音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ 平均律20番フーガを解くカギは Chopin の記号にあり ■

2012-02-14 19:20:31 | ■私のアナリーゼ講座■

■ 平均律20番フーガを解くカギは Chopin の記号にあり ■
          〜第 20回平均律アナリーゼ講座のご案内〜
                      2012.2.14          中村洋子

 

 

★きょうは、雨のヴァレンタインデーです。

2月17日、KAWAI表参道 「 パウゼ 」 で、開催いたします

「 第 20回 平均律アナリーゼ講座 」 の準備で、 

「 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 20番  a-Moll 」 を、勉強中です。
http://shop.kawai.co.jp/omotesando/news/index.html#lecture20120217


Frédéric Chopin ショパン(1810〜1849)が、所持していました

平均律 20番の楽譜に、 Chopin が自分で書き込んだ 「 記号 」 が、

≪ 何を意味し≫、

≪ Chopin が、20番  a-Moll のフーガをどのように見ていたか ≫

について、今回の講座で、詳しく解説いたします。

この記号を解明することにより、 20番フーガの理解が一層深まり、

お弟子さんに思いやり深かった Chopin から、まるで、

「 このフーガは、こういう曲なんですよ 」 と、直接レッスンを受けている

ような錯覚すら、覚えます。


★ Chopin は、フーガ 20番 に、4つの 記号 書き込んでいます。

「×」 、 「 キ 」 、 「 □ 」 、 「 □の中に× 」 です。

「×」 と 「 キ 」 の記号は、比較的容易に推測できます。

「×」 は、主題 ( Subject ) の頭部に付されており、

素直に、「 主題 」 を示していると思います。

「キ」 は、 「 反行主題 ( Subject by Inversion ) 」 と、見ていいでしょう。


反行 ( Inversion 、Umkehrung ) とは、例えば、 

「 2度上行 、 2度上行 、 3度上行 、 4度下行 」 する

 「 ソ ラ シ レ ラ 」 という 「 Motiv 」 があった場合、

その反行は、「 2度下行 、 2度下行 、 3度下行 、 4度上行 」 、

すなわち、 「 ソ ファ ミ ド ファ 」 に、なります。


★このような形態の 「 Motiv 」 であれば、反行形の開始音は、

「 ソ 」 である必要はなく、どの音でもいいのです。

「 レ ド シ ソ ド 」 も 「 ソ ラ シ レ ラ 」 の、反行になります。

 

 


★ここまでは、どなたがご覧になっても、分かることです。

フーガを演奏する際、主題や反行主題の冒頭に、

分かりやすく、何らかの記号を付ける、ということは、

 Bach のフーガを勉強する際には、一般的なことです。


★しかし、 Chopin の 「□ 」 の記号は、一筋縄ではいきません。

 この記号は、鉛筆のようなもので、薄く書かれていることもあり、

あまり、気に留めず 「 なにか記されているが、大した意味もないであろう 」

と、見落としてしまいがちです。

しかし、この  「□ 」 の記号こそ、≪ Chopin の見た Bach ≫、

≪  Bach から  Chopin が何を学び、自身の作曲の根幹に、

何を据えていったか ≫ を、見事に浮かび上がらせているのです。

逆に、≪ Chopin の音楽を解くカギ ≫、ともいえるのです。


★一例を挙げますと、 フーガ 4小節目のバスの開始音 「 イ音 a 」、

8小節目のソプラノ開始音 「 1点イ音 a1 」 に、

この 「□」 が、記されています。


★4小節目は、アルト声部に応答 ( Answer ) 、

8小節目は、バスに主題 ( Subject ) が、奏されます。

このフーガは、はっきりとした形の対主題 ( Counter-subject ) を、

もっていませんので、 ≪ Counter-subject  の代わりを務めるもの ≫

として、その冒頭の 4小節目 「 a 」、 8小節目の 「 a1 」 に、

「 □ 」  を付けたであろう、ということは、すぐに推察できることです。


★しかし、 4小節目 「 a 」 と 8小節目の 「 a1 」 との中間の、

7小節目の冒頭、ソプラノ  「 1点ホ音 e1 」 にも、

この 「 □ 」 が、記入されているのです。

 ≪ 対主題 Counter-subject  の代わりを務めるもの ≫

では、なかったのです。

 

 


★1〜3小節は Subject 、 4〜6小節は Answer 、 

7〜9小節は Subject と、  3小節単位で主題が現れます。

この 7小節目は、短い 「 間奏 」 または 「 Codetta 」 と、

とらえることができます。

決して、 Counter-subject に代わるものではなく、

この  「 1点ホ音 e1 」 に続くものは、

 「 e1  fis1  gis1  a1  h1  c2  d2  e2 」  という音階なのです。


★  「 □ 」 は、 14、 22、 27小節・・・と、

20個近く、書き込まれています。

この 「 □ 」 を、解明しますと、

Chopin が読み取った Bach が、厳然と浮かび上がってきます。


★3か所ある 「 □の中に× 」 の記号は、

「 □ 」 を発展させたものとして、みていいでしょう。


★私が、この  「 □ 」 から受け取りましたメッセージは、

 Edwin Fischer  エドウィン・フィッシャー  の  Fingering と、

全く、同じものなのです。


★ Chopin が示した 「 この 20番フーガとはどういうものか 」 は、

 Bach の豊穣さを、さらに一層、私たちに示してくれます。

同様に、その豊穣さを見抜いた Chopin の豊かさにも、感動します。

≪ Chopin を解くカギ ≫ が、フーガ 20番でもあるのです。

 

 

                                         ※copyright © Yoko Nakamura
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