1983年創刊 月刊俳句雑誌「水 煙」 その2

創刊者:高橋信之
編集発行人:高橋正子

作品七句②/2008年4月号

2008-02-14 18:55:19 | 本文
ホトケノザ
川本良子
橋渡れば野の光りホトケノザ
野川行く伸びてたおれてホトケノザ
しんしんとホトケノザこの庭に
鴨皆そろい茜色入日向き
雪嶺の光りま近し野のみどり
雪嶺と道後平野と茜雲
浅春の樹心沈黙しんしんと

探梅
原 順子
大崩れとう峡沿いの水仙花
香清(すが)し薄茶温か初句会
朝の庭樹々に残れる玉霰
夜明けよりの粉雪いつか牡丹雪
探梅に大島くっきり薄日さす
 回想
大寒の怒涛逆巻く日本海
鞭打てど氷上に独楽廻らずに

遊子の海
岡本桜子
雪かぶる紅のまぶしい寒椿
佗助の白の清しい黒織部
菜の花と海の匂いの予讃線
春昼の風がやさしい遊子の海
春立つや真白き雲の漂える
潮の香の変らぬ春の渡し舟
水仙とピアノの音色する方へ

房総丘陵
飯島治蝶
横たわる房総丘陵冬霞 
ざわざわと真冬の海の波白く 
冬の富士山影淡く暮れなずむ 
シャキシャキと厨に七草刻む音 
境内のテント外され松納
日脚伸ぶかくれんぼする鬼の声
急坂を仰ぎ見広ぐ冬の空

鳥は一直線に
矢野文彦
山眠る鳥は一直線に飛ぶ
風花や見慣れし窓の広がりぬ
探梅行名乗り出でたる雨男
下校児の止まる信号春隣
満天の星を思えり寒夜の音
蹴鞠初逸れたる鞠の力かな
久闊を詫ぶる賀状に遠き恋

赤城颪
小口泰與
大根引く農婦に日矢の当たりおり
群雀赤城颪にさらわるる
水けむる村に親しき道祖神
残照の噴煙伸びし初浅間
赤城より太き風あり日脚伸ぶ
雲裂きて日矢の一刺し葱畑
山風や下仁田葱のまるまると

海苔棚
國武光雄
どんこ舟波紋の光春立てり
鶴を折る窓に瞬く寒北斗
日脚伸ぶ看らるる人に看る人に
寒暁の海苔棚朱に染まりけり
神棚の灯明揺れる寒稽古
寒晴や色鮮やかに武者のぼり
大団扇担ぐ腕白十日恵比須

珈琲館
かつらたろう
何という空の青さや寒の入
枝先の意志の揃いて寒の晴
風花やぽっかり開きし青い空
日暮れてもボール蹴る子や日脚伸ぶ
春きざすジャズの流れる珈琲館
春暁の顔ぶれおなじ始発バス
「母べえ」を観に往く春の雪の中


かまくらに
丸山草子
こんもりと樹々のまるさや雪明かり
寒禽の来ては飛び去るピラカンサ
冬日射し草木もようの雪の原
かまくらのやわらかな灯の点々と
なまはげの雄たけびあがる杉林
かまくらに水神様の灯を点す
雪に雪音無く積もり光おり

須磨の浦
小河原宏子
初詣破魔矢の鈴のかろき音
冬の海またがる橋の大きこと
大鳥居冬空高くでんと立ち
注連縄を雀啄ばみ籾こぼる
枯木立思い思いに鳥止まる
蝋梅の枝を透かして須磨の浦
大根の眩しき白さ輪切りする

実南天
松本和代
澄み切った空へひびけと寒雀
冬木立鳥の飛び交う朝のあり
冬日受け遊具の休む昼餉時
音も無く木の枝にふっくら雪の積む
露天湯に母子のジャンケン寒の雨
絵のように窓に貼りつく実南天
ずわい蟹茹でてほおばる味噌甘し

春の月
松本豊香
玄関にめじろ訪ねて朝始まる
春光をすうっと抜きて自転車去る
新築の家に届けしチューリップ
産声の響きし窓に春の月
広告の色鮮やかに雛人形
節分の雨連なりて木に光る
イルカとびすっと春の風になる


直として白く
おくだみのる
大獅子に頭かまれて今日の春
枯山を下れば花屋華やぎぬ
 関口芭蕉庵
水仙の葉直として白く咲き
朽葉浮く池の緋鯉の尾の鈍し
きつぱりと虚飾を捨てし枯木立
透徹の朝の寒気に珈琲の香
 川崎浄慶寺
梅の香や酒くみかわす羅漢像

縄跳びする子
上島笑子
初凧の空に繋がる細き糸
初凧の息をはずませもう一度
日脚伸び縄跳びする子声高く
小春日や砂場の砂のやわらかく
吊るされし靴の大小冬の風
北颪ますます強く県境
葉牡丹のうす陽を集め大きなる

雪の比良
河野啓一
雪の比良望みて遠く彦根城
湖西線雪かき分けて北へ伸び
水仙の白きを見れば風の舞う
クロッカス摘みて持ちくる孫娘
八朔の鈴生り映えて春近し
たちまちに葉を抽き出る水仙花
隣家に同じ鉢花春隣

ルアー
宮島千生
江戸和竿鈍く光りて春隣
沙蚕採る長靴沈み春隣
待合わす吹抜けロビ-日脚伸ぶ
堀端を人の往き交い春来る
図書室の絵本ざわめく夜半の春
鳥寄せの果実に春の光あり
寒明けてルア-ケ-スの色溢る

寒牡丹
村井紀久子
束の間の日差しを返す寒牡丹
囲われて菰をはみ出す寒牡丹
奥伊豆の海に傾く野水仙
群青の海の深さや野水仙
湘南の海の明るさ冬帽子
灯台へ下る道すじ石蕗の花
白梅の一輪空の深さかな

早春歌
吉川豊子
春を待つ心に染みる早春歌
竜の玉もう果つるかと風の中
山積みの葱押して行く一輪車
靴底にくずるる音や霜柱
春浅し裸まつりのなおい帯
大寒や堅き靴音響く路地
焼き芋の香り漂う勝手口

牡蠣とレモン
笠間淳子
はらはらと舞う春雪に立ち止まる
春の雪傘さしかけてたたみおく
雪野原新たな足跡続きゆく
牡蠣の身の白きを透いて海香る
潮の香のほのかに牡蠣とレモン汁
恩師囲み話は尽きぬ寒日和
和菓子の名謂れ問いたり置炬燵

冬田打つ
藤山綾子
初摘みは卓に置くだけ蕗の薹
冬田打つ陽をまぜ土の輝けり
元旦の道後公園のあけぼのの杉
初釜の濃茶ねらるる静寂に
吾子の目に始まりて映つる風花よ
にじり口閉まる音せし冬座敷
ねずみもち実のぎっしりとつく鼠年


瀬戸の島
小島 仁
カーテンの端にこぼれる冬茜
枯山の送電線に薄日差す
冬の海小さくかじかむ瀬戸の島
自転車をこぐたびゆれる冬帽子
無愛想な店主の脇のおでん煮え
本年もこの路地通る寒紅梅
遠き方冬嶺は雲を巻いており