため、自衛隊の新兵器メーサー光線車が出動します。このシーンがいいんです。私、大好きなんですよ。

森の木々の中に隠れるガイラへ向けて、メーサー光線が発射され、光線が命中した木々が次々となぎ倒されていく。

この倒れていく木々と光線との合成のタイミングが素晴らしい。森の木々のミニチュアには一本一本爆薬が仕掛けてあって、それを「三味線」と呼ばれる連続爆破用の装置に繋いで、連爆させていくわけです。そこへ作画合成でメーサー光線が合成されていく。このタイミングがピッタリで一分の狂いもないんです。しかもカメラは動き回るし、そこへさらに伊福部先生の音楽が加わり、より一層、場面を盛り上げていきます。

もうたまりません!(笑)東宝特撮映画史上に残る、名場面中の名場面です。

機会があれば、是非にも御覧いただきたい。








サンダとしては、一応の兄弟であるガイラをなんとか改心させたいのですが、ガイラはまったく言う事を聞いてくれない。ついには恩人であるはずの戸川女史(水野久美)をも手に掛けようとする。

やむを得ずサンダはガイラと戦います。身長の設定が20メートルですから、他の怪獣映画に比べてミニチュアの作りが大きい。他の怪獣映画にはない、ダイナミックな破壊が鑑賞できます。

互いに組み合ったまま海へと落ちて行くサンダとガイラ。そのまま遥か沖合まで流れて行く。

と、そこへ突然、海底火山の噴火が…。

噴火に呑みこまれていくサンダとガイラ。果たして

死んだのか…。






東宝特撮映画の全盛期が昭和30年代なら、この40年代初頭は円熟期であるといえます。

その円熟期の最高傑作こそ、本作であると言い切れるのではないかと、私は思いますね。


東宝の怪獣が持つ物悲しさは本作でも健在。出演者の皆さんの演技も素晴らしい。

佐野史郎さんがおっしゃっていたのですが、昭和の怪獣映画の俳優の方々は、皆「上品」な演技をされるそうです。それは平成の役者にはないところなのだとか。

昭和と平成の違いというのは、思った以上に色々な所に現れているのかも知れませんね。

それを確かめてみるのも、一興かな。












『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』
制作 田中友幸
   角田健一郎
脚本 馬淵薫
   本多猪四郎
音楽 伊福部昭
特技監督 円谷英二
監督 本多猪四郎

出演

佐原健二
水野久美
ラス・タンブリン(声・睦五郎)

田島義文
伊藤久哉

沢村いき雄
山本廉
西城康彦

キップ・ハミルトン
桐野洋雄

中島春雄
関田裕

中村伸郎

田崎潤

昭和41年 東宝映画








              

                     

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4 コメント

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Unknown (美樹枝)
2014-11-09 02:57:00
はや記事にしてくださり有り難う御座位ます。 リクエストされたアンノウンさんも、ご覧になられたかな?     神話の海幸彦と山幸彦のようです~。  特撮とは違いますが、明日、ご近所の仲良い御家族と、USJのバイオハザードやハリ-ポッターのアトラクションに行く予定でした。…都合で行けなくなり残念。和製ものとは、また違った刺激や怖さや楽しさ、迫力にも溢れているでしょう。でも…   サンダやガイラの怪物もの? 一見イロモノ的な映画… だからこそ日本映画は情緒や怪物側の哀しみや、役者さんの品性までもが、より洗練されているのかな… 薫にいさんが以前に貼ってくださった動画から、その光線の特撮場面を拝見しました。詳しくないわたくしにも、言い方変ですが~美しい場面でした~
Unknown (薫風亭奥大道)
2014-11-09 08:10:50
美樹枝さん、バイオハザードは怖いよ~。
日本の怪獣と海外のモンスターとは、まったくの別モノです。いずれその違いについても考察してみたいな。
Unknown (玲玲)
2014-11-10 20:51:26
上品、そうこれを芋掘りしながら今日考えてたのです~。
西村 晃さんとかダンディーで奥様が泣くなられた時とか遺体に口づけをしたとか、いろんな逸話を聞きますが奥様も西村さんも純粋に元々が高貴でするべきことをしてたんだよな~とか。
永井一郎さんとかも、いつもスーツで現場に来ていたとか、波平さんはサラリーマンだし、役に敬意をはらう人だったのよね~。
私はまだ仕事をしてやっているぜ、とさせて頂いてます、がギッコンバッタンですが。
この映画はそんな香りもするのですか?
見ようかしら?
Unknown (薫風亭奥大道)
2014-11-10 21:59:34
玲さん、上品、下品という言葉は元々仏教用語だそうですね。これも調べてみると面白いです。色々思うところもあります。
円谷監督もダンディーな方で、常にネクタイを締めて撮影に臨んでいたとか。特撮のスタジオは普通の撮影よりも大量のライトが必要ですから、スタジオ内はメチャメチャ暑い!それでも夏場でもネクタイをしていたそうです。
本多監督は穏やかな方で、怒鳴ることがなかったそうです。その本多監督作品常連の俳優さんたちの中には、「本多組」といって、監督と個人的にも親しくしている方々がいて、そういう方達の持っている空気みたいなものは、やはり映像にも出ているのかも知れません。

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