月読(つくよみ)の光に来ませ あしびきの山を隔てて遠からなくに 万葉集 湯原王(ゆはらのおおきみ)
月光をたよりにどうぞわたしを訪ねてきてください。山を隔ててというほどに遠いところではないのですから。あなたがその気にさえなればすぐにでもお逢いできるですから。
湯原王は男性。戯れの歌か。女性に変身して歌っている。「月読」も「あしひきの」もともに枕詞。
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この時代の男女の逢瀬は秘め事。誰にも見られないように日が暮れてから男が女の家に通った。月の光が足下を照らしてくれたら心強かったに違いない。
こんな誘いかけを受けた相手はどんな気持ちだったのだろう。「ふん、嫌な奴」という場合もあったかもしれない。
ふふ。しかし、さぶろうには、生涯、そんな「歌誘い」も「恋通い」もしたことがなかった。あはれ。これからでもいいのになあ。
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いとしさはいとしさ呼ばむ つくよみの光の奥にあしひきの山 李白黄