公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

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知識労働者は自由を必要としている 3

2019-11-13 12:45:00 | 意見スクラップ集
知識労働者は自由を必要としている 2

研究成果が利用されている姿を見ることができて幸せです。

私はデール・カーネギーなど知らなかったが研究者を動機づける手法は心得ていた。それは彼の手法と同じだった。

相手に理由を与えてやる
たとえば、何か素晴らしいアイデアが浮かんだ際に、そのアイデアを相手に思いつかせるように仕向け、その発案を絶賛して褒めてやれば、相手はそれを『自分の発案』だと思い込んで積極的に企画を進めようとするだろう。
研究成果のポイント
我々独自のiPS細胞誘導方法によって、レトロウイルス注1)からの遺伝子発現が、素早く高効率に抑制されることを発見しました。
レトロウイルスゲノム中のPrimer-binding site(PBS)注2)が、この発現抑制に関与していることがわかりました。
iPS細胞誘導によって発現が誘導されたTAF-Iαタンパク質注3)がPBS周辺に結合し、その発現抑制の開始に関与していることを見出しました。
内在性レトロウイルスの再活性化阻害による、ゲノムの安定性維持機構の理解に繋がることが期待されます。

国立大学法人筑波大学医学医療系西村健准教授、久武幸司教授らの研究グループは、レトロウイルスからの遺伝子発現を抑制する新たな分子機構として、TAF-Iαタンパク質が、レトロウイルスゲノム上のPrimer-binding site (PBS)周辺に結合して、その発現抑制を起こすことを見出しました。

人工多能性幹細胞(iPS細胞)をレトロウイルスベクターを用いて誘導する際、その誘導過程でレトロウイルスからの遺伝子発現の抑制(サイレンシング)が起こることが知られています。また、ヒトゲノムの安定性を維持するためには、過去に感染したレトロウイルスの残骸である、内在性レトロウイルスのサイレンシングが重要です。これに関わる因子として、様々な分子が同定されてきていますが、その開始機構など、詳細な分子機構はまだ明らかになっていません。

本研究グループは、独自の遺伝子導入ベクター(SeVdpベクター注4))を用いてiPS細胞誘導を行うと、誘導開始5日後という早い時期に、ほぼ全ての細胞でレトロウイルスサイレンシングが起きることを明らかにしました。そこで、このiPS細胞誘導系を用いて、レトロウイルスサイレンシングの分子機構の解析を行いました。その結果、レトロウイルスゲノム中のPBS配列がサイレンシングに重要であることや、iPS細胞誘導に用いる遺伝子のうち、OCT4、SOX2、c-MYCの3つが、このサイレンシング誘導に必要であることを明らかにしました。サイレンシング誘導時にPBS周辺に結合する分子を同定して、その機能解析を行った結果、TAF-Iαタンパク質はiPS細胞誘導時に発現が誘導されてきて、PBS周辺に結合することによって、レトロウイルスのサイレンシングを引き起こすことを明らかにしました。

本研究成果は、内在性レトロウイルスの制御によってゲノム安定性を維持する機構のみならず、生体内の様々な遺伝子発現調節機構の理解につながることが期待されます。

本研究の成果は、2019年11月12日付「Cell Reports」誌で公開されました。

研究の背景
京都大学の山中教授らが人工多能性幹細胞(iPS細胞)を世界で初めて作成した際、レトロウイルスベクターを用い、4つの初期化誘導遺伝子(KLF4、OCT4、SOX2、c-MYC)を発現させてiPS細胞を誘導しました。iPS細胞を様々な細胞に分化させるためには、初期化誘導遺伝子の発現が抑制される必要があるため、レトロウイルスベクターからの遺伝子発現が抑制されていることが、良質なiPS細胞の指標の一つとされています。従来のレトロウイルスベクターを用いたiPS細胞誘導方法では、レトロウイルスベクターからの遺伝子発現抑制(サイレンシング)が誘導後期に起こると言われていますが、どのような機構でサイレンシングが起こるかは不明です。また、ヒトのゲノムDNA中には、太古の昔に人類に感染したレトロウイルスの残骸として、内在性レトロウイルスが存在します。そして、この内在性レトロウイルスからの遺伝子発現が起こり、ウイルスゲノムが増殖すると、ヒトゲノムの新たな場所にこのウイルスゲノムが挿入されるため、ヒトゲノムの安定性が脅かされます。そのため、内在性レトロウイルスのサイレンシングを維持し、再活性化させないことが、ゲノムの安定性を維持するために重要です。

このレトロウイルスのサイレンシングが起こる機構については、関連する因子が同定されてきてはいますが、どのようにしてサイレンシングが開始されるかなど、その詳細な分子機構は明らかになっていません。

