Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

映画「ルーム」(6月25日)

2016-06-28 20:28:54 | 映画


高松のシネコンで、本年度アカデミー賞主演女優賞を獲得した映画「ルーム」を見ました。
最近のオスカーは実話を基にした映画や実在の人物を演じた俳優が受賞することが多いですが、今回は違います。この映画で語られているのは、実在する誰かの話をそのまま再現する以上に「私たちの暮らす現実の社会で起こっていること」であり「こんなことが現実にあるなんて」と恐ろしく思う物語でした。

公式サイトはこちら。


※ここから先はネタバレあります。要注意!





小さな部屋に、ママとジャックは2人で住んでいる。5歳の誕生日、ジャックはママが作ってくれたケーキにろうそくがないのを見て不機嫌になった。
テレビに出てくるバースデーケーキには、必ずろうそくがあるから。
ジャックはいつも自分たちに食べ物や必要なものを届けるオールド・ニックからラジコンカーをもらって喜ぶけれど、なぜかママの顔は浮かない。
ママは5歳になったジャックに打ち明ける。7年前、17歳だったママはオールド・ニックにさらわれてこの部屋に閉じ込められたのだと。
ママの本当の名前はジョイ。ジャックが生まれ、育ってきたこの部屋の外には、ジャックの知らない“世界”が広がっているのだと。
ジャックをこの部屋から出すために、“世界”を見せるために、ママはある計画をジャックに話して聞かせるが…。


ここまでが前半のあらすじ。髪を長く伸ばした5歳のジャックが女の子にしか見えなくてびっくりしました。監禁されているから、髪を切れるような刃物は手に入らなかったんでしょうね。料理をするときのナイフも先がとがってなくて、オールド・ニックの徹底ぶりが怖かったです。ジャックにラジコンを買ってきたりする、「俺、優しいだろ?」アピールにもぞっとしました。

後半、部屋から出ることができた2人は、初めて見る世界、変わってしまった世界と向き合って、人生をリスタートさせていきます。ジャックの脱出劇はハラハラドキドキしましたが、恐ろしい男から逃げることができて、家族のもとに戻って、めでたしめでたしではありません。その後、7年間ジョイを苦しめ続けたオールド・ニックがまったく出てこないのは、彼が司法によってどんな裁きを受けても、ジョイたち被害者にとって慰めにならないからでしょう。失われた時間は戻ってこない、壊された人生は元どおりに直せない。それでも彼女は、もがきながら前に進むしかない、ジャックとともに今を生きるしかないから、映画はその姿を丁寧に描いていったのだと思います。

考えさせられたのは、そうやって心に深い傷を負った人に寄り添うにはどうするべきかということ。家に帰ってきたジョイとジャックを、まるで凱旋する英雄のように出迎える大勢の人々、「死ぬ気で逃げようとは思わなかったの?」などと無遠慮な質問をぶつけるインタビュアー、ジャックを受け入れることができないジョイの父親…彼らは、ジョイやジャックを傷つけようという気持ちはありません。でもその善意が、間違ったことはしていないという信念が、父親としての愛情が、時にジョイを苦しめ、ジャックを戸惑わせてしまう。私も、知らず知らずのうちに、良かれと思って、傷ついた人に同じようなことをしていないかと不安になりました。

観る者に問題を突き付けてくる、へヴィーな映画でしたが、ラストシーンは希望の光が見える感動的なものでした。涙腺を刺激する場面がたくさんあって、映画館のあちこちからすすり泣きが聞こえてきました(心霊現象ではない)。私も、ウルウルした場面はあったのですが、隣の席の年配女性が号泣しているのを見て、引っ込んでしまいました。いやぁ、私も映画を見て大泣きしたことは何度もあるけど、以後気をつけよう…。つか泣く時は静かに泣こうっと。

ママと暮らす狭い部屋とテレビに映るものしか知らないジャックが、ママの過去と自分たちの置かれている状況、外には自分の知らない世界が広がっていることを受け止めきれずパニックを起こす場面は、子育て経験者にはあるあるで共感を呼ぶものだったかもしれません。こういうことあるよね、子供ってささいなことでこうなるよね、とか。でも、部屋から脱出したジャックがオールド・ニックから逃げて、通りがかりの犬を連れた男性に助けを求めたとき、もしかしたらジャックのSOSも「子育てあるある」で済まされてしまうんじゃないかとドキドキしました。結果、男性は不審に思い警察を呼んで、ジャックとジョイは助かったわけですから、そうなんでも「子育てあるある」に当てはめていいもんじゃないなーと思いました。日本でだって、この映画に出てくるのと似たような事件はいくつも起きてるのだし。

ジョイを演じたブリー・ラーソンはこの役でアカデミー賞主演女優賞を受賞していますが、その息子のジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイ君の熱演もすごかったです。撮影時、彼は8歳だったそうですが、「やっぱりホンモノの5歳にこの演技は無理ね」というより「8歳でこの演技ができるなんてすごい!」と思います。子役時代に脚光を浴びると、その後の人生に悪影響を与えるといいますが、彼には陽の当たる道をまっすぐに進んでほしいです。ジャックにそうあってほしいと願うように。

次の週末は大阪へ出かけるので、映画はお休みです。7月8月は大作映画がどんどん公開されるので、「TOO YOUNG TO DIE」を早めに見に行きたいところです。待ちに待った話題作だから、そんなにすぐにはレイト行きにならないとは思うけど、さてどうでしょう?

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