1
なんにもない。わたしの手の中にはなんにもない。なんにもないのに、あふれている。あらゆるものが、わたしを此処に置いて、あふれている。ゆたかにあふれている。これはどうしたことだろう。
2
何にもない。わたしが手にしたものはなんにもない。なんにもないのに、それで不足していない。あらゆるものが、充足している。わたしはその充足のただ中にいる。ふっくらとふかぶかとしている。これはどうしたことだろう。
3
わたしは此処に生まれ死に、わたしはまた次に行って生まれる。生まれて死に死んで生まれて行く。それが波を作って進んで行く。進んで行く波の大元は海である。生命の海である。それがそうなっていくように、海がある。
4
なんにもない。その間にわたしが手にしたものは、なんにもない。あるものの溢れた中では、なんにもいらないのだ。わたしは真如のダンマを枕にして月を見ている、星を見ている。わたしが手にするものがなくていいという、この安らぎ。
5
安らぎを朝の光が包んでいる。たしかに、わたしが得なけらばならなかったものは、なんにもなかった。一つもなかった。得られたものの大きな海の中では、わたしの手が掴み取るものは、なんにもなくて済んでいた。