私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 



Johann Sebastian Bach: Weihnachtsoratorium, BWV 248
Teldec 8.35022-1/2
演奏:Solist der Wiener Sängerknaben (Sopran), Paul Eswood (Alt), Kurt Equiluz (Tenor), Sigmund Nimusgern (Baß), Wiener Sängerknaben, Chorus Viennensis, Concentus musicus Wien, Nikolaus Harnoncourt (Gesamtleitung)

バッハのライプツィヒ時代の教会カンタータは、カントールに就任した直後の1723年5月30日の三位一体後第1日曜日から1727年にかけて集中的に作曲され、その後はこれらのカンタータを再演し、それらの間隙を埋めるために、折りに触れて幾つかが新たに作曲されたものと考えられている。そして教会カンタータの作曲を終えた後は、ライプツィヒ大学の学生を中心に組織されたコレーギウム・ムジクムの指揮を引き受け、世俗作品を多く作曲するなど、新しい創作時期に入った。その時期に作曲された曲の中には、選帝候兼ポーランド国王及びその家族の誕生日などを祝う世俗カンタータも含まれる。この様な世俗カンタータは、教会カンタータとは違って、1回限りの機会のために作曲されたもので、歌詞の一部を変えて再演する事もあまり期待出来なかった。そのためバッハは、これらの世俗カンタータを教会音楽に転用する事を考えた。
 既存の自作を新たな作品に転用する事は、当時一般的で、そしてバッハ自身にとっても特別な事ではなかった。ライプツィヒで作曲された教会カンタータに於いても、既存の世俗カンタータ、協奏曲や器楽曲の楽章からの転用が多く存在する。
 バッハが1734年のキリスト降誕の祝日に始まる6つの日曜祝日のためのカンタータとして、聖書にキリスト生誕の物語にもとづく連作を構想した際、1733年から1734年の10月にかけてザクセンの王家の人達の誕生日等の祝賀のために作曲した3曲のカンタータを素材として転用する事にした。6つの日曜祝日というのは、キリスト生誕の第1、第2、第3祝日、新年、新年後第1日曜、公顕日(1月6日)である。聖書によるキリスト生誕の物語は、全体を通じてテノールの福音書記者がセッコ・レシタティーヴォで朗唱する。引用されている福音書は、生誕の祝日第1日から新年まではルカによる福音書の第2章第1節から第21節まで、新年後の日曜日と公顕日はマタイによる福音書の第2章第1節から第12節までである。それを挟んで、生誕の物語を敷衍した歌詞にもとづくレシタティーヴォ、アリア、合唱が展開する。この歌詞の作者は分かっていないが、様々な作品の原曲からの転用を行うには、バッハと作詞者の密接な連携が必要であり、それに最も適格なのは、すでに多くのバッハのカンタータの歌詞を著しているヘンリーツィと思われる。しかしこの「クリスマス・オラトーリオ」の歌詞は、ヘンリーツィが出版したカンタータの歌詞集のいずれにも含まれていない。これに加え15のコラール楽章がある。特に第VI部の最後の楽章のコラール楽曲は、トランペット、ティンパニを含む全楽器が加わり、華やかな前奏、間奏、終結部を持つ楽章となっている。
 バッハがこの「クリスマス・オラトーリオ(Weihnachtsoratorium)」(BWV 248)に流用した楽曲のもととなった世俗カンタータは、いずれも「音楽劇(Drama per Musica)」と題されたギリシャ、ローマ神話などを題材とした作品である。「岐路に立つヘラクレス(Hercules auf dem Scheidewege)」(BWV 213)は、1733年9月9日のザクセン選帝候王子、フリートリヒ・クリスティアンの誕生日を祝って、同日にライプツィヒのツィンマーマンのコーヒーハウスの庭で、コレーギウム・ムジクムによって午後4時から6時にかけて演奏されたと、「ライプツィヒ新聞」が報じている。歌詞は、1725年2月以来、バッハの教会カンタータや世俗カンタータの歌詞を多数提供した、クリスティアン・フリートリヒ・ヘンリーツィ(Christian Friedrich Henrici, 筆名Picander, 1700 - 1764)による。レシタティーヴォ、アリア、合唱を含む13楽章からなる作品である。「太鼓よ轟け! 喇叭よ響き渡れ!(Tönet, ihr Pauken! Erschallet, Trompeten!)」(BWV 214)は、1733年12月8日のザクセン選帝候兼ポーランド国王の王妃、マリア・ヨゼーファの誕生日に演奏された。作詞者は不明で、この時期多くの世俗カンタータの歌詞を提供したヘンリーツィではない。このカンタータは9楽章からなっている。「おまえの幸運を讃えよ、祝福されたザクセンよ(Preise dein Glücke, gesegnetes Sachsen)」(BWV 215)は、ザクセン選帝候兼ポーランド国王夫妻がミヒャエル・メッセの機会にライプツィヒを訪れた際に、1734年10月5日のポーランド国王戴冠1周年を祝う行事の一環として、国王夫妻が宿泊する宿舎の前で、コレーギウム・ムジクムによって演奏された。国王夫妻と王子達は、演奏が行われている間、窓からこれに聴き入っていたと、町の年代記が伝えている。このカンタータは9楽章からなっている。作詞者は、当時ライプツィヒ大学の教師であったヨハン・クリストフ・クラウダーである。
 「クリスマス・オラトーリオ」の各楽章と転用された原曲は下の表の通りである。

