無事に、というか大学の全ての行事も終わり2月になった。そろそろブログ更新も再開しなくちゃと思うのだが、どうにもネタが思いつかない。2012年はまだ始まったばかりとはいえ、これから国内・国外ともに何が起こるか分からないというか、行く手に魑魅魍魎が跋扈しているような不気味な暗さを感じる。そもそも2011年3月11日以降予想を超えるような現実の前に,予定調和の世界に安住する大半の日本人は何も言えずに立ちつくしているようである。野田佳彦が首相をやってるなんて一年前誰が予想しただろうか?いわんや野田の次の首相をや、である。「戦後」をリードした人は次々と鬼籍に入り、私たちは今、巨大な時代の変わり目にあるのだ。
つい最近の1月13日にはグスタフ・レオンハルトも死んじゃったし。クイケン兄弟とかカーティスとかあのへんの古楽はどうも苦手で、今まで全然聞こうとしてこなかったんだけど、やはり戦後の一時代を築いた立役者であることは間違いない。というわけで本職のチェンバロではないとはいえ、残念ながらいままで全く持っていなかったレオンハルトもので手頃なCDを中古で拾ってみた。こういう時中古屋がそばにあるってのは便利だなあ。これについては近々取り上げるつもりだ。
ま、今回取り上げるのは前にも予告したルセ/ジャンスの「tragediennes3」なんだけど。このところ心躍らされるCDが少なくていまひとつ「予定調和の楽しさ」ってレベルのブツばっかりだったんだけど、こういういわゆる「名曲」ばかりじゃなくて未知の領域、それもオペラのレパートリーに分け入っていくような試みは大歓迎で、聞かないうちから胸がザワザワしてきますな。
「クラシック音楽」なんつーと、定番・お決まりの名曲を予定調和的に演奏してはい、おしまいみたいな世界だと世の知ったかぶったオジサンオバサンなんかは思っているかもしれないし、実際その程度の演奏しかできない自称プロ演奏家も日本にはゴマンといるわけだが、ことオペラに関してはやっぱり聴き手を本能的に揺さぶるようなパワーが必要であり、音楽家の真の実力が試されるものであると思う。今日本でまともなレベルのオペラ、いや歌舞伎でもミュージカルでもいいけどそのような聴き手の魂を揺さぶるような真の音楽を耳にすることができるだろうか?恐らくないだろうね。
一流と三流を聞きわける耳さえ持たず、やれスノッブ的な専門用語をまきちらかして「文化」だ「げー術」だの語る人たちにはウンザリである。そして無粋な多くの一般人はテレビのバラエティ番組程度しか理解できず、芸術はますます一般大衆から隔絶され干からびた知識階級どものオモチャになるのである。やれやれ........公営オーケストラの削減論とかこのところかまびすしいわけだが、どうせ明るい未来も開けないんだし民営化なりなんなりしちゃったらどうだね。もしくは橋下や石原をテーマにした新作オペラでも上演してみるとか。話題にもなるし日本の怠惰な音楽・芸能界に風穴をあけられると思うんだが(笑)
ついつい脱線してしまったが、やはりオペラはいい。ちゃんとオペラのツボというものを理解した人たちが揃うととんでもないレベルの感動をもたらしてくれるものである。このところオペラ全曲新たに聞くような気力もなくてこういうアリア集を手頃に楽しむほうがいいものだと思えるのだが、やはりオペラは全曲通しで味わってこそである。ついさっきもシャイー指揮のロッシーニ「イタリアのトルコ人」に聴き入ってしまった。このレベルのクオリティでロッシーニほか全てのベルカントオペラが楽しめればいいけど、なかなかそうはいかない。
で、今まで定番にこだわらない意欲的なプログラムで、フランスのオペラの歴史をたどってきたジャンス/ルセのこのシリーズも、もう最終の第3弾まできてしまった。ジャケットにある通り今回はロマン派のヒロイン、ということで19世紀作品が中心、後半の収録曲ではベルリオーズに加えて、マイヤベーアやマスネーまで取り上げてしまっている。こうなりゃ買うしかあるまい、としか言いようがないラインナップである。前回にも増してレアな作曲家・レアなオペラのオンパレードでもあるし。
ただ、二人とも古典派以前がホームグラウンドという事で、いまいちロマン派の演奏にはぴったりとはまっていないような気がするんだけどね。ジャンスの声も聞き苦しいレベルではないとはいえ大分年とってキレがなくなってきたような感じも否めない。
それでもやはりこの人の歌いっぷりというのはいつものように素晴らしく、「プロ」だなあ〜ってしみじみ思うんだけれど。瞬間的な声の色香で聴かせるような歌手もいいけどジャンスは演技力も含めて総合力で感動をもたらしてくれる人である。
曲の方だけど、一曲一曲詳細に書いていくような知識はないし時間もない。グルックの「トーリードのイフィジェニー」以外は前半の曲はどれも未知のオペラばかりである。聞きどころはやはりグルックとその弟子であるサリエリの「ダナオスの娘たち」だろうか。とはいってもサリエリは序曲のみで、アリアなどは聴けないけど。モーツァルトがらみでいろいろ言われるサリエリだけど、少なくともこの序曲一つとっても高い実力が窺えるし、古典派時代のドニゼッティと言えるぐらいに評価もされていて当然ではないだろうか。サリエリといえばかつてアーノンクール指揮の「劇場支配人」のカップリングで短いオペラの抜粋を聞いたが、なかなか良いものであった。そういえばルセはサリエリの「トロフォーニオの洞窟」とかいうブッファの録音があるんだったな。そのうち入手する機会があればいいが。
