荻野洋一 映画等覚書ブログ

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原田マハ 著『暗幕のゲルニカ』

2016-10-13 01:44:23 | 
 原田マハの新作『暗幕のゲルニカ』(新潮社)は帯文に「圧巻の国際謀略アートサスペンス」とある。たしかに、ピカソを専門領域とするキュレーターとしてMoMA(ニューヨーク近代美術館)に勤務する日本人女性の主人公・瑤子を中心に、MoMA、レイナ・ソフィア芸術センター(マドリード)、グッゲンハイム・ビルバオ美術館、国連、ETA(バスク過激派)などが地球規模でからんで権謀術数をめぐらすばかりか、スペイン内戦期の1937年から第二次世界大戦終戦直後の1945年にいたるパリ、オーギュスタン通りのアパルトマン4階(そう、ピカソのアトリエがあった場所であり、ここで大作『ゲルニカ』が描かれた)およびカフェ・ドゥ・マゴ、パリ万博会場といった過去の時空がパラレルに織り込まれていく。そして、大戦期のもうひとりの主人公はピカソの愛人ドラ・マールで、ドラと瑤子が合わせ鏡のような時間構造のなかで気丈に立ち回る。
 まるで映画を見るようなシークエンス処理——「映画を見るような」という紋切り型表現を使ってしまったが、これは2001年の9.11テロの時にさんざ使われた表現だ——は、主人公・瑤子がアメリカ人の夫をワールド・トレード・センターで喪ったことを契機として始動する。そして、著者がWebサイト「shincho LIVE!」のインタビューで語っているように、この小説を書いたきっかけは、次のようなものだという。

「〈ゲルニカ〉には、油彩と同じモチーフ、同じ大きさのタペストリーが世界に3点だけ存在します。ピカソ本人が指示して作らせたもので、このうち1点はもともとニューヨークの国連本部の会見場に飾られていました(ちなみに1点はフランスの美術館に、もう1点は高崎の群馬県立近代美術館に入っています)。しかし事件は二〇〇三年二月に起こります。イラク空爆前夜、当時のアメリカ国務長官コリン・パウエルが記者会見を行った際、そこにあるはずのタペストリーが暗幕で隠されていたのです。私はそれを、テレビのニュースで知りました。」

 主人公・瑤子がMoMAの前にレイナ・ソフィア芸術センターに勤務していたという設定のせいか、それとも『ゲルニカ』が、40年間にもおよぶフランコ総統によるファシスト独裁時代はアメリカのMoMAに避難していた、その「亡命」に寄与したスペイン青年貴族パルド・イグナシオ(架空の人物)に作者が肩入れし過ぎたためなのかは分からないが、本全体として、完全にではないにせよ、ややマドリード寄りに描かれているように思えた。現在ではカタルーニャ語表記が一般化しているジョアン・ミロを「ホアン・ミロ」と古色蒼然たる表記で登場させるあたり、作者の心情を物語っているように思う。だたし、ピカソの『鳩』の絵の真筆がなぜバスクの女テロリストの手元にあるのか、そのからくりは見事と言うほかはなかった。
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