3月28日(水)
新潮久レストブックスは、どれも実に興味をそそられるラインナップなんだよなあ。
まず、装丁が素晴らしい。なかでもこのペンギンの絵は格別だ。
この一見可愛らしいペンギン、でも女の子とペンギンがまったく違う方を向いているあたりが、物語の暗さを示唆するような、なんともいえない雰囲気を醸し出してますねえ。ブラックなユーモアにあふれた作品でした。
ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス) | |
沼野 恭子 | |
新潮社 |
物語は冷戦後のウクライナ。
売れない作家のヴィクトルは、動物園からもらってきた憂鬱症のペンギンと暮らしている。新聞に死亡した人の追悼記事を書くようになるが、まだ生きている人の追悼記事をあらかじめ書いておくという奇妙な内容だった。
すると、ヴィクトルが記事を書いた大物軍人や財界人が次々と亡くなり、ヴィクトルのまわりの人々、ヴィクトル自身にも不穏な影が近付いてくる。
次々と人が死んでいくのに、物語は淡々と進む。突然他人の子供を預かったり、ベビーシッターと関係を持ったり、警官の友達ができたりするなかで、愛情や友情のようなキモチがわいているようだけど、過剰に期待しないあきらめ感が漂う。この憂鬱がウクライナかなのか。
ペンギンのミーシャが象徴しているものを思うと、深いなあ。
ソ連時代がよかったわけではないが、新国家(自由)となって何に向かっていくのか、本来は群れをなして集団で暮らしていたはずのミーシャ(ペンギン)が、動物園の檻から出て、自由になって何を思うのか、そこにあったのは「憂鬱」そして「孤独」。
ラストのユーモアが最高、この1ページで読んでよかったと思わせられた。憂鬱で無気力のなかから「生」に対する図太い根性が感じられる。