釣魚の愉しみ

釣行記、釣具や釣魚本、及びそれらの周辺事情について気の向くままにご紹介します。

六月釣行

2017-06-28 19:24:18 | 釣行記
気がつけば、最後に釣行記を書いてから、もう一年が経とうとしていた。去年のちょうどこの季節、釣り人は穏やかに流れる川の畔に立ち、イヴニングの到来を待ち侘びていた。そして暗闇が到来すると、彼のF.E.トーマスが根元から絞り込まれたのだ。興奮から苦悩を経て大いなる絶望に至るあの「魔の40分間」を、釣り人は生涯忘れることはないだろう。それでもなお、彼はあの忌まわしくも濃密な記憶を乗り越えねばならない。まだ癒えぬ心の傷口に優しくオロナインH軟膏を塗ってやらねばのぉ。と、何を書いているのか解らなくなるぐらい、彼の魂は病んでいるのだが、兎に角、釣り人は積年の恨みを晴らしに別の川へと向かうのだった。
 
 とある土曜の夕刻、まだ陽の明るい最中に、釣り人はお目当てのポイントに到着した。滔々と流れる大河の手前側、アシの生えた岸直下の流れはトロリとした感じで、釣り人は思わず涎を拭った。「ここですよ、ここ。ちょっと浅いと思われるでしょうが、この根元ギリギリの奥まった流れの筋でロクマルがライズするんですよ。ガバガバと。」とY氏が仰る。彼はここ2,3年、デカブラウンのドライフライ・フィッシングに随分ハマっている。もうこの釣りしか愉しくないとまで言い切るだけあって、実際に数多くの大物実績を上げている。最近、彼はもうひとりの釣り仲間であるO氏と謀って「ロクマルクラブ」なる秘密結社を立ち上げた。60cmオーバーの大物を釣り上げた者のみが入ることを許される、真のエリートによる親睦団体なのだそうだ。親睦団体なんだから、そんな高いハードルを設けなくても良いじゃないか、と思う私はまだまだトーシローであるとのこと。ロクマルを釣り上げた者のみが垣間見ることのできる秘密の花園があるんだそうで、選ばれた者同士で甘美なポエジーをヒソヒソと仲睦ましく語り合える場が、この秘密結社なのであるという。確かに、二人とも60オーバーの実績豊富で、Y氏の場合68cmなんていうバケモノを揚げている。是非、私もオチカヅキになりたい。なんとしても、三途の川の向こう側でハッチ待ちしながら優雅に語らう選ばれし者たちの仲間入りがしてみたい。嗚呼、げに妬ましきは「ロクマル」の四文字!

 と、妄想にまみれながら陽が落ちるのを待ち侘びる釣り人であったが、なかなか時間は過ぎてくれない。あまりにヒマなので、上流部でウエットフライを流すが反応は皆無、川のなかに立ちこんで、反対側からアシの根元を探ってみるがこれも全く反応ナシ。やはり獲物は暗くなってからこの浅場に餌を漁りに来るということか。そしてまた、釣り人はジッと川岸にて待つ。・・・(中略)・・・そして刻は来た。太陽はすでに山の辺に沈み、残照が川面を淡く塗り上げる。カゲロウの類いは随分飛び始めてるのだけれど、ライズはまだかなぁ~~~~。「バシャバシャ!」っと川下のほうで音がする。ハッと顔を左に振って下流を見遣ると、Y氏やO氏が陣取っている辺りの真正面、ずいぶん遠めの沖の流れにライズがあるではないか。その位置では本日最初のイヴニングライズが始まった。かなりの数の鱒が水面を乱している。二人とも熱心に遠投を繰り返している。あー良いなぁー、と羨望の眼差しを見遣ったその瞬間、我が足下でも「バクン!」とあったではないか。19時半の頃であったろうか、ようやく釣り人の番が巡ってきたという訳だ。
 
