Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

テッド・チャン「あなたの人生の物語」

2017-06-13 23:53:10 | 読書感想文(小説)


あなたの人生の物語
クリエーター情報なし
早川書房


映画「メッセージ」の原作、「あなたの人生の物語」が収録されている、テッド・チャンの短編集を読みました。
前回のケン・リュウに続き、またもSFです。ここ数年、SF小説から遠ざかっていたので、読むのはなかなかヘビーでした。
どれくらいヘビーかというと、1回読んだだけでは内容が理解しきれず、もう1度最初から読み直すくらいです。ケン・リュウ作品の時と同じですね。
ほら私、文系だから。SFは敷居が高く感じちゃうのよね~、って言い訳を文学部出身者が使うのはアリでしょうか。(必死)

まあ、そんなことを言いつつも、こんな私にも収録作品はどれも面白くて、興味深く読むことができるものばかりでした。
途中、難しすぎてこめかみがズキズキいいだしたこともありましたが。

では、収録作品それぞれの感想を。訳の分からない文章になっているかもしれませんが、ご了承ください。

「バビロンの塔」
先日上野でブリューゲルの「バベルの塔」を見たばかりなので、あんな感じをイメージしていたのですが、この小説に出てくる「バビロンの塔」は、てっぺんまで完成された塔でした。主人公の鉱夫ヒラルムは、バビロンの塔のてっぺんにのぼって、“空の天井”に穴を開けようとするのですが…なんて言われたら、誰でも「???」ってなりますよね。私はなりました。そもそも、てっぺんに着くまでに、塔を上るヒラルムが雲を越えたり手の届く距離で星を眺めたりした時点でもう頭がついていかなくなりましたが。そういうわけで、内容を理解するのに想像力を限界まで使わなくてはいけませんでした。はー疲れた。
でも、1回目は疲れたけど2回目はまだスムーズに理解できたので、クライマックス(的な場面)でヒラルムがピンチに陥った時は、インディジョーンズみたいなアドベンチャー映画を見ている気分になってわくわくしました。ヒラルムが塔を上る途中に出てくる、バビロンの塔に住む人々の描写が人間くさくて、非現実的な物語に厚みを感じられたのも面白くてよかったです。短編ですが映像化したのを見てみたいです。ただ、塔のへりから顔を出して下を見下ろす場面は文字を読むだけでへその下がひゅーっとなって怖かったですが。高いところに上るの好きだけど、限度があるわ。

「理解」
舞台は古代から一気に現代へ。事故で瀕死の状態に陥ったレオンは、治療のために使った新薬の効果で知能が著しく高くなる。実験材料としてCIAに追われる身となった彼は、自分と同じ新薬の被験者を探すが…“薬などの外的刺激によって知能や身体能力が高くなった主人公が、その能力を狙う敵と戦う話”、と書くとまるでアメコミですが、実質アメコミでした。1回目読んだ時は、文中で何が起きてるのかよくわからないままに最後まで読み終わってしまいましたが、2回目読む時に「これはアメコミだ」と思いながら読んだら、ぶっ飛んだ展開も楽しんで読むことが出来ました。それでも、結末で何がどうなってるのか、まだよくわかってないのですが。3回目読んだら、もうちょっとわかるようになるのかしら。タイトルが「理解」なのに、なかなかそこまでたどり着けません。ベネディクト・カンバーバッチ主演で映画化して欲しいけど、それじゃまんまドクター・ストレンジよね。

「ゼロで割る」
苦悩する数学者夫婦の物語。正直、1回目読んだ時は何が何だかさっぱり、でした。でも2回目読んだ時、夫のカールの立場から読み解くと、うっすら理解することが出来ました。高校卒業以来、数学にほとんど触れていない私にしてはよく頑張ったと思います。

「あなたの人生の物語」
映画「メッセージ」の原作。突如地球に現れた宇宙人と対話するため、言語学者のルイーズは彼らの言葉を解析を依頼される。映画を既に見ているので、今度は1回目からだいたい内容を把握することが出来ました。設定も物語の展開も、映画とだいぶ違うので戸惑いはしましたが、まあそれなりに理解できました。ただ、麻雀のエピソードは映画オリジナルだったようで、いつ出てくるのか楽しみにしていたのに何も起こらなくて、ちょっぴり残念。