そのほかゴセック、メユールといった革命期の中途半端にメジャーな?作曲家のアリアも収録されている。メユールといえばかつてクリスティ指揮の「ストラトニス」というオペラを聞いたが、純フランス的な抒情的オペラ・コミークを得意とした人だろうか。ある意味ビゼーとかもこの系譜に属するのかもしれないが、個人的に全くピンとこない作曲家である。今回の「アリオダン」のアリアも大して心に響く事のない小物って感じがする(笑)ミンコフスキ指揮の交響曲は未だに聴いた事ないし、小物は言い過ぎなのかもしれないが。
ゴセックの「テゼ」これも全然知らないオペラだが、1782年と革命前のトラジェディ-リリクでリュリやヘンデルのと同じ筋書きの魔法使いものなのだろう。敵役のメデが歌うアリアはクライマックスのものなのだろうが、かなり盛り上がる。
バロックの延長のようなゴセックの後はいきなりマイヤベーアの「預言者」で、いきなり空気はロマン派に一変する。個人的にマイヤベーアやオーベールが活躍し、ドニゼッティやヴェルディといった外国人がこぞってグランドオペラを作曲したこの時代こそフランスオペラの全盛期だと思うのだが、いまいち当時の代表的人物であるマイヤベーアの人気はぱっとしない。「預言者」もこの短いアリアで聴く限りとても良い曲なのに。ルセ指揮のオーケストラももうちょっとコテコテに盛り上げてくれた方が作風にあっているかもしれないが。
前作の「2」につづきベルリオーズの「トロイアの人々」からの音楽の後はさらに時代が下りサン・サーンス「ヘンリー8世」、マスネ「エロディアード」といった、時代としては後期ロマン派に属する人たちによるアリアが登場する。
ワーグナー以降のコテコテのロマン派は嫌悪する自分(ヴェルディ、プッチーニも同様)としてはこの辺の作曲家のオペラはなかなか手を出しづらいところがあるのだが、どちらもコテコテのロマン派、でも素直に楽しめる曲で感動ものであった。
マスネーといえば「タイース」やピアノ協奏曲などこの時代にしてはベルカントを引きずったような「歌」や茶目っ気もあり物凄く魅力的な作曲家だと思っているのだが、ライバル(?)のサンサーンスも負けていない。有名なピアノ協奏曲なんか聞くと時代遅れの化石作曲家(失礼)にも思え全然魅力を感じないのだが、ここに収録された「ヘンリー8世」の音楽のなんと繊細で官能豊かな事よ。ちょっと見直してしまったぞ。
最後に何といってもこのCDの最大の聴きどころであり、これだけのために買っても損はないだろう、といえるのがヴェルディ「ドン・カルロ」からの一曲。ヴェルディといえばもちろんコテコテのイタリアオペラの作曲家なんだけど、この「ドン・カルロ」「シチリアの晩鐘」といった作品はパリ・オペラ座のために書かれたというのは有名な話ですよね。
ヴェルディといえば「トラヴィアータ(椿姫)」「仮面舞踏会」では音楽のあまりの陳腐さに失笑(または眠気)をもよおし、かろうじて「運命の力」は楽しめたってぐらいに苦手な作曲家なんだけど、どちらかというとこれのようなグランド・オペラ形式の作品の方が楽しめるのかもしれない。この「ドンカルロ」のアリアは何度聞いても素晴らしく、はじめて?ヴェルディの音楽で感動してしまった。やはり演奏家の力というか、古楽出身の音楽家ということもあろうが言葉に即した音楽の自然な盛り上がりを会得してるからこそだよね。逆にいえば普通のヴェルディ演奏がいかにワーグナー・プッチーニ的な後世の歌唱スタイルによって汚されてしまったというのも言えるのかもしれない。実際はこのジャンス・ルセのようなベルカントの延長線上にあるようなスタイルこそヴェルディの本来の姿なんだろう。ロマン派らしく何とも雄大で感動的なメロディーはほんとうに素晴らしい。やっぱりオペラはいいなー。
ただ、バロック中心の第1弾から聴いてきて残念に思うのは、ルセ指揮のオーケストラにあまり華がないこと。作品の解釈的に問題があるわけじゃないんだけど、どうもオペラらしく肉汁があふれんばかりのゴージャスな興奮を味わうという点ではやや物足りなく、virginにしてはマシな録音にもかかわらず、バレエ音楽等器楽パートではかなりの不満を感じてしまうのもまた事実。
ミンコフスキやガーディナー等、ロマン派のレパートリーでも古楽オケで難なく聴かせてしまう人もいるが、いまいちこのルセたちの演奏はイマイチこなれていない感じを受けてしまう。特に舌っ足らずな木管楽器を聴いていると、ちょっとモダンオーケストラでもいいんじゃないか、と思えるのも事実であって。このルセの色気のなさというのは師匠のクリスティゆずりで昔から変わらないんだなー、と思ってしまう。オワゾリール時代の初期の録音に始まって貴重なオペラを取り上げる事が多いルセだけれど、いまひとつ個人的にそれらに手が伸びる事がないのもそういうのが一因にあって。
ま、なんだかんだいっても2011年発売の新譜のなかではかなりのヒットである事は間違いないですが。やっぱりオペラは素晴らしい!!