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『闇からの声』

2007-10-13 | 本を読むのが好きだとか
闇からの声 (創元推理文庫)
イーデン フィルポッツ,Eden Phillpotts,橋本 福夫
東京創元社

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『闇からの声』イーデン・フィルポッツ、橋本福夫訳。東京創元社、1972年。

※ネタバレがあるので未読の方はご注意を。

少年の頃に子供向けの本で読みましたが、改めて読んでみるとストーリーが雑な印象を受けますね。面白くはあるのですが。

引退した老刑事・リングローズは、宿泊したホテルの一室で、少年の泣き声を耳にします。それはかつてその部屋で亡くなった子供のものと思われました。

実は、その少年は、さる貴族の遺産相続争いのために父親もろとも罠にかけられて殺害された疑いがあったのです。そこでリングローズは早速調査に乗り出し、当時少年と一緒にホテルにいた執事や、少年の叔父が怪しいと睨んで、その罪を暴きにかかるのです。

まあ結論を言うと、犯人を追い詰める途中でリングローズは殺されかけたりするのですが、最後は悪人は死亡したり逮捕されたりしてハッピーエンドです。最初に出てきた「闇からの声」つまり少年の幽霊の正体も明らかになります。

さてこのストーリーのどこが雑かというと、そもそも幽霊の正体というのが、同じホテルに泊まっていた老婆の腹話術だった、というのだから凄い。このお婆ちゃんも回りくどいことをしなくてもいいのに、かつて名刑事として名を馳せたリングローズは見事にそれに引っかかってしまうわけです。

しかもこのリングローズも、果たして少年の死亡が殺人だったのかどうかという点をほとんど突き詰めずに、老婆の話を鵜呑みにして、いきなり「よし、怪しい奴を罠にはめてやろう」とばかりに策略を巡らせています。

その上、その罠に嵌めた相手は、リングローズのせいで精神的に追い詰められて自殺までしてしまうのです。それでも我らが主人公は、途中までは「奴をこんな風に追い詰めるのは忍びないなぁ」と思っているのに、自殺したとなると、悪人だから自業自得だとばかりにさっさと次のターゲットに狙いを定めています。

この「次のターゲット」もなかなかに見上げた奴で、自分が犯人なんだと告白した直後にリングローズに弁当やワインを勧めたりしています。もちろん我らがリングローズは「毒が入っているのは当たり前だよね!」と言わんばかりに、食べたふり(また都合よく食べ物を捨てるチャンスがあるし)と死んだふりで窮地を逃れるのでした。

この作者のイーデン・フィルポッツには『赤毛のレドメイン家』という、プロットの妙を見せ付けてくれる古典名作があるのですが、それに比べてもやっぱり雑ですね。

ただ解説の中島河太郎がそういった点についてはほとんど書いておらず、犯罪者の心理描写に感嘆の声を上げているのは納得がいくところです。ストーリーが雑な割りに、とにかくこの小説の悪人達の心理描写は妙に細やかで美しくすらあります。

そして心理描写の巧みさは、時としてストーリーの不合理さをも捻じ伏せてしまう程の力を発揮することがあります。何故といって人間の心理というものを追及すれば善悪や美醜の矛盾に行き当たらざるを得ないからです。

ですからむしろこの『闇からの声』は、論理的整合性や謎の解明を期待して読むから失望するのであって、登場人物たちの人間描写とその心理戦を楽しむような形で読むのが良さそうです。そう考えると、この物語は刑事コロンボのような倒叙物に近いのかも知れません。

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2 コメント

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Unknown (にこまる)
2007-10-13 15:55:17
 大人が読むと雑に思えても、子供には面白いお話なのかも知れないね。
 姪っ子なんかも、「こんなのありぃ~?!」って結末の本に目を輝かし、興奮して話します。
 子供って純粋。あたいたち汚れちゃったのね
■にこまるさん (きうり)
2007-10-13 16:58:20
そうですね~、子供は子供なりに、大人は大人なりに、それぞれ満ちているもの、足りないもの、失っているものがあるんだと思いますね

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