風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

『鬼平犯科帳』第一シーズン第15話 「あきれた奴」

2017-09-01 04:04:38 | 時代劇





鬼平犯科帳の中から、私が特に良いと思ったエピソードを、折に触れて、順不同で紹介していきたいと思います。



私は特に第一シーズンへの思い入れが強いので、どうしても第一シーズンからの選択が多くなるかとは思いますが、その点はご了承のほど。


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「あきれた奴」 脚本、保利吉則 監督、大洲齊




火付盗賊改方同心・岡村(中村橋之助)は、奥方が出産するという日に、捕物があったため立ち会うことができませんでした。

奥方は死産し、その奥方もそのまま帰らぬ人となってしまいます。以来岡村は、その無念の想いを吹き払うかのようにお勤めに精を出し続けます。



そんなある日、岡村は幼い子諸共橋の上から身投げをしようとしていた母子を助けます。

母・おたか(長谷直美)と子を軍鶏鍋屋・五鉄へ連れて行く岡村。岡村は居合わせた密偵・おまさ(梶芽衣子)に、女同士なれば訳を話してくれるやもしれぬと、おまさに母子の身の上を聞き出してくれるよう頼みます。

五鉄の三次郎(藤巻潤)の作った里芋の煮つけを食べて、身も心も温まったおたかは、おまさに訳を話します。


実はおたかは、岡村が先日捕縛した盗賊、鹿留の又八(平泉成)の女房だったのです。



又八は盗賊を引退し堅気になっていました。しかし盗賊時代に世話になった人物から、その人物の身内の「一人働き」の手助けをしてくれないかと頼まれ、義理硬い又八は断ることができずに引き受けてしまう。

しかし、その男が押し込み先で、しなくてもいい殺人を犯してしまう。男は逃走し、又八一人が捕らえられてしまいます。

非道を行った男とはいえ、そこは盗人の義理がある。又八はどんなに攻められても、逃げた男のことを話そうとはしませんでした。


岡村は牢内にいる又八に、女房子供の状況を聞かせます。そして女房子供に合わせてやるから、代わりに逃走中の男のことを話してくれないかと持ち掛けます。


又八を外に連れ出す岡村。二人が橋の上に差し掛かったとき、又八が川に身を投げ逃走します。それを黙って見つめる岡村。


又八とおたかは再開します。又八はそれ以上逃亡するつもりはなく、一目女房子供に会えたらそれで満足でした。いずれ岡村が自分を捕まえにくるだろうと待ち続ける又八ですが、岡村は一向に現れない。又八は気づきます。岡村は自分に「賭けた」のだと。


岡村は自らの不行跡の責めを負い、牢に入ります。与力・天野(御木本伸介)が平蔵(中村吉右衛門)に処分を求めますが、平蔵はしばらく放っておくように指示、岡村が牢に入ったまま、半年もの日々が過ぎ去ります。


そうして半年後、大八車に積んだ棺桶を曳いた又八が、火付盗賊改役宅の前に現れます。棺桶の中には逃走した男が縛り付けられていました。

又八は半年かけて、逃げた男を捕まえ、戻ってきたのです。



牢の中の岡村と再会する又八。


岡村「お前って奴は……どこまで義理固い男なんだ」

又八「なあに、旦那とチョボチョボでございますよ」




又八には遠島7年の裁きが下されます。おたかは待ち続けることを決心。それを優しく見守る岡村とおまさ。


さらにその様子を遠くから見守る平蔵の姿がありました。

-END-


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止むを得ぬ事情から盗賊に身を落とした男たちですが、そういう者達はときに、堅気以上に義理や恩義というものを大切にします。その侠気に賭け、信じ切った同心岡村と、その思いに答え、女房子供に合わせてくれた恩義に報いるために戻ってきた盗賊又八。

同心と盗賊という垣根を越えた、静かだが一本芯の通った「男」のドラマだといっていいでしょう。

いかにも無骨で叩き上げといった風情の平泉さんと、当時まだ20代の橋之助(現・中村芝翫)さんの真っすぐさとの絡み合いが素晴らしく、配役の妙というものを感じます。


五鉄の三次郎さんの出してあげた里芋の煮つけとか、おまささんが外で遊んでいるおたかの幼子に、そっと飴を渡してやる場面だとか、非情な盗賊の世界にあって、市井の人々の温かさがほのぼのと感じられる名編でもあります。



鬼平さんは見守るだけで、本編にはほとんど登場しませんが、しかし鬼平さんなしには、この物語は成り立たない。


よくできてます。