Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

又吉直樹「火花」

2017-03-23 21:05:49 | 読書感想文(小説)



※ここから先は小説の結末に触れるネタバレがあります。ご注意ください。

又吉直樹のデビュー作かつ芥川賞受賞作の「火花」を読みました。

Netflixで配信されたドラマは現在NHK総合で放送中で、映画化も決まったそうで。映画の主演は菅田将暉君ですが、菅田君は同じく芥川賞作品の「共喰い」が映画化されたときも主演だったんですよね。これも縁なのかな。芥川賞作品の主人公にありがちな、気怠く鬱屈した感じ、くすぶっている感じが合っている気もします。これでいつか中村文則の「土の中の子供」が映像化されたときに主演だったら、ちょっと笑えますけど。


売れない芸人の徳永は、営業先で出会った先輩芸人の神谷に弟子入りし、弟子入りの条件として神谷の伝記を書くことを命じられる。
2人はそれぞれの相方とともに、ほそぼそと芸人の活動を続けるが、やがて2人は別の道を歩むことになり…。


又吉の文章は、以前に中村文則の文庫の解説で読んだことがあって、その解説の印象がとても良かったので、この「火花」も期待して読みました。

読み始めてすぐの頃は、ちょっと文章が固いような気がしましたが、でも文学作品ってそういうもんかなと思い直して読み進めたら、小説の世界になじんできたのか、徳永の目線に寄り添って物語をたどっていくことが出来ました。芸人としての才能があっても、それを活かすことが出来ずにもがいている神谷を、ずっとそばで見続けている徳永の気持ちが、理解できない人もいるんでしょうけど。

2人の間には愛憎がなくて、ただ純粋にお笑い芸人としての先輩後輩だったから、ストレスなく徳永に共感したり同情したりしながら読むことが出来ました。性愛の話がほとんど出てこなかったのは又吉がそれを描くのを苦手にしていたからかもしれませんが、それを混ぜると話が陳腐になりそうなので、なくてよかったです。徳永と神谷の濃い関係がそれの代わりなんじゃないかと思う人もいそうですが、人と人とのつながりは恋愛感情以外のものでも成り立つ、と考えるのが21世紀なんじゃないでしょうか。この前放送が終了した「カルテット」を見て、そう思いました。

愛情という点では、この小説は徳永の、というか又吉のお笑いに対する愛情があふれていて、終盤、徳永がお笑いの世界を去るくだりの文章は、徳永の悲しさと切なさが伝わってきて、胸に迫るものがありました。特に、徳永の組んでいた漫才コンビ「スパークス」解散のネットニュースへのコメント欄がずらずらと並ぶところは、「又吉もヤフコメ読んで、こんなこと考えたりするのかな」と想像してゾワワっとしました。芸能人だから、人気商売なんだからなんと叩かれても仕方ない、俺or私の罵声をありがたく頂戴せよ。小説というフィクションなのに、現実の世界で誰かが誰かを傷つけているのを目撃したような、不安な気持ちに襲われました。

出会ってから時が経つにつれて、2人の歩む道は少しずつ離れていき、やがでほとんど会わなくなり…ときたので、最後は本当に袂を分かつことになるのかなーと予想しながら読んでいたので、小説の結末にはびっくりしました。この展開、予想できた人はいるんでしょうか。又吉は奇をてらって、受けを狙ってこうしたというより、結末をどうしようかといろいろ考えたら自然とこうなった、のではないかなーと想像しています。

悲しくて泣いてしまう日もあれば、笑い過ぎて泣いてしまう日もあるのが人生だよなー、と読み終わってしみじみ思いました。まる。




ドラマは登場人物が多かったり、原作をいろいろ膨らませているので、結末がわかっていても面白く見ることが出来てます。波岡一喜の神谷がはまり役過ぎて、映画で神谷の役を演じる桐谷健太は大変だなと同情したりもして。どチンピラ役で波岡一喜に勝てる若手は、そうそういないでしょうからね。



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