陸海軍けんか列伝

オーシャン堂店主・青井渚が探索する日本帝国陸海軍軍人のけんか人物伝。その軍人の宿命を探って逆光の中を彷徨する。

586.桂太郎陸軍大将(6)負けてなるものかと、壽熊はさらに二十四枚張の紙鳶を作った

2017年06月16日 | 桂太郎陸軍大将
 「桂太郎自伝」(桂太郎・宇野俊一校注・平凡社・平成5年)によると、桂太郎は、桂家の先祖を次のように記している。

 我が桂家の遠祖は、参議従三位大江朝臣音入なり。音入十代の孫を前陸奥守正四位下広元とし、広元十代の孫を桂左衛門尉広澄とす。広澄は桂家の祖にして、我は広澄十一代の孫なり。

 また、「桂太郎」(小林三千彦・ミネルヴァ書房・平成18年)では、次の様に述べられている(要旨)。

 桂家の遠祖は鎌倉幕府の政所別当・大江広元だと伝えられている。広元の第四子が毛利氏の祖、季光(すえみつ)である。つまり、桂家と毛利家は大江氏を同祖としているのだが、その後分かれて主従関係を結ぶに至っている。

 桂家は代々、武勇の誉れ高い家柄で、元祖廣澄は毛利広元から元就に至る四代に仕え、各地の戦役に従っている。

 廣澄の長子、元澄は、陶晴賢との戦いで大いに軍功を挙げ、天文二十三年(一五五四年)五月櫻尾城主に封ぜられた。

 元澄には男子が七人あったが、桂家は、第五子である廣繁の嫡流であり、代々毛利家に仕え、桂太郎の祖父、繁世は、馬廻役(一二五石)だった。
 
 萩藩では、録一五〇石以上の者でなくては、物頭、使番などの表役には就けなかった。従って、桂の父、与一右衛門は、祐筆に始まり、世子(元徳)の所帯をつかさどる御用所で終わっている。

 だが、伊藤博文(貧農)、山縣有朋(下級士族)の出自に比べれば、毛利家の家臣団における位置は、はるかに高い。

 「桂太郎」(川原次吉郎・時事通信社・昭和34年)によると、桂太郎の父、与一右衛門は、祐筆、検疫、大検疫、軍艦製造用掛、海防用掛、世子の御用所、船木の代官などを勤めた。
 
 桂太郎は、少年の頃から負けず嫌いの気性だった。壽熊(桂太郎の幼名)は、紙鳶(たこ=凧)あげをして遊ぶのが大好きだった。

 ある日、広折六枚張の紙鳶を作った者がいた。すると、壽熊は負けぬ気を起こして、その倍の十二枚張の紙鳶を作って揚げた。

 今度は、それを真似て、同じく十二枚張のものを作った者があったので、負けてなるものかと、壽熊はさらに二十四枚張の紙鳶を作った。とうとうそれにはかなわないと、もう誰も壽熊に真似る者はいなかった。

 当時の人々は、壽熊の負けず嫌いは、「川島の三勇女」の一人である、壽熊の母・喜代子の気質を受け継いだものだと評していた。

 「近代政治家評伝―山縣有朋から東條英機まで」(阿部眞之助・文藝春秋・平成27年)によると、桂太郎の母、喜代子は長州藩、中谷氏の娘で、やせ形の四尺(約一二一センチ)そこそこの小柄の女で、現存する写真によると、髪が薄く、眼が凹(くぼ)み、奥の方に瞳が光っていた。

 鼻筋が通り、キリッと口元が締り、美人ではないが凄味があった。表情の如く、意志が強く、負け嫌いだった。萩の人々は、赤川、江木両家の女房と、喜代子とを併せて、「川島の三勇女」と言った。

 川島村とは、桂太郎が成長した萩城下の、一部落である。川島村には士族屋敷と農家とが、アイ接して居住していた。

 「桂太郎自伝」(桂太郎・宇野俊一校注・平凡社・平成5年)によると、桂太郎は、母、喜代子について、次の様に記している。

 我が幼き頃、母の常に語りたまひけるやう、汝が両親たる我等は、かくてこそ世を終ふるべきなれ、我が児等は何とぞ人らしき人となれかしとは、我等の希ふ所なり、わけて汝は嫡子にて桂家を嗣ぐべきなれば、及ぶだけの教育を施さゞるべからず、汝を十分に教育する上は、弟妹は汝自らこれを教養すべき手だてをなせよ、我が深く心を費すべきにあらずと宣へり。

 また、同書で、桂太郎は、幼少時に起きた、ある事件における、母の思い出を、次のように書き記している。

 我が母の端正にておはせし一例を記せば、或時学塾よりの帰途、或友と争ひしに、其友は刀を以て我に向ひければ、我は其刀を奪ひ取りてこれを家に持ち帰れり。
 
 既にしてまた出でゝ遊泳せんとするに臨み、母にこれを渡して、若し人の来りて請ふことありとも、決して此刀を返し与へたまふなと話し置きたるが、果たして我の未だ帰らざるに、前の友なる家より使して、今日自家の子が刀を遺れたれば、返付せらるべしと云はしめたり。
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