 第VI部に於いては、冒頭の合唱が、失われた世俗カンタータからの転用ではないかと考えられている以外は、転用された原曲が分かっていないが、第4楽章や第9楽章のアリアにも失われた原曲がある可能性がある。
 この「クリスマス・オラトーリオ」は、上述した様に、全曲が一気に演奏されたのではなく、キリスト生誕の祝日第1日目から連続する6つの祝日、日曜日の礼拝に於いて1曲ずつ演奏された。今日我々が、礼拝とは関係なく全曲を通して聴く事には何ら問題はないが、本来は分けて演奏をされていた事を知るのは、作品の成立事情を理解する上で、決して無駄な事ではない。しかしその一方で、バッハはこの6曲をひとつのまとまった作品と認識していた事は、特別の表紙は持たないものの、1冊の自筆総譜として作製していた事からも分かる。その第1頁目の冒頭に、「オラトーリオ(Oratorium)」と追記しているだけだが。
 今回紹介するCDは、テルデックのバッハ教会カンタータ全集の録音を行った2つの演奏グループのひとつ、ニコラウス・ハルノンクール指揮、コンセントゥス・ムジクス・ヴィーン他によって、同時期に録音され、1973年にアナログLPとして発売された演奏をCD化したものである。その録音が教会カンタータ全曲録音の初めの時期であった事は、合唱にヴィーン少年合唱団が起用されている事からも分かる。この作品が初演された当時の演奏を再現した数少ない演奏として、このハルノンクール指揮によるCDは、貴重な存在である。
 「クリスマス・オラトーリオ」を、女性歌手、混声合唱団の参加無しで演奏した録音は、この他にアルヒーフで1977年に同じくアナログLPで発売されていた、ハンス=マルティン・シュナイト指揮、レーゲンスブルガー・ドムシュパーツェン、コレーギウム・ザンクト・エメラムによる演奏のCD(000289 477 6282 9)も現在入手可能であるが、このハルノンクール指揮の演奏のCDを、教会カンタータ全集、受難曲と共に、現在も入手可能にしているワーナーの姿勢は敬服すべきものである。少し古くなると、すぐに廃盤にしてしまう他の幾つかのメジャー・レベルには、すこしは見習って欲しいものである。なお、このハルノンクール指揮の演奏は、ワーナー・クラシックスの3枚組CD(2564-69854-0)としても販売されている。

発売元:Warner Classics


2564-69854-0

注) なお、この「クリスマス・オラトーリオ」の成立事情、他の作品からの転用などについては、主に新バッハ全集第II部門第6巻の、ヴァルター・ブランケンブルクとアルフレート・デュルによる校訂報告書(1962年刊)を参考にした。

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ドイツ語やフランス語の文字が文字化けする問題について
この「私的CD評」では、ドイツ人やフランス人の名前、それにそれらの国の作品や文書をそれぞれの国の言語で用いられているウムラウトやアクセント付きの文字を用い表記していますが、これらの文字がブラウザーによっては文字化けする事を、「私的CD評」をよく読んでくださっている方から知らせていただきました。これに対する解決策として、Mozilla Firefoxを用いることをおすすめしましたが、その後「私的CD評」を愛読していただいている方々から、様々なご助言をいただき、記事の編集、投稿、修正をMacintosh OSの標準ブラウザーであるSafariで行うと、文字化けしない事が分かりました。今後の投稿、修正は、Safari上で行いますので、文字化け問題は解消すると思います。過去の記事についても、順次修正する予定です。ご助言をいただいたaeternitasさん、ykhtさん、ありがとうございました。

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