All Things Must Pass

森羅万象 ~ 歩く印象派

ついに解明されたハプスブルク家滅亡の原因

2010年04月28日 19時43分07秒 | 歩く印象派
スペイン・ハプスブルク家の断絶に見る、近親婚の結末

 近親婚で滅んだ一族として有名なのは、スペインのハプスブルク家もその1つです。スペインはハプスブルク王朝(1516~1700)の下で、世界の一大帝国として大きな繁栄を遂げました。しかし、王家では叔父と姪、いとこ同士など血縁者間での結婚が一般的で、この近親交配が、繁栄を極めた王朝の滅亡の大きな原因だったとされます。

 昨年4月にスペインのサンチアゴ・デ・コンポステラ大学が発表した研究論文「The Role of Inbreeding in the Extinction of a European Royal Dynasty」によると、スペイン・ハプスブルク家の最後の王、カルロス2世(1661~1700)の死因は遺伝性疾患という、長年唱えられてきた仮説が裏付けられました。

 カルロス2世は、身体的障害・知的障害があったことで知られ、1700年に39歳で没しました。生涯で2度結婚していますが、カルロス2世は性的にも不能だったとされ、子供を成すことができず、王位を継承させることができませんでした。カルロス2世の死去によって、フランスのブルボン家へ王位継承権がわたり、フェリペ5世が即位しています。これまでカルロス2世の死は近親婚による遺伝的疾患のためと仮説が立てられてきたものの、その遺伝的証拠が明示されたことはありませんでした。

 同研究では、スペイン・ハプスブルク家を16世代前まで遡り、3千人以上の人々の近親交配係数(近親者との交配レベルがわかる係数)を計算して、調査しました。その結果、スペイン・ハプスブルク家の近親交配係数は、王朝の創設者であるフェリペ1世の時代には0.025だったものが、最後のカルロス2世の頃には0.254まで飛躍的に増加していることが判明。同王朝での近親婚に加え、それ以前の複数の先祖の近親婚が重なった結果、交配係数が通常ではあり得ない増加を示し、これがカルロス2世の遺伝性疾患を招いたことを裏付けました。

 またカルロス2世以外でも、スペインのハプスブルク家では幼児の死亡率が異常に高く、10歳以上まで生き残ることができる子供が少なかったこともわかりました。研究によると、1527年から1661年までの間にハプスブルク家には34人の子供がいたものの、そのうち10人(29.4%)は1歳までに死亡、17人(50.0%)は10歳までに死亡しています。これは当時の一般的な乳幼児死亡率より明らかに高い数字です。

婚姻で領土を広げるハプスブルク家の政策
 スペイン・ハプスブルク家の滅亡(古代エジプトからロスチャイルド家まで、“王家の血筋”の法則とは?【1】)は、近親婚の影響が最もわかりやすく、強く出た例です。スペインのハプスブルク家は11組の結婚のうち、実に9組が3等身以内の結婚でした。

 しかしスペインだけではなく、オーストラリア・ハプスブルク家(ハプスブルク=ロートリンゲン家)も多くの近親婚を繰り返しています。また「戦争は他家に任せておけ。幸いなオーストリアよ、汝は結婚せよ」という言葉の通り、ハプスブルク家全体は他国との婚姻政策によって領土を広げてきた歴史があり、同じく政略的に近親者との結婚を奨励してきたという背景があります。

 これほど婚姻政策が有名な一族でなくとも、中世のヨーロッパ貴族・王族にとって、近親婚はごく当たり前の習慣でした。王族、貴族が近親婚を選ぶ理由としては、次のような要因が考えられます。

王族・貴族が近親婚を選ぶ理由

ハプスブルク
ハプスブルク家最初の神聖
ローマ皇帝、ルドルフ1世
【1】神格化した王の権威を守るため
 古代エジプトのように、王は神の子孫であると考える王朝の場合です。神格化された存在であるファラオが一般庶民と血を交えることはあり得ないことであり、その権威を守るために、結婚相手は自国の王族か他国の王族に限られました。また古代エジプト王家では実の娘や姉妹と結婚することは普通のことだったため、文化的抵抗感がなかったということもあります。

【2】財産の拡散を防ぐため
 上流階級においては、これが近親婚を選ぶ最大の理由です。爵位や土地などの財産は結婚によって相続されていくため、一族の外に財産を流失させないために、いとこ同士などの近親婚が好まれました。ハプスブルク家など多くのヨーロッパ貴族や王族はもちろん、20世紀前までの金融財閥ロスチャイルド家など、近現代においてもこの理由で同族間から結婚相手を選ぶ名門一族は多いです。

【3】一族の血の純潔を守るため
 名家において財産の拡散を防ぐという理由と同じくらい重視されるのが、「一族の純潔を守る」という理由です。上流階級の人々は基本的に同じ階級の人しか結婚対象としませんが、上流階級の人数自体が少ない訳ですから、当然対象者は限られてきてしまいます。一族の結束を強めることは、一族の財産を守り維持していくことにも直結するため、財産の流出を防ぐという意味でも、この動機は重要だと言えます。


 現代では近親婚は禁じられている国が多いですが、一部の国では現在でも上記の理由から近親婚を選ぶ一族も存在します。また近親婚ではなくても、日本でも元華族の家系、旧財閥の家系など、いわゆる名家では、現代でも同ランクの人と婚姻関係にある例が多いことは事実です。

 上流階級・富裕層にとって、同ランクの人と結婚することは、互いの一族の地位と財産を守り、受け継いでいくための重要な手段。それは古代エジプト時代や中世ヨーロッパから変わらない、上流階級の権力維持のための知恵であり、血の繋がりこそが、彼らの富の基盤となってきたのです。


上記はYUCASEE MEDIA(ゆかしメディア)http://media.yucasee.jp/posts/index/2990より転載


最新の画像もっと見る

コメントを投稿