玉葱をトントンと切る音のしてめざむる朝をたまへり 鬼も 薬王華蔵
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この鬼には妻がいる。朝になるとこの妻は、鬼よりも一足早く起き出して、台所に立って味噌汁を作る。鬼と鬼の妻の二人のために。玉俎の上で葱を切るとんとんとんという包丁音が聞こえてくる。これで隣の小さな部屋に寝ている鬼は眠い目を覚ます。そして朝を迎える。なんだ、おれは人間と同じ暮らしをしているじゃないか。鬼はそういう発見をして照れる。味噌汁の湯気がふんわりと流れて来る。鬼は、頂き物のように輝く朝と、賜り物のようにあたたかな朝の食卓へ這いだして来た