研究内容と成果
本研究では、レトロウイルスを感染させた細胞に対して、我々独自の遺伝子導入ベクター(SeVdpベクター)を用いてiPS細胞誘導を行い、誘導過程で起こるサイレンシングを観察しました。その結果、iPS細胞誘導開始5日後には、サイレンシングがほぼ全ての細胞で起きていました。このように、我々のiPS細胞誘導方法では、サイレンシングを素早く高効率で誘導できた(図1)ことから、この方法を用いて、サイレンシング誘導機構の解析を行いました。

まず始めに、変異を挿入したレトロウイルスを用いてサイレンシング誘導の有無を解析した結果、レトロウイルスゲノムに存在する、Primer-binding site (PBS) の配列が、サイレンシング誘導に重要であることが分かりました。また、4つの初期化誘導遺伝子の中で、OCT4、SOX2、c-MYCの3つがサイレンシング誘導に必要であることも明らかになりました。

そこで次に、サイレンシングが起こる際にPBS周辺に結合しているタンパク質の同定を試みた結果、TAF-Iタンパク質が同定されました。TAF-IにはTAF-IαとTAF-Iβの二つの異なる構造のタンパク質(アイソフォーム)が存在しますが、両者の発現を調べたところ、TAF-IαはiPS細胞誘導に伴って発現が誘導されてくるのに対し、TAF-Iβは常に発現していました。そして、TAF-Iαを過剰発現させることによって、より多くの細胞にサイレンシングを誘導できることも見出しました(図2)。

以上の結果から、iPS細胞誘導時には、TAF-Iαの発現が誘導され、それがレトロウイルスのPBS周辺に結合することによってサイレンシングを誘導する(図3)という、新しいサイレンシング開始機構が明らかになりました。

今後の展開
ヒト遺伝子の発現調節において、レトロウイルスサイレンシングに働く分子と共通なものが数多く存在します。本研究をさらに進めて、TAF-Iαを中心としたサイレンシング機構を明らかにすることによって、生体における遺伝子発現調節機構の理解を深めることにつながると思われます。また、内在性レトロウイルスの再活性化を防ぎ、ゲノムの安定性を維持する分子機構の理解や応用にも、本研究成果が活かされることが期待されます。

 
 


 
 
図1:iPS細胞誘導によるレトロウイルスサイレンシングの誘導
iPS細胞誘導用SeVdpベクターを導入5日後に、レトロウイルスからの赤色蛍光タンパク質の発現を観察すると、SeVdpベクター導入細胞では、レトロウイルスからの遺伝子発現が抑制されている。



 私がベンチャービジネスに関わりを始めたおよそ25年前の遺伝子治療の世界では、熾烈な特許競争があった。細胞を体の外に取り出して遺伝子をいれてから体に戻すという米国特許の医療は海外で特許として申請されていた。当時も今も治療方法自体の特許は日本では認められていなかったが、ベクター供給が米国企業に独占される可能性があった。このとき最も危機意識を持ったのは医学界の重鎮高久先生だった。医師が独占していた医療行為の自主決定が、海外の特許で包囲されてしまうという危機感はまさに黒船だった。iPS細胞治療もこの一種だ。
 この黒船の到来に刺激されて、日本独自の遺伝子治療ベクターをつくって対抗しようと言うのが趣旨で、2年がかりで医学界のトップに提案し官民で設立したのが1995年設立(株)ディナベック研究所(今は事業譲渡されている)だった。その成果がSeVだ。黒船は公費出資と民間出資を組み合わせたベンチャービジネス設立の一つの動機だった。私は製薬会社に所属していた立場から、将来の医薬品の形づくりの先頭に立つ挑戦の場でもあった。
 さてそれから23年を経て、日本で遺伝子治療薬はやっと承認された。
 ほぼ時期を同じくして、森下竜一先生が遺伝子治療1999年設立のアンジェスMGの臨床研究は成功し、承認された。しかし森下先生の落胆はさらに日本の先端分野の沈没を予言している(アエラ11月15日号 現代の肖像/森下竜一-予言された「日いずる国の没落」の記録)。

 自由の価値を他人より少しだけ早く知る事が出来る者達である知識労働者は、往々にして似たような悲劇を体験する。

 患者が居て、患者が救われる方法があって、それを施す人材も居る。それによって有名になった人物を妬むのは個人の任意裁量の出来事としても、社会がそういう価値創造のチャンスをシステムとして社会にくみ上げるのでなく、逆に潰す医学界と厚生行政は日本における種痘の歴史(1849年11月 緒方洪庵ら大阪に除痘館開設)に学び、医学界の指定席を譲るべきだろう。
 

日本のベンチャー元年は1995年。中小企業創造法の制定を機に多くの研究開発型企業が生まれました。結論から言えば失敗に終わりました。なぜなら起業家の大半が町の「発明屋」レベルだったからです。
松田 修一 早稲田大学大学院商学研究科専門職大学院教授

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