テキスタイルダイバー TEXTILE DIVER by Timor Textile

布を探して世界を旅し、旅をしながら写真を撮る。日本を巡り布を商い、民族の布を伝える。布につながるすべての感覚をひろげて

絣、あるいはイカット、あるいはフゥトス

2016-10-19 | 布を探しに
絣と呼ばれる染織技術は、織機にかける前の糸に模様を結び染めることで、その結んだ部分が染まらずに白く跡として残り模様になる。
たて糸もよこ糸も結んで模様を出すのはたてよこ絣といわれ、この技法は世界でも日本、インドネシア、インドの3か国でしか行われていない。
そしてたて糸のみを結ぶのはたて絣、よこ糸のみならばよこ絣となる。
絣の技法は英語ではイカットと呼ばれるが、これはマレー語の結ぶ、括るを意味する言葉から作られた染織用語で、西洋社会に絣を意味する特別な言葉がなかったことが察せられる。

ティモールでは絣をフゥトスと呼ぶ。民族固有の名称で呼び親しまれていことは、絣が彼らの伝統染織布であるとの証で、モノやコトは名前をつけてもらって始めて人と暮らしを共にする。
ティモールのフゥトスはたて絣で、絣を結ぶための枠にクルクルとたて糸を張り糸のキャンパスを作り、そこに染めたい模様を結んでいく。
張り詰められた真っ白な糸には下絵はなく、参考のデザインが手元にあるわけでもない。
模様は真ん中からでも端からでも好きな位置から結び始める。結び手のからだには何種類かの模様が染みていて手は頭と関係なく動いているよう。
今では絣の結ぶ糸にピンクやブルーのナイロンテープが使用されているが、少し前までは乾燥させた椰子の葉を細く割いた繊維が使われていた。乾燥した椰子の繊維を結び易くするために、結ぶ直前に唇にあてスッと引いて湿らす仕草には色気が漂い、また白い木綿糸に生成りの椰子の繊維が結ばれていく工程は、手の仕事は人のからだ、仕草が直接モノに働きかけ生まれ、指先から気持ちまでがスッと一緒にモノに入り込むことだろう。
以前ママベンデリナの模様を結ぶ仕事を静かに見ていたとき、老いて視力の弱った彼女は白いたて糸に生成りの椰子の繊維では見づらいからと括りの糸を藍で染めていた。白いたて糸に藍の繊維で結ばれていく模様はその段階ですでに"美"が完成を心待ちに見守っているように感じられた。
「木綿を紡ぐことよりも、機織りよりも、絣の模様を結ぶことが一番難しい」と女たちは口を揃える。藍一色で染めるなら模様を一回結べば白と藍になる。そこに赤色を入れるなら染めたい場所の結びを開いて、藍に染めたとろをもう一度結んで色が入らないようにして赤色の染料に浸す。結び目が甘いと染料が入り込み、模様はさっさと逃げて行ってしまう。
"結び"の行為は文字の役目や数を記録したりもする。また"結ぶ"という言葉自体にもさまざまな意味が入り込む。結びを学んだ人類は紐を石に結び道具を見つけ、紐は結ばれ編まれ、織物へと進んでいく。
結んで開いて結んで開いて、結んで開いたところが模様になる・・・。結ばれるのはどうやら模様だけではないようだ。結び目に籠めるのは彼女の思い、そして民族の記憶。それらを未来へ繋げるための再生の儀式を繰り返しているのかも。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 布を織る道具 腰機 | トップ | アジアの布 〜 アトリエ ト... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。