大の字に寝て涼しさよ淋しさよ 小林一茶
一茶は布団を着ていない。足で蹴飛ばしたのかもしれない。布団を買うお金がなかったからではない。暑い夏の夜はこうした方が涼しいからである。大の字というからには、こじんまりに丸まって寝ていた訳ではない。堂々と大股を開いて、自由と独立自在の境地を獲得して、徹底していたはずである。その隙を突いて忍び込むものがいた。泥棒である。淋しさという感情はコソドロである。自由も涼しさも手に入れたはずなのに、この部屋の入り口には鍵が掛かっていなかったのであろう、障子戸を開ける音がした。音は大の字の傍へ来た。淋しい泥棒が盛んに一茶に話し掛けている。一茶もしばらくこれに応じているようだ。