秋の歌を拾う。
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むらさめの露もまだひぬ真木の葉に霧たちのぼる秋の夕暮れ 寂蓮法師 新古今和歌集より
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むらさめは秋口に降る雨。俄雨。驟雨、白雨とも。ひとしきり強く降って来る。真木は杉や檜などの常緑樹。
夕暮れ時、一陣さっと強い雨が降って過ぎて行った。葉っぱ葉っぱに丸い雫が垂れている。その露の玉がまだ乾いていない。そこへ気温が上昇してきて霧が発生してきたようだ。辺り一面が白くなってきた秋の夕暮れ。降り込められてわたしはとうとう何処にも行けなかった。誰も尋ねてこなかった。この寺院の内外の何処も静かでもの寂しい。
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みほとけに仕える法師さまでもときとして寂しいか。歌を歌って己を慰めておられるようだ。歌を歌ったら寂しさは消えて行くのか。明らかにものを見ることができたら、諦めが付くのだろうか。俗物のさぶろうはこうはいかない。霧が立ちのぼっていくのを見届けているばかりではおられずに、どこぞへ走り出して行くだろう。おっとっとっと、さぶろうは片足麻痺だから走り出しては行けなかった。では、杖を突いて一歩を踏みしめながら。