Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

アーナルデュル・インドリダソン「湿地」

2017-04-05 20:29:38 | 読書感想文(海外ミステリー)


湿地 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社


アイスランドの作家、アーナルデュル・インドリダソンの「湿地」を読みました。「北欧のミステリー小説が読みたい」と思い、予備知識なしで無造作に選んだのですが、予想以上に面白かった…というか、“面白かった”なんて単純なものではなく、読んでいる最中と読み終わった後に、怒りと悲しみ、虚しさ、ほんのわずかな希望といった様々な感情が押し寄せてくる傑作でした。そう言うとウェットな物語なのかと思われそうですが、余計なものは限界まで省かれていて、冗長さはまったくないので、読んでいてだれることもありませんでした。

内容はというと、ネタバレしてしまうのがもったいないのでざっくり言うと、

アイスランドのレイキャヴィクの湿地にあるアパートで、年老いた男が殺された。最初は突発的な殺人事件と思われていたのが、刑事エーレンデュルらの捜査が進むにつれて、被害者の過去と凄惨な真相が明らかになり…

という、あらすじだけ読むとありきたりな感じに見えそうですが、物語を構成するひとつひとつの要素がとても重いです。殺された男ホルベルクが過去に犯したおぞまじき罪には腸が煮えくり返るし、ホルベルクの被害者たちの悲しむ姿はとても痛々しくて、読みながら何度も涙がこぼれました。彼女たちが二重にも三重にも悩み、苦しみ、傷つくのは、社会が彼女たちに無関心で、声に耳を貸さず、心に寄り添おうとしないからです。日常のニュースでしょっちゅう目にする、「被害者にも落ち度はあった」からの「加害者扱いされてるこっちのほうがむしろ被害者」へのすりかえを思い起こして、殺人事件の被害者であるホルベルクに同情する気になれませんでした。

…とまあ、ここまで書くとホルベルクという男がどういう罪を犯したのか、殺された理由はなんだったのかがわかってしまいそうですが、事件の真相はそこからもうひと段階アップしたところにあるので、決定的なネタバレはしてません。大丈夫です。でもこの事件の真相が、もう悲しくて悲しくてやりきれなくて、あまりの救いのなさに読み終わってしばらくふさぎこんでしまうかもしれませんが。この結末に至らないためにはどうすればよかったのか、ホルベルクを殺した犯人には、他に取る手立てはなかったのか、考えても考えても答えが見つかりません。

小説では、湿地のアパートで起きた事件と並行して、主人公エーレンデュルのプライベートな問題、娘エヴァ=リンドとの関係についても描かれていました。エヴァ=リンドはドラッグ中毒で、かつ妊娠している。陰惨な事件の捜査で倦み疲れているエーレンデュルを更に悩ませる娘の存在には、破滅的な結末しか予想できませんでしたが…途中、彼女が娘というより母のような、もっといえば聖母のように振る舞うのを読んで、「もしや、エヴァ=リンドはエーレンデュルにしか見えない幻なのでは…」と、似たような設定の小説を思い出して疑ったりもしました。なので、この小説の最後の最後、2人がごく普通の親子らしい会話をしているのを読んで、拍子抜けしたのと同時に、ほっとしました。でもこの小説は「捜査官エーレンデュル」シリーズの3作目なので、続編を読んで確認するまでは、まだ安心できません。もしかすると、トム・ロブ・スミスの「レオ・デミドフ三部作」みたいになるのかもしれないし…うっ頭が…(蘇るトラウマ)

ちなみに、北欧つながりで、読んでいる間私の頭の中ではエーレンデュルはマッツ・ミケルセンに脳内変換されていました。北欧は北欧でも国が違うだろと突っ込まれそうですが、アイスランドについての予備知識が皆無だったので、ご了承ください。でもマッツ主演で映像化してほしいな~。電子レンジでチンした謎の食べ物をもてあましてるとことか、別れた妻が子供につけたキラキラネームにもやもやしてるところを見てみたい~。それぐらいないと、陰鬱極まりない物語に耐えられなさそうだけど、この小説が訴えていることを、世界中の人に知ってほしいから。

続編の「緑衣の女」もまた、創元推理文庫から刊行されているので、近いうちに読もうと思います。あんまりすぐ読むと、また話の重さに押しつぶされちゃうかもしれないけど…歳を取ると、いろんなことの回復力が衰えるんだなぁと感じる今日この頃です。次はなんか軽めの本を読もうっと。


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