私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Bach: The Notebooks of Anna Magdalena Bach
Nonsuch 79020-2
演奏:Igor Kipnis (Cembalo, Clavichord), Judith Blegen (Soprano), Benjamin Luxon (Bariton), Catharina Meints (Viola da Gamba)

1717年にバッハが宮廷楽長に就任したアンハルト=ケーテン候国は、スイスのジャン・カルヴァンが創設した改革派に属していたため、バッハは教会音楽を演奏する必要がなかった。任務はもっぱらレーオポルト候の求めに応じて、宮廷楽団とともに、あるいは自ら鍵盤楽器を演奏することにあった。そうした任務の傍ら、成長してきた長男のヴィルヘルム・フリーデマンと次男のカール・フィリップ・エマーヌエル、そして弟子達の音楽教育にも力を注いだ。そうした生活のさなか、1720年7月に妻のマリア・バルバラが急死し、1年半後の1721年12月に、同年夏から宮廷歌手として雇われていたアンナ・マグダレーナ・ヴィルケと再婚することとなった。
 そして翌年1722年に、バッハは「アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帖」を作り、記入を始めた。その大半はバッハ自身が記入し、まずフランス組曲の第1番から第5番(BWV 812 - 816)までを書き込み、その後に小曲を4曲と、フランス組曲の追加の2つの楽章(BWV 813-6、814-5/6)が書き込まれている。現在のこの手稿は、フランス組曲の最初の3曲が記入された部分の一部が脱落して、不完全な状態になっており、さらに後半部に約40葉ほど脱落しているところがある。
 この音楽帖の記入が終わった後、一家がライプツィヒに移った2年後の1725年に2冊目の音楽帖が作製された。最初にクラーフィーア練習曲集第1番のパルティータから、第3番と第6番が書き込まれたが、その後には多数の小曲が、その多くはアンナ・マグダレーナによって、さらにカール・フィリップ・エマーヌエルや3男のヨハン・ゴットフリート・ベルンハルト(1715 - 1739)と思われるものなど何人もの筆跡によって記入されている。それらはバッハの作品ばかりでなく、現在もバッハの作品として演奏されることのあるメヌエットト長調とそれに続くメヌエットト短調(BWV Anh. 114 - 115)は、ドレースデンのソフィア教会のオルガニストであったクリスティアン・ペツォルト(1677 - 1733)の作であり、そのほかゲオルク・ベーム、フランソア・クープラン、そしてカール・フィリップ・エマーヌエルの作品や作者不詳の曲が多数ある。記入された曲は、鍵盤楽器のための作品だけでなく、コラールや世俗アリアなども含まれていて、単にアンナ・マグダレーナのためだけでなく、バッハ一家の家庭音楽会を彷彿させる内容となっている。この音楽帖の後半には、アンナ・マグダレーナの手でフランス組曲の第1番全曲と第2番の最初の3楽章が書き込まれ、末尾には通奏低音規則の不完全な記入も含まれている。この通奏低音規則の最初の部分は、1732年生まれのヨハン・クリストフ・フリートリヒによって書き込まれており、さらに1741年か42年に出版されたいわゆるゴールトベルク変奏曲(BWV 988)の主題のアリアもあり、この音楽帖の記入は、1740年代にまで及んでいたようである。
 アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帖、特に1725年に書き始められた2冊目の内容は、上述したようにバッハ家の団欒を反映しているように見えることもあって、多くの録音がされてきた。しかしその大半は小曲を中心とした選集で、全集に近い形のものは、ここで紹介するノンサッチ盤とヘンスラー・クラシックス盤ぐらいだろう。このノンサッチ盤では、イゴール・キプニス(Igor Kipnis, 1930 - 2002)がチェンバロとクラヴィコードを演奏し、ソプラノのジュディス・ブレゲン、バリトンのベンジャミン・ラクソン、ヴィオラ・ダ・ガムバのカタリナ・メインツが加わっている。1722年の最初の音楽帖からは、フランス組曲第5番ト長調(BWV 816)、コラール「イエス、私達の確信」(BWV 728)及びメヌエットト長調(BWV 741)が、1725年の音楽帖からは、パルティータ第3番、第6番及びフランス組曲第1番、第2番以外の全曲が収録されている。イゴール・キプニスが演奏しているチェンバロとクラヴィコードは、何れも18世紀中頃ハンブルクのハース一家の工房で造られたものの複製である。録音は1980年9月と10月にニューヨークで行われ、翌年に発売された。フランス組曲やパルティータは、他に聞く機会があるので、実質的に全曲といって良いだろう。ノンサッチは、LPの時代から、小文字の”n”をデザインした商標で知られていたアメリカのレーベルで、現在もウェブサイトがあるが、従来のマークは使用していないようである。ジャズやクラシックの広範囲のレパートリーがあり、サーチをかけると、” Bach: The Notebooks of Anna Magdalena Bach”というタイトルで、依然としてリストアップされている。Amazon.co.jpなどでも購入可能である。

発売元:Nonsuch

ブログランキング・にほんブログ村へ
クラシック音楽鑑賞をテーマとするブログを、ランキング形式で紹介するサイト。
興味ある人はこのアイコンをクリックしてください。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 2 )


« ノン=メジャー・... もう一つのオルガ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
規約に同意の上 コメント投稿を行ってください。
※文字化け等の原因になりますので、顔文字の利用はお控えください。
下記数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。この数字を読み取っていただくことで自動化されたプログラムによる投稿でないことを確認させていただいております。
数字4桁
 
この記事のトラックバック Ping-URL
 


ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません
 
※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。
 
 
音楽大学,教室,専門,学校を知りましょう (音楽大学,教室,専門,学校を知りましょう)
音楽大学,教室,専門,学校について
 
 
 
BWV508 御身がともにあるならば (The Art of Bach)
「アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳」(イーゴリ・キプニス、ベンジャミ...