公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

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アナンダミドは最後の哲学

2017-05-11 05:35:25 | 麻薬

「パンと水さえあればゼウスと幸福で勝つこともできる」とエピクロスが本当に言ったかどうかはしらない。なにせ古い話だから、彼は紀元前270年にはもうこの世にはいない。このようにも言ったらしい。
「パンと水とで暮らしておれば、私は身体上の快で満ち満ちていられる。私は贅沢による快を、それ自身の故ではないが、それに随伴して嫌なことが起こるがゆえに、これを唾棄する。」(断片2 後のバチカン所蔵の写本『エピクロスの勧め』)
隠れて生きよなどというのは今には合わないかもしれない。しかしながら真の快楽(快)は精神的なものというエピクロス派の考えは間違っていないかもしれない。エピクロスは贅沢や感覚に満足を得ることを否定してはいない。それ以上に見えない満足の方が見える満足より心地よく、たとえ自分にさえ見えない何ものかによる快であっても、それを求めて生きることは間違ってはいないのではないかというプラトンとは全く逆の問題設定が清々しい。むしろそういうふうにできているのが人間ではないのか。


極めて面白いカンナビノイドに関する研究がある。本当はノーベル化学賞はこの分野で出てほしいいと思うくらい意義深い研究。一連の研究はハッシシや大麻といわれる植物中に30種以上もある薬物の本体カンナビノイドから本命分子テトラヒドロカンナビノール (THC) を見つけたばかりでなく、体内で生み出されるカンナビノイド受容体に結合する物質、アナンダミド、脳内マリファナなどと言われている物質があることをみつけている。


 これを発見したのは、1992年、ヘブライ大学のRaphael Mechoulamの研究室にいたチェコの分析化学者Lumír Ondřej Hanušとアメリカの分子薬理学者William Anthony Devaneの二人である。
 人間の深い欲望を満たして満足することがエピクロス派のいう哲学の目的なのだが、人類は2300年を経て、深い欲望の最後のスイッチが精神活動で生まれるという大きな発見も果たした。

 アナンダミドはエピクロスに勝利をもたらす最後の哲学、すなわち脳科学あるは生理化学のキーワードだろう。人はなぜ生きる意欲を持っているのか。母親の乳房から分泌されるタンパク質には脳内モルヒネの前駆蛋白が含まれている。人間の幸福の量はこの時が最大である。なぜなら、血液脳関門がすぐに閉じてしまうから、大人になってから母乳を吸っても幸悦感は味わえない。生まれながらにしてエピクロス派の人間の幸悦追求の旅が始まる。

 いわゆるランナーズ・ハイなど精神的満足がもたらすハイは、男性の場合は彼の性欲を抑制するくらい、ハイになった時の内因性の脳内マリファナは強力である一方で、女性は彼女の性欲が増進する。充実した中年の趣味男と趣味女が一緒に暮らすと家庭内は面倒な事になるかもしれない。それはさておき、アナンダミドはカンナビノイドとは全く異なる構造であるにもかかわらず同じ受容体に働く。しかもアナンダミドはすぐに分解されて、刺激が持続しない。脳内ハイは生物学が答えを出す最後の哲学だろう。何故ならば、生存の前提となる乳を吸う本能さえカンナビノイド受容体を失ったネズミは失ってしまうのだから。
追補2017.5.11
最新研究
最新の知見では記憶にも関係する。


↓こちらのニュースの驚きは、細胞再生という低次の根本的な生存条件まで抑制しているということです。カンナビノイド=神=アナンダミドです。ア~ナンまいダ~ミド。
痛みが神経再生に重要な役割
10月17日 7時42分 NHK

痛みを抑える物質の1つが神経の再生を妨げる働きもしているとする、動物実験による研究結果を名古屋大学などのグループがまとめ、痛みが神経再生に重要な役割を果たしていることを示す結果として注目されています。

研究を行ったのは名古屋大学大学院理学研究科の久本直毅准教授らのグループです。
グループは線虫という小さい生き物で、神経が再生するときに分解される「アナンダミド」という物質に着目しました。
実験の結果、神経を切断しそのままにしておいた線虫ではおよそ65%の神経が再生したのに対して、アナンダミドを与えた線虫ではおよそ25%しか再生しなかったということです。
アナンダミドはヒトでもケガをしたときに分泌され、痛みを和らげる物質で、マリファナに構造が似ているため「脳内マリファナ」とも呼ばれます。
この物質が安全な鎮痛剤への応用が期待されていることから、グループでは、実用化にあたっては神経の再生を妨げないよう、注意が必要だと指摘しています。
久本准教授は「リハビリなどで強い痛みを感じる人は多いが、ヒトでも同様の仕組みがあるとすれば、神経の再生のためには痛みを感じることが重要な可能性がある」と話しています。
この成果は17日発行のイギリスの科学雑誌「ネイチャーコミュニケーションズ」の電子版に掲載されます。



麻薬の昭和史
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