Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

映画「マジカルガール」「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」(6月18日)

2016-06-19 15:15:40 | 映画


高松にある単館系映画館ホールソレイユに、都市部で上映の終わった「ミラクルガール」と「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」を観てきました。
1日に2本続けて観るのは体力的にちょっと厳しいですが、ホールソレイユでは続けて観ると前売り券で見るのと同じくらいの金額になって割安なので観ることにしました。上映期間も2週間くらいと、シネコンに比べて短いし。

「マジカルガール」はスペインの映画で、白血病で余命わずかの少女アリシアの願いを叶えるために、父親のルイスが奔走する話…と書くと感動モノみたいに聞こえますが、実際は感動と真逆のシュールな映画でした。公式サイトはこちら。少女の願いとは、大好きな日本のアニメ、「魔法少女ユキコ」の主人公のドレスを着て踊ること。しかしそのドレスは超高額で(90万!)、元教師の父親は失業中。金を手に入れるために、ルイスは宝石店に強盗に入ろうとするが、直前に美しい人妻のバルバラと出会い…というのが前半のあらすじ。後半、映画にはバルバラと因縁を持つ元教師のダミアンという老人が登場し、怒涛の展開に向かうわけですが、それがあまりに怒涛の展開過ぎて、終盤はスクリーンを見ながら頭の中が「?」でいっぱいになりました。いや、今まで見たスペイン映画ってたいがいがぶっ飛んでたんですが、この映画も同じくらいかそれ以上にぶっ飛んでました。お国柄…なんて決めつけは失礼なんでしょうけど、こういった破綻を恐れない突き抜け方は日本の映画やドラマであまり見られないので新鮮で面白くもありました。登場人物の関係や状況の説明が少ないので、観客の想像に任せるところが多くて、見る人によってこの映画の感想どころか内容も大きく変わってきそうなところも興味深いです。バルバラとバルバラの過去の仕事仲間のアダとの会話から、バルバラの過去がうっすらわかることはわかるのですが、そこからどうやって裕福な精神科医のアルフレドと結婚に至ったのかはまったくわからない…もしかすると、あの完璧そうな夫もバルバラの…だったとか?

予告映像やポスターなどから、アリシアを中心にしたストーリーなのかと思いきや、アリシアの出番は冒頭と終盤だけでメインはバルバラでした。もっとも、映画の一番最初に出てくるのはバルバラとダミアンなので、制作側にはミスリードする気はなかったかもしれませんが。なので、タイトルの「マジカルガール」はアリシアの好きな、悲劇のきっかけになった日本の魔法少女のことだけを意味するのではなく、それよりももっと前、少女だった頃のバルバラも指しているのでしょう。アバンでバルバラがダミアンに“魔法”を見せた直後、タイトルの「MAGICAL GIRL」がどーんと映し出されたときはぞくっとしました。こっちかよ!って。

「マジカルガール」というタイトルからは、少女は魔法を操る側、支配する側のように思えますが、実際映画の中ではバルバラは支配する側と支配される側の両方でした。そして彼女に支配される男もまた、他の誰かを支配する。アリシアは彼女の願いを叶えるために父親の運命を狂わせますが、そんな彼女自身も病魔に、また「魔法少女ユキコ」に支配されているともいえます。この映画の登場人物はあまり多くありませんが、人物相関図を書くとややこしくなりそうです。

監督と脚本をてがけたカルロス・ベルムト氏は日本のアニメや漫画が大好きだそうで、それだけでなく作中で、アリシアが夢中な「魔法少女ユキコ」の主題歌(?)として長山洋子のデビュー曲を、エンドロールでは由紀さおりのピンク・マルティーニが歌う、美輪明宏の「黒蜥蜴の唄」を流すくらいですから、なかなかマニアック。海外の映画監督で、黒澤明や小津安二郎が好きっていう人は聞いたことがありますが、その次の世代になるこういう人が出てくるんだなぁと妙に感心しました。あと、クライマックス以降のダミアンを見ると、この監督は北野武も好きなのかも、なんて気もしました。

タイトルで、映画の中で活躍するのは子供か若い女性なんだろうと思っていたら、一番エネルギッシュに動いていたのは最長老のダミアンだった…というのには驚きすぎてぽかーんでしたが、スペイン映画に出てくる女性は、いわゆる“ラテン系”でイメージされるよりも陰がある女性が多いので、こうなるのも道理かなとも思えました。まあ、そんなダミアンもバルバラに操られているところはあるから、2人のパワーバランスを分析するだけでもかなり面白い映画でした。ダミアンじいちゃんがバルバラのために身支度を整える場面は純粋にかっこよかったけど。

