Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

映画「三度目の殺人」(10月8日)

2017-10-09 17:21:02 | 映画


是枝裕和監督最新作、「三度目の殺人」を見てきました。公開直後はシネコンで一日に何度も上映されてましたが、見に行くのを先延ばしにしているうちに、気がつくと1日2回になってました。午後の早い時間にやってくれてるから、まだマシなんですけどね。ひどいのだと、公開2週目でもうレイトか朝イチのみになっちゃうこともあるので。私が見に行ったシネコンでは、席数80ほどの一番小さいスクリーンでの上映でしたが、早めに席を取ったので良い席で見られました。

あらすじは、

殺人の前科がある、三隅(役所広司)という男が、解雇された工場の社長を殺害し、火をつけた容疑で起訴された。死刑はほぼ確実だったが、弁護士の重盛(福山雅治)はなんとか無期懲役に持ち込むために調査を始める。
しかし、犯行を認めていたはずの三隅の供述は会うたびに変わり、被害者の妻・三津江(斉藤由貴)に頼まれたと答え、マスコミに大きく報道される。
そんな中、重盛は被害者の娘・咲江(広瀬すず)と三隅の接点に気づき、二人の関係を探るうちに、ある秘密にたどり着く―


公式サイトはこちら。サイトを開くと自動的に予告動画が流れるの、開く前にどうにかならないもんですかねー。キャストとスタッフ紹介のページが見つからないのにイライラしました。

公開からもう一か月も経っているので、内容を結末まで詳しく書いても構わないかなと思ったのですが、この映画の場合、ただ内容を並べても、見る人によって解釈が全く違ってきそうなので、ネタバレにはならない気がします。むしろ、まだ見てない人には、解釈を押し付けて先入観を植え付けることになりそうなので、ネタバレよりも危険かもしれません。なんてこと言ってたら、映画のレビューなんて読めなくなりますけどね。

そんなわけで、ここから先は私の解釈の押し付けです。これから見る人はご注意ください…ってもそんな影響力のある文章書けないけどね。



是枝作品といえば、美しい映像と音楽、演技してなくても演技してる風に見せられるほど役者の個性を生かした脚本と演出等々、いろいろ特徴をあげられるわけですが、この映画もまた、是枝監督のこれまでの多くの作品同様、

子供が親のエゴの犠牲にされる話

でした。子供とは、まず第一に被害者の娘の咲江のことなのですが、三隅の娘もまた、殺人犯の父親に振り回され、人生を狂わされています。三隅が咲江の父親を殺したのは、咲江を自分の娘に重ねて、父親の性暴力から救ってやりたいと思ったのかもしれませんが、それもまた彼のエゴ、自己満足であるといえます。三隅の実の娘が、存在を語られるだけで登場しないのは、彼女の存在が軽んじられてるという意味かもしれません。三隅は娘から見捨てられてるつもりかもしれませんが、彼もまた娘を見捨てている、そう思えました。

父親だけでなく、咲江は母親のエゴにも苦しめられているわけですが、それを描写した場面が、時間にすればほんのわずかなのに、母親役の斉藤由貴の怪演もあって、強烈に印象に残りました。キッチンで娘の背にもたれて、髪のにおいをかぐしぐさと、「その汚いお金で育ってもらったくせに」「お父さんだけが悪いんじゃない」と、娘に共犯者の呪いをかける姿の毒気にやられて、場面が変わってもしばらく動けなくなりました。もし、この映画で発声応援上映が行われたら、ここで「咲江ー!逃げてー!超逃げてー!」って叫んでるところです。

映画に出てくる親子はもう2組。重盛と重盛の父、重盛と重盛の娘です。重盛の父は元裁判官で、かつて三隅が犯した殺人事件を担当しています。今回また人を殺めた三隅を巡って、親子は意見が対立するわけですが…重盛の父親を演じるのは橋爪功。ひょうひょうとしていて人当たりがよく、悪い人ではないんでしょうが、発言はシビアで重盛にとって父親がどういう存在なのか、うっすら伝わってきました。裁判官と弁護士、という立場の違いもあるのでしょうが。

重盛と重盛の娘・ユカ(蒔田彩珠)は、お互い相手を思っているのにすれ違っている感じ。この映画の中では相対的に悪くない親子関係として描かれています。この映画の中の救い、なのでしょうか。もっとも、重盛は妻と別居中で、ユカとも離れて暮らしているし、ユカは万引きで捕まったりしているのですが。それにしても蒔田彩珠ちゃんは、ドラマや映画で見るたびに親で苦労している気が…。

