Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

トニ・モリスン「青い眼がほしい」

2014-10-15 00:18:36 | 読書感想文(小説)


ノーベル文学賞受賞作家トニ・モリスンの「青い眼がほしい」を読みました。

私がこの本を読むきっかけになったのは、以前読んだ西加奈子さんのエッセイ(感想はこちら)に、西さんが16歳の時にこの「青い眼がほしい」を読んで、とても感銘を受けたと書いてあったからです。現代アメリカの文学作品を読むのは久しぶりなので、私のオツムで理解できるかどうか不安だったのですが…。


1941年のアメリカ、オハイオ州。黒人の少女ピコーラは、毎夜神様に祈った。「誰よりも青い眼にしてください」と。
ピコーラの家は貧しく、両親の間に諍いは絶えず、父は犯罪を重ねて何度も刑務所に入り、兄は家出を繰り返している。
学校では同じ黒人の少年たちでさえピコーラを醜いと罵り、キャンディーを買いに店に入っても、店主は嫌悪感を露わにする。
唯一、ピコーラの友人といえる、フリーダとクローディアの姉妹は、彼女が父親に犯されて妊娠したことを知り、庭にマリゴールドの種を植えた。
秋になってその花が咲けば、何もかもがうまくいくと信じて-


ノーベル文学賞と言えば、ディカプリオのオスカー同様、毎年村上春樹が獲れるか獲れないかで話題になりますが、実のところ私にはあの賞の基準がよくわかりません。でも、この「青い眼が欲しい」を読んで、ノーベル文学賞がどういった作家に与えられるのか、ちょっとだけわかった気になりました。その分、村上春樹が受賞できる可能性は感じられなくなったけど…つか村上春樹本人はノーベル賞欲しいのかね?マスコミと一部のファンだけがワーワー言ってんじゃないの?


「青い眼がほしい」は、黒人の少女・ピコーラに起きた悲劇を、彼女自身そして彼女の周りにいた人々の生い立ちを含めて描いた小説です。白人の価値観に縛られ、自分たちのすべてを否定されて生きる黒人たちの、もがき苦しむ、あるいは諦めきった姿が描かれています。

最初に登場するのは、フリーダとクローディアの姉妹。この姉妹の日常を読んだ感想は、“ささやかながら家もあるし、絶望的に貧しくはないけど裕福でもない”というものでした。貧しい生活から抜け出して、ようやく手に入れた家や財産にしがみついている人たち。その幸福は不安定で、儚い。

しかし、その後に続くピコーラの日常は、フリーダとクローディアの環境がとても恵まれた素晴らしいものに思えるほど、つらいものでした。罵声と暴力に満ちた家庭に、怯えるピコーラを顧みる者はいません。彼女にできるのは、「青い眼がほしい」と神様に祈る事だけ。

とりわけ悲しく、恐ろしいのは、白人だけではなく同じ黒人までもが、ピコーラの肌の色と容姿をけなし、彼女を蔑んだことです。虐げられている者同志、手を取り合うのではなく。弱い者が更に弱い者を叩く。叩かれたものは自分より弱い者を探し叩く。そしてブルースは加速していく…ってそれはブルーハーツか(古い?)。だけど、それはこの物語の中だけの話ではありません。自分以外の誰かに対して、ささいな違いを理由に自分のほうが優れていると言い張り、相手を貶める。特に、人種や出自、身体的特徴など、当人の努力だけではどうにもならないことで。どんなに目を背けようとしても、視界に入る場所のどこかで、必ずそれは起きています。

しかし、こんなに悲しい物語なのに、作者のモリスンの文章には、彼らを見守る優しさがあります。自分の娘に「ママ」と呼ばせず、ミセス・ブリードラヴと呼ばせるピコーラの母、ポーリーンに対しても。実の娘を妊娠させるという許されざる罪を犯した、ピコーラの父チョリーに対してさえも。彼らの弱さと愚かさを、責めるのではなく、彼らへの憐れみと慈しみが感じられる文章で綴っています。そこに描かれていることが、どんなに悲しいことでも。愚かでおぞましいことでも。ピコーラの悲劇の物語を最後まで読むことができたのは、モリスンの書く文章の魅力のおかげでした。


貧しさや弱さを言い訳に、自分の愚かさを正当化してはいけない。けれど、正しいか正しくないかは、誰が決めるのでしょう。なるほど確かにミセス・ブリードラヴは家事の才能が有り、家政婦として白人の家庭に職を得ました。“だから”彼女は生きることを許されるのでしょうか。彼女のように、白人社会に有益な何かを持っていない黒人は、肌の色や容姿や出自を責められ、生きることを許されなくても仕方ないのでしょうか。いいえ、そんなはずはない。たとえ何も持っていなくても、ピコーラは誰かに愛されるべきで、守られるべき幼い少女でした。これは過ぎ去りし時代に限られた話ではありません。今もなお世界のそこかしこにピコーラはいます。肌の色、性別、年齢を問わずに。


トニ・モリスンの著作には、他にもピュリッツアー賞を受賞した「ビラヴド」や、オバマ大統領が人生最高の書と讃える「ソロモンの歌」など、興味深い本がいくつもあります。図書館にはないので、都市の大型書店に行くかネットで取り寄せるしかなさそうですが、少しずつ集めて読もうと思います。良い本、良い作家にめぐりあえました。西さんありがとう。



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