さて、2本目に観たのは、我らがマグニートでありガンダルフである、イアン・マッケラン主演の「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」です。イアン・マッケランがシャーロック・ホームズを、しかも探偵をやめて田舎に蟄居している93歳のホームズを演じるという、一風変わった作品です。まあ、ここ数年作られたホームズの映像作品はどれもひとひねりもふたひねりもしてあるので、これくらいのツイストは王道といってもいいくらいかもしれませんけどね。公式サイトはこちら。

田舎でミツバチの世話をしながら穏やかな晩年を過ごしていたホームズだったが、彼には30年前、謎が解けないままやり残した事件があった。それは助手のワトソンが結婚してホームズのもとを去った後、ある男性からの妻についての依頼だった。男性の妻は怪しげな音楽教師のレッスンで、亡くなった彼らの子供と会話しているというのだ。ホームズが調べるうちに、男性の妻はサインを偽造して男性の預金を下ろし、薬局で強い毒を購入していた。夫を殺害しようと計画しているように見えたが、事態は思わぬ方向に転がっていき…事件は未解決となってしまう。推理のカギを握る日本への旅から帰国したホームズは、家政婦の息子のロジャーと共に、事件をもう一度調査しようとするが…なんて、公式サイトのあらすじを読みながら書いてみましたが、映画を見終わってからこのあらすじを読んだら、「あれ、こういう映画だったっけ?」という気しかしません。まあ、このあらすじ自体がミスリードっちゃミスリードなんですがね。実際の映画に出てくるホームズは年老いていて孤独で、記憶もあやふやになりがちで、他の映画や小説に出てくるホームズよりも人間味があります。未解決事件の真相が明かされるに至っては、名探偵としてのホームズを期待して観に来た人はがっかりするかもしれません。でも、どんな人間にも必ず訪れる、老境の孤独に向き合うホームズの姿は、寂しくもあるけど解放感もあって、いっそ爽やかな感じもしました。

ホームズがウメザキという日本人の招きで日本を旅する場面は、ハリウッド映画に出てくる日本描写あるあるで、ツッコミどころ満載でしたが、ウメザキを演じている真田広之のためにツッコむのを踏みとどまりました。まあ、戦後の日本を再現するための資料なんていくらでもあるのに、もうちょっと真面目にやってよとスタッフには不満がありますが。焼け野原になった広島で、戦勝国の人間であるホームズが戸惑う場面はいままであまり見たことがない描写だったので、「おお!」と思いましたが。しかしあの時代に、どうやってホームズは日本に来たのだろう…いかん、そこはツッコんだら負けだ。

スリリングなミステリーを予想してたら実はヒューマンドラマだった、というのは若干拍子抜けではありましたが、イアン・マッケランの演技が素晴らしくて、また家政婦役のローラ・リニー、彼女の息子のロジャーを演じるマイロ・パーカーの演技も良くて、また画面には登場しないワトソン君の厚い友情のおかげで、ほろりと泣かせる良質のドラマになっていました。この映画に出てくるホームズはコナン・ドイルの描いた、ワトソン君の視点で加工された超人的な名探偵シャーロック・ホームズではなく、人間シャーロック・ホームズなのだと思うと納得できます。ただ、私の知っているイアン・マッケランは最強の魔法使いだったり磁界の帝王だったり、巨大な白熊(三部作のはずが一本で打ち切られたけど)だったりと、次元の違う役が多かったので今回もそういう役なのかと思っていたので意外ではありました。ひょとするとこの映画のワトソン君は実はスキンヘッドで、赤毛の美女を引き連れて車椅子に乗っていて、ホームズのもとを去るときに彼の記憶をちょちょっと捜査して普通の人にしちゃったのかなー、なんて思う余地もありますが。いやほら、だって再来月には公開するしね。例のアレが。とうとうスキンヘッドになってしまうアレが。

来週25日から、ホールソレイユでは「ミラクル・ニール」の上映が始まります。シネコンでも見たい映画がいくつも始まるし、スケジュールを組むのが大変です。まあ、観たい映画が近くで上映されるのは喜ばしいことだけど。「人生は小説よりも奇なり」と「帰ってきたヒトラー」も気になるし、「二重生活」「ディストラクション・ベイビーズ」と菅田将暉縛りのラインナップも要チェックだし。ああ忙しい忙しい。


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