役所広司演じる三隅という人は、ちょっとエキセントリックで、重盛に娘がいることを当てたりとかファンタジーっぽいところもあるのですが、役所広司の演技で、ぎりぎり鼻につかないところに留まっていました。個人的には、もうちょっとわかりやすく、狡さとかいやらしさとかが見えてもよかったかなと思うんですけどね。これは役者の表現力の問題というより、監督のプランがそうだったからこうなったのでしょうが。

物語のカギを握る重要な役・咲江を演じた広瀬すずですが、なんなんでしょうねこの子はもう。本編始まる前に流れた「先生!」の予告では、教師に恋するピュアな女子高生だったのに、映画が始まると同じ人とは思えないほどの変わりようでした。全身から発する、暗く、重いオーラ。輝きを失った瞳。法廷の場面で、目を伏せた状態でアップになった顔を見た時は、誰なのか本気でわからず、しばらく固まってしまいました。

とはいえ、広瀬すずが性暴力被害者を演じるのを見るのはこれで2回目なので、彼女の佇まいを、ある種の人たちの庇護欲をかき立てるアイコンとして、典型的に使うのはもう最後にしてほしいなとも思いました。そういう意味では、この映画は全体的に女性の扱い方に不満が残りました。市川実日子演じる検事とか、重盛の事務所にいる秘書(?)の女性とか。満島真之介が演じる若手弁護士の役(名前忘れた)は女性でもよかったんじゃないかなという気がしましたが、理想に燃える若い弁護士に女性を据えるのもまた典型ですね。

タイトルには「三度目の殺人」とありますが、三隅がこれまでに殺人で捕まったのは一度だけでした。その一度の事件で2人殺しているのだから、今回殺したので3度目だ、という解釈なのでしょう。でも、なんとなくしっくりこないので、「三隅は一度目の殺人で2人殺し、二度目の殺人で1人殺し、三度目の殺人で自分を殺す」という意味なのかもしれないなと勝手に思いました。まあ、私の思い込みでしょうけど。

明確なカタルシスがなく、もやもやしたまま終わるのも是枝作品あるあるですが、初めて見る人は戸惑うでしょうね。ネットでも感想が賛否割れてるのもわかります。実話を基にしてないらしいことだけが救いかな。食品偽装とか、家庭内性暴力とか、似たような事件はごまんとあるけれど。

生まれつき足に障害のある咲江が、「生まれつきではなく、屋根から落ちて足を悪くしたのだ」と言い張るのはなぜなのか、それもはっきりした理由は出てきませんでした。これも勝手に解釈すると、咲江は自分が「生まれてこないほうがいい人間」ではない、と言いたかったのかもしれません。三隅は「世の中には生まれてこないほうがいい人間がいる」と言い、満島真之介演じる弁護士は「そんな人間はいない」と言う。そして重盛は…。映画が始まってすぐの頃は、咲江の足の障害がストーリーに何の意味を持つのかわかりませんでしたが、もしかすると「命の選別」と絡めていたのかなと、終盤になってふと思いました。これも私の思い込みかもしれませんけどね。

福山雅治は、しゃべるとやっぱり福山雅治で、動いても大体福山雅治なので、悪いとは言わないけどもう少しどうにかならんのかと突っ込みたくなりました。単に私が演技する福山を見慣れてないというのもありますが。役のキャラクターを強調する場面が、事務所で飲み物に延々とスティックシュガーを入れ続ける場面みたいなのが、もっとあればよかったのにな。

余談ですが、三隅が以前に起こした事件について、重盛たちが北海道に調査に行く場面で品川徹が出てきたのが個人的にはボーナスでした。最初声が聞こえてきたときは、「ヒャッハー!品川徹だぜ!」と地味に喜びました。あと、重盛が三隅のアパートを訪ねる場面、大家さんの言う「建蔽率違反してる家」がどんな家なのか超気になりました。ちらっとでいいから見せてよー!

シネコンで次に見る映画は、「アトミック・ブロンド」と「斉木楠生のΨ難」を予定しています。11月はまた見たい映画が続々公開するので、スケジュールのやりくりが大変です。その前に衣替えもやらなきゃ…。


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