■平均律1巻22番の前奏曲は、何声部の曲か?■
2012.4.24 中村洋子
★やっと、暖かくなりましたが、本日は、
Johann Sebastian Bach バッハ ( 1685~1750 ) の
「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」
第 1巻 22番 b-Moll 変ロ短調の 前奏曲とフーガを、
Bach 自筆譜で、じっくり勉強いたしました。
★前奏曲の冒頭1小節目から、3小節目の1拍目まで、
バスは、 b音 ( 変ロ音 ) の 8分音符 repeated notes が、
延々と、17回も続きます。
その上に、ソプラノの旋律が、切々と歌われます。
★バスとソプラノの間を埋めているのが、分厚い和音です。
市販の実用譜を見ますと、その和音の書き方は、
お花見団子のように、 “ 串刺し ” にしているのが、多く見られます。
和音を構成する複数の音 ( 符頭 ) を、無神経にも、
一本の符尾で、まとめているのです。
★しかし、 Bach の自筆譜には、1ヶ所も
“ 串刺し ” の和音は、存在しません。
Bach の書き方は、下から上へと、垂直に並べられた和音構成音の、
一つ一つに、丁寧に符尾が書かれています。
さらに、そこから伸びる符鉤 (ふこう、 hook = 英語、Fahne = 独語)
も、 一つずつ、分離して記譜されています。
★なぜ、 Bach がこのように記譜したのか、
それを、理解することにより、
前々回のブログで、書きました
≪ Kontrapunkt counterpoint 対位法 ≫ の意味も、
自ずと、分かってくるのです。
★この前奏曲は、深く豊かな和音で、組み立てられています。
右手が5個、左手が4個と、計9個もの和音構成音から、
成り立っているものも、あります。
★それでは、この前奏曲は一体、「 何声 」 の曲なのでしょうか。
27日の講座で、詳しくご説明したいと、思います。
★前奏曲 22番は、冒頭 b1 から、ソプラノの旋律が始まります。
1段目は、4小節目の前半で切断され、
2段目は、4小節目の 3拍目から始まります。
何故、このように変則的なレイアウトにしたのでしょうか。
★2段目の冒頭のソプラノは、 b1 より 1オクターブ高い b2です。
1段目のソプラノのメロディーが、ゆっくり b2 を目指して進行し、
2段目の b2 に、辿り着いたとみていい、と思います。
曲の最初の頂点が、
この 4小節目の 3拍目 b2 であると言えるのです。
★そして、この b2 は、続く 5小節目 1拍目の c3 に向かって、
さらに、上行します。
5小節目の c3 は、この前奏曲の最高音です。
最初の頂点 b2 に、次の頂点 c3 が、畳みかけられているのです。
★2段目も、8小節目前半で、またもや、切断されています。
5小節目の c3 を頂点として、その後、8小節目の前半までは、
緩やかに、下行します。
これで、演奏上のエネルギー配分を、どうしたらいいのか、
お分かりになると、思います。
★実は、Frédéric Chopin ショパン (1810~1849)の、
≪ Mazurka マズルカ ≫ 自筆譜も、
この Bach の前奏曲と、同じような記譜になっているのです。
★さらに、この前奏曲の中に、
Franz Schubertシューベルト(1797~1828)や、
Tchaikovsky チャイコフスキー(1840~1893)も、
顔を覗かせていることが分かり、一人で、わくわくしました。
★この平均律 22番の講座は、4月 27日に 「 カワイ表参道 」 で開催。
★ 4月 30日は、 「 横浜みなとみらい・カワイ 」 で、新シリーズの
≪ ショパンが見た 「 平均律クラヴィーア曲集 」 アナリーゼ講座 ≫の、
第1回 平均律第 1巻第 1番を、開催します。
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