風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

映画『大殺陣』 昭和39年(1964)

2017-07-08 03:29:54 | 時代劇










世は徳川三代将軍家光の治世。大老・酒井忠清(大友柳太朗)は、家光の三男で「甲府宰相」と謳われる徳川綱重(可知靖之)を時期将軍に擁立し、天下を想いのままにしようと企てます。これを阻止するため、軍学者・山鹿素行(安部徹)は密かに人を集め、酒井暗殺を計画するのです……。


********************


昭和38年公開の映画『十三人の刺客』において、いわゆる「集団抗争時代劇」という新たなジャンルを確立させた、脚本・池上金男、監督・工藤栄一のコンビによる第二段作品。前作『十三人の刺客』においては、御大・片岡千恵蔵の下、刺客たちは一致団結して事に当たり、敵方とのスリリングな攻防が見せ場となっていましたが、同じことを二度やっても意味はない。


本作においては、刺客たちは表向き「天下万民のため」という大義名分を掲げてはいますが、その思惑はバラバラで、とても一致団結そしているなどとは言えない状態です。

主人公・神保平四郎(里見浩太朗)は、妻を殺され、平穏な生活を奪われた私怨から企てに参加するのであって、天下万民のためなどというのは二の次なんですね。他のメンバーも、日頃の恵まれない生活からくろ不平不満と、抑えきれぬ破壊衝動、暴力衝動とそれにともなう「怯え」と、そうしたものを「天下万民のため」とスローガンに無理矢理包みこんで事を行おうとしているわけです。


メンバーのまとめ役である星野友乃丞(大坂志郎)はおだやかな御家人でしたが、生活は困窮しており、妻子を満足に食べさせることも出来ない。これも御政道に過ちがあるからだと、天下万民の安寧と、御政道を糺すため企てに加担したわけですが、暗殺決行の前夜、その妻子を手にかけ、一人暗殺現場へと向かいます。

星野はこのあと、斃れるまでずっと、妻子を手にかけたことを気にし続けるんです。自分がしたことは果たして正しかったのか悩み続け、切れた草履の鼻緒を結べぬほどに手が震えているんです。


この男、本当はただ単に、生活苦から逃れたかっただけなんじゃないだろうか?死を選ぶきっかけが欲しかっただけなんじゃないだろうか?

そんなことを思わせますね。



また、メンバーの一人である日下仙之助(山本麟一)は、恐怖心から逃れるために宗教に走り、ついには摩利支天のお告げがあったと口走りはじめ、頭がおかしくなってしまう。そうして山鹿素行の姪であるみやを犯し、抵抗されるとこのみやの首を絞め、縊り殺してしまう。


他のメンバーも似たり寄ったりで、全体的に寒々とした空気が漂っている感じがします。




暗殺に参加するメンバーは上記の者達を含めて僅か六名。これでは警固の厚い酒井を討つのは難しい。そこで山鹿の立てた計画は、酒井を襲うと見せかけて、実は綱重を討つ、というものでした。


酒井が推戴する綱重を亡きものとすることで、酒井の権力基盤を奪い、失脚させようという計画でした。





この映画が製作された時期というのはちょうど安保闘争華やかなりしころでした。私はこの作品における「刺客」たちの姿に、安保反対を叫び、過激な方向に走っていった学生たちの姿がタブって見えるんです。

実際、本物の安保反対デモの音声を入れ込んでいるシーンもあって、当時の世相を相当意識していたことは確かなようです。


刺客たちの中から、弱気になって仲間を売ろうとする者がでてくると、彼らはその男を「粛清」しようとするんですね。しかし人を斬ったことがない者たちばかりだから、なかなか致命傷を与えることが出来ずに逃げられてしまう。


裏切り者には死を。有りがちな事ではありますが、これを見ておりますと、なんだか連合赤軍による集団リンチ殺人事件や、あさま山荘事件へと暴走していく彼らの姿を予見しているかのように、私には思えてならない。





さて、暴れ馬を使って綱重の行列を新吉原へと追い込み、刺客たちは一挙に斬りこんでいきます。ここには『十三人の刺客』のような練りに練った仕掛けもなにもなく、ただただ闇雲に、ほとんど自暴自棄といってもいいような突撃で、いかに不意を突いたといっても所詮は多勢に無勢、刺客たちは次々と斃されて行きます。

川の中、泥の中で展開される血みどろの闘争劇。ハンディカメラによるブレまくりの映像が、この闘争シーンの凄まじさを明確に物語っています。

主人公・神保平四郎もついに敵の刃にかかります。文字通りメッタ斬りにされ、血塗れになって死んでいく神保。


里見浩太朗先生があんな悲惨な姿に!テレビ時代劇の華麗な里見先生のイメージしかない方々には、衝撃的なシーンではないでしょうか。なかなか見られませんよ(笑)





計画失敗!九死に一生を得た綱重のもとへ、酒井大老とその腹心、北条氏長(大木実)が見舞いに訪れます。神保らの遺体を横目に、嗤いながら去って行こうとする綱重一行。


と、そこへさらなるどんでん返しが!




********************



『十三人の刺客』が、闘争のカタルシスを描いた傑作なら、こちらは闘争の虚しさを描いた傑作だと云っていいでしょう。



一筋縄ではいかない映画です。でも



面白い。









『大殺陣』
脚本 池上金男
音楽 鈴木静一
監督 工藤栄一

出演

里見浩太朗

大坂志郎
河原崎長一郎

三島ゆり子
赤木春恵
宗方奈美

山本麟一
成瀬昌彦
砂塚秀夫

稲葉義男

可知靖之
大木実

安部徹

大友柳太朗


平幹二朗

昭和39年 東映映画
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4 コメント

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Unknown (チャメゴン)
2017-07-08 06:47:21
「大殺陣」ですか、覚えておいてテレビ放映があったら見てみますね!
昨日BSで、「忠臣蔵」があったので見ました。でも気がついたのが1時間も経っていたので話半分でした。また改めてきちんと観ますね。良い映画でした。
Unknown (Sarasz)
2017-07-08 20:23:55
50~60年代の時代劇映画に主演されていた方々は、テレビの「お茶の間時代劇」に移行していった時期に、いろいろと思うことはあったと思うのです。
さらに今、この映画界、テレビ界を、どう思ってらっしゃるんでしょうね…。

殺陣にしても、アイドル女優さんの殺陣はスローモーション映像だったり。
わりと売れた時代劇は武士の「家計簿」とか「献立」とか「参勤交代」とかだったり…。いや、それはそれで悪くはないのですが。(^^;

私、あさま山荘事件や連合赤軍関係の本とか映画って、生理的に拒否感があって、一切手にしたことがないんです。
あと、太平洋戦争ものもすべからくダメなんです。どうしても…。
なんか胸がジクジクするんです…。

Unknown (薫風亭奥大道)
2017-07-09 07:36:44
チャメさん、忠臣蔵、誰が主役だったのかな?いっぱいあるからね(笑)今度は最初から観てね~。
Unknown (薫風亭奥大道)
2017-07-09 08:03:45
Saraさん、良い時代劇が見たいですね。
工藤栄一監督はたぶん、心情的にはデモを行っている側に傾いていたんだと思う。でもこういう行動に駆り立てられる人たちの心理をよく理解していて、必ずダメになることも分かってたんだろうね。最後のどんでんがえしで、平幹二朗さんが突然……という展開になるんだけど、あれはせめてものレクイエムだったんだろうなあ。
肌が合わないものはあるよ。無理しない。

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