徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

はじめの一曲 ~ 田村 ~

2017-07-12 22:20:44 | 音楽芸能
 今では年に4回はナマの能舞台を観るようになった僕が、最初に興味を持った能の演目がこれ。この「田村」は2000年に他界した僕の父の想い出の曲。と言っても父は能「田村」を観たことはない。父がまだ4、5歳で、泰勝寺の長岡家に日参していた頃、よく屋敷で謡曲のお稽古が行われており、父も謡の末席に侍らせられていたという。数ある曲の中でもこの「田村」の「ひとたび放せば千の矢先・・・」という一節はいまだに憶えているという話をよく聞かせられたものだ。父の死後、この能「田村」を一度観てみたいと思ったのが、能にハマるきっかけとなった。

 下の映像は、昨年8月6日に水前寺成趣園能楽殿で行われた「出水神社薪能」における金春流の能「田村」。後シテ(坂上田村麻呂の霊)を務めるのは田中秀美さん。


【詞章】
いかに鬼神もたしかに聞け。昔もさるためしあり。千方といっし逆臣に。仕えし鬼も。王地を侵す天罰にて。千方を捨つればたちまち亡び失せしぞかし。ましてや間近き.鈴鹿山。ふりさけ見れば伊勢の海。ふりさけ見れば伊勢の海。阿濃の松原むらだち来たって。鬼神は。黒雲鉄火をふらしつつ。数千騎に身を変じて山の。如くに見えたる所に。あれを見よ.不思議やな。あれを見よ不思議やな。味方の軍兵の旗の上に。千手観音の。光をはなって虚空に飛行し。千の御手ごとに。大悲の弓には。知恵の矢をはげて。ひとたび放てば千の矢先。雨あられと降りかかって。鬼神の勢に.乱れ落つれば。ことごとく矢先にかかって鬼神は残らず討たれにけり。有難し有難しや直に咒咀諸毒薬念彼。観音の力を合わせて.すなわち還着於本人.すなわち還着於本人の。敵は亡びにけりこれ.観音の.仏力なり。