 釣り人はおもむろにペインの207を持ちあげた。彼は昨年の失敗をもうイヤというほど学んでいたので、先調子のトーマスロッドは自宅に置いてきて、代わりに百戦錬磨のこのペインを持ち出していたのだ。この竿は1920年代製の古いモデルなので、207とはいえラインは#5/6がマッチする柳腰である。しかし、柳腰であることは必ずしも非力を意味しない。バットの根元ギリギリまで曲がり込むその弾力はロクマル・オーバーすら屈伏させるパワーをその華奢なブランクのなかに秘めている。リールシートにはお気に入りのパーフェクトMk-II(3-1/8インチ径)の左捲きを装着し、10年以上育て上げたシルクラインを乗せている。9フィートのリーダーと2フィートのティペットには吸い込みの良さを考慮して3Xナイロンを用い、肝心のドライフライには、昨年ナナマルを掛けたあの#8ゴダードカディスもどき。これで釣れなきゃ、何で釣れる???完璧、無双、ペルフェクトである。(※個人的感想です。利用者の主観により感想は異なります。)

で、早速毛鉤を投じるのだが、ゼンゼン反応がない。でも岸寄りのライズは続く。焦る釣り人よ、どうする。そのときだ、わざわざO氏がこちらにやってきて仰るに「Nさん、私達のほうではライズがバンバンですよ。こっちに来て釣りませんか?」。ウーン、マイッチャウ。尻軽な釣り人は己の薄っぺらい信念をポイと投げ捨てて、O氏の跡を追いかけていった。確かに、下流の緩流帯はライズで炸裂中である。しかし、岸からは遠く、遠投が求められる。釣り人も努力はするのだが、いかんせん、#8フックにヘアボディーをたっぷりと蓄えた毛鉤をこの竿で遠投するのは、このヘナチョコな腕では無理。来てすぐに解決不可能な障害に直面する哀れな釣り人であった。そこでまたしても釣り人は宗旨替えを敢行し、釣友の厚誼に後ろ脚で砂を浴びせかけるようなマネとは承知しつつも、20時過ぎには元居た場所へと舞い戻るのであった。しかし、刻すでに遅し、この上流側ではもはやライズが乏しく、釣り人のゴダードカディスもどきは虚しく水面を流れるだけであった。「コレハヤバイ・・・完全に読み違いだ・・・戦略がことごとく裏目に出とる・・・ワシ、ボウズ?」心のなかで呟きながら、釣り人は毛鉤を川面に投じ続けた。「魚っ気が完全に無くなった訳ではない。そのへんの水面がたまにギラリとするじゃぁないか。まだイケるはずだ。」念じ続ける釣り人の竿が不意に引かれる。竿先がグンとお辞儀した。竿の数メートル先ではラインが水面を切り裂いている
・・・・・祭りじゃぁ!!!

 何か大きな力がペインのバットをヒン曲げて、「シャァ―」っとシルクラインを引き摺り出していく。ティペットは3Xなので無理はできない。しかし前回と違い、目前の流れは緩やかで浅い。下流に走られたとしても、それに付き合って移動できるだけのスペースはある。「このタマは獲れるで!」そう確信した釣り人は逸る気持ちを落ち着けようと、必死で呼吸を整える。変に力んでラインを引く圧力を間違えることのないよう、慎重にラインを回収する。しかし敵もさるもの、ラインを回収した分だけ、ゴゴッと下流に引き戻される、そんな遣り取りを何度繰り返しただろうか。なかなか手許に寄ってこない。いつでもランディングできるよう、振り出し式のランディングネットを左手で流れに差し入れてみた。するとどうだろう、予想以上に流れが強いではないか、静かながらも重い流れが差し込まれたネットを釣り人の左腕から奪おうとする。「重い・・・片手ではネットが操作できん。」その瞬間、彼の頭のなかは真っ白になってしまった。「ヤバイ、獲れないかも?」不安に駆られた釣り人の右手は握力を失い、竿がイッキにノサれそうになった。恐怖のあまり、情けない釣り人は絶叫するより他に術なかった。「タスケテェ~」

 なんと情けない釣り人であることか!彼は心の底から己れを呪ったが、それは同時に、釣り人としての自覚を呼び覚ますことにもなった。「魚を掛けた以上、独力で釣り上げるのが釣り人ってもんだろ!」という当たり前の倫理は釣り人を鞭打ち、左腕に遺された最後の力を振り絞ったのだ。体勢を立て直すと、釣り人は最後のポンピングを大きく振り、水面に姿を現した魚体を無理矢理ザバッとネットで掬い上げた。ヨロけながらネットを手許に寄せたところで、Y氏とO氏が小走りにやってきた。「もうっ、Nさん、川に流されたと思ったじゃないですか!」ウーム、さすがにチト表現がまずかったかしらん、と反省した次第。ネットを地面に降ろすと、金色の魚体がドスンドスンと跳ね回る。大物ブラウンである。100円ショップで買ってきた巻尺を震える手で伸ばして獲物に当てると・・・55cm。10分程のささやかな闘争が幕を閉じる瞬間であった。