もし、世界のあらゆる事象の、始まりから終わりまでが、最初から決まっているとしたら。たくさんの選択肢の中から選ぶことで未来を構築するのではなく、何を選ぶのかさえあらかじめ決まっているのだとしたら。映画を見終わってから、小説を読み終わってから、しばらくはそれがどういうことかピンときませんでしたが、自分が今行っている、「同じ本を繰り返し読むこと」がまさにそれなのだと気づいた時、霧が晴れたような気分になり、同時に少し寂しくもなりました。私がその本を読む前から、物語は始まりから終わりまですべて決まっていて、読み終わった後も変わらない。何度読み返しても、いつ読み返しても物語は変わらない。変えることが出来ない。それがこの世の何もかもにあてはまるとしたら。
主人公ルイーズのように、大切な人の始まりから終わりまでを見届けた後には、一体何が残るのでしょう。

映画を見る前にこの小説を読んでいたら、映画で映像化された宇宙人の言語をもっと興味深く見られたかもしれないのが、もったいなかったかな。その代わり、映画に仕掛けられたトリックにまんまとはまることができたのは、ある意味ラッキーでした。できればもう1回見たかったなー。

「七十二文字」
19世紀、ヴィクトリア女王以前のイギリス。72文字の呪文で動くゴーレムが作れる世界。卵子・精子に手を加えることで種の繁栄をコントロールしようとすることができる世界の、突き抜けた作品。非現実的で非科学的なのに、それが当たり前のこととして話が進むので、自分の持つささやかな知識を使うこともできず、ついていけなくなることが何度もありました。でも物語の後半に、追いつ追われつの派手な格闘シーンが突然始まるので、そこだけはしっかり頭に入って、手に汗握りながら読みました。途中、「無茶苦茶強引とちゃうか」と突っ込みたくなりましたが。多分、これも映像化してくれたらもっと楽しめると思います。登場人物の生命倫理観がぶっ飛んでいるから、その問題をクリアできるか少し心配です。

「人類科学(ヒューマン・サイエンス)の進化」
たった5ページの短い作品。短いから読みやすいかというと、全然そうではありません。人類と超人類が、科学知識を共有しようとするときに起きる、究極のジェネレーションギャップのような話、だったと思います。AIの開発は進めば、いつかこういう日も来るんだろうかと思いをはせ…ようとしてもピンときません。人類と超人類の知性は同程度というけれど、私とAIの知性は…

「地獄とは神の不在なり」
天使が降臨した場に居合わせたせいで、妻を亡くした男の話。ケン・リュウの「1ビットのエラー」は、この「地獄とは神の不在なり」にインスパイアされたそうで、読んでみると確かにそうだなと思う反面、似てるようで全然違うんじゃないか、とも思えました。なんとなくそう思っただけなので、突き詰めるにはまだまだ考察が必要です。
天使が何度も街中に降臨したり、降臨したせいでランダムに人が死んだり、地獄の様子を見ることが出来たり、これまで抱いていた天国・地獄・神・天使に対する固定観念が覆され過ぎて、頭の中が混乱しました。人が死ぬ時、天国に行けるか地獄に落とされるかが日頃の行いではなく単に運・不運で決まってしまうというのは衝撃でした。悪人正機説が通用しません。
宗教について重く語る物語でありながら、天使や神の扱い方が割とライトで、ところどころ70年代の筒井康隆みたいなノリを感じる場面もありました。結末は残酷だけど、実写で映像化したら面白いだろうなと思います。主演はライアン・ゴスリングを希望します。
ところで、「この物語の世界はキリスト教しかないのか」という疑問がわきましたが、それは言わない約束なんでしょうかね?

「顔の美醜について-ドキュメンタリー」
“ルッキズムに振り回されないようにするためにはどうすればいいか”という永遠の問題を、「その手があったか」と呆気にとられる手法で解決しようとする人々の話。人を見た目で判断しない心を持つのではなく、見た目で判断できなくする機械をつくっちゃうなんて、ダイナミックな発想です。言い換えれば大ざっぱです。そんな突き抜けた世界を舞台にした物語ですが、タメラという一人の少女の成長を追いながら読むと、結構読みやすくて登場人物に共感もしやすかったです。個人的には、この作品に出てくるような、人の顔の容貌に囚われなくなる装置をつけるようになっても、人は別の形で、ルッキズムにとってかわる何かに振り回されるような気がしますが。実写でもアニメでも映像化は難しそうだけど、視覚化されたのを見てみたい作品です。


最後に著者による「作品覚え書き」がありましたが、ここは省略させていただきます。なぜかというと、書いてることが難しすぎて感想が思いつかないもので…。

どの作品も斬新な発想だと思いましたが、同時に遠い昔読んだ懐かしいSF作品(小説でも漫画でも)を思い出されることも多くて、不思議な感じでした。少し間を置いてから、押し入れにしまった本を引っ張り出して読もうかな。


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