 結果として、ロクマルクラブ入会は叶わなかった訳だが、釣り人の充実感に変わりはなかった。(叫んだことを除けば)この釣りは完璧だった。前回、完敗を喫したあの怪物ほどではないにせよ、狡猾な面構えをした精悍な雄ブラウンである。尊敬に値する大物を手にしたことで、彼の「希望」は「自信」へと変わったのだ。釣り人の復讐劇はここにその幕を閉じ、新たな目標へと踏み出す出発点となった。次回こそ是非、なんとしてもロクマル・オーバーを!ズキズキ痛む左腕に次なる試練を想って独り武者震いする釣り人であった。

チャンチャン♪


注:本文中、ロクマルクラブの件は少々脚色が入っていますので、ご了承下さい。
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6 コメント

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Unknown (パドルフリークス)
2017-06-28 23:01:27
お見事!ごちそうさまでした(笑)。
てっきりウェットかと思っていたのですが、ドライフライなんですね!こんな野性味たっぷりのブラウンがドライフライを咥え込むなんて・・・想像するだけでドキドキしてきます!
5Xのティペットで抜き上げられるような魚ばかり釣っているのが恥ずかしい(苦笑)。。
bamboo バンザイ (鮭介)
2017-06-29 09:50:13
いつも楽しませて頂いております。北海道に通って11年目になりドライと竹で楽しんでいます。慣れてきてからロクマルを毎年達成出来ていましたが、一昨年は完敗、昨年はあとチョットに泣きここ数年は見ていません。もう集中力が欠けてきたと危機感を感じておりますのでお気持ちが伝わってきます。釣り人は過去の栄光に浸れない性分ですからね、今が大事ですから。イロイロ試してみましたが、リーダーシステムを工夫すれば、昼間のドライであれば超ネイティブ級でも6Xで何回も十分あがりました。細い方が伸びるので切れません。(広い本流はきっと無理ですね)夜はやった事はありませんので今度試したいですが羆が怖いのでほどほどにします☺︎
Unknown (nori)
2017-06-29 22:12:53
パドルフリークさま
こちらこそ、腕も磨かず夜の一発勝負にかまけてばかりで、お恥ずかしい😅。でも、イヴニングの魔力は実に恐ろしいモノです。麻薬みたいな常習性があります。パドルフリークさんも忍野の夜にヒゲナガドライで一発如何ですか?
Unknown (Unknown)
2017-06-29 22:22:03
鮭介さま
ようこそ、おいで下さいました。北の大地で大物ブラウン狙い、素晴らしいですね。しかも、ティペットが6Xですか😲、凄すぎます❗私も昔は道南に通った時期がありました。デッカイのに逃げられてばかりでしたが・・・。私も明るいうちに狙える戦略を編み出したいものです。お互い、限りあるチャンスを有効に活かして頑張りましょう🎵
ニジくんオンリーです (鮭介)
2017-07-01 01:58:17
返信ありがとうございます。私はニジマスオンリーなんですよ。十勝川水系、天塩川水系が殆どで、道南は行ったことがありません。こないだ小さな山上湖で、偶然狂ったようなライズに出会い入れ食いとなりました。掛かってから茶色い鱒がジャンプを繰り返すので、てっきりイエロー斑点系のブラウンと珍しいなと思っていましたが、上げてみるとまだサビの消えないニジマスばかりでした。狂ったライズでもセレクティブだったので、6Xまでおとすと入れ食いとなりサイズもアップしました。湖であれば固定の障害物に注意すれば全く心配いりません。ただ不思議ですが6.5X以下にするとすぐ切れます。結び目だけでなく切れるのでその辺りが今の糸の限界ですね。
そうでしたか (nori)
2017-07-01 09:59:28
勝手にブラウンと思い込んでおりました。失礼しました。ニジマスは跳躍を繰り返すので、細糸だともっとヒヤヒヤされるんではないでしょうか。十勝の方面は学生時代に一度釣り巡っただけですが、イイトコロでしたねー🎵またのお越しを😊

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