ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅      薬物後遺症と心の傷・・・41

2012-05-07 | 3章 デリー中央精神病院・入院記録

  
  12月21日(木)(入院して18日)
 
 アユミはもういない。冷たい隙間風がぼくの病室に吹く、また一人ぼっちになった。それで良い、そうして生きてきた。
 退院したインド人が外来で来ていた。前庭の椅子に座り頻りに生欠伸をしている。禁断から完全に回復していないのだ。夜、眠れないのだろう、ぼくには良く分かる。
 アシアナで薬物治療を受けた50日間、ぼくは眠っていない。恐らくこの話は誰も信用しないだろう、どこかで必ず眠っているはずだと。身体の痛みは禁断の初期から日数と共に変化する。初めは膨らはぎ、次は腰それから背中の痛みになる。1人の時は辛い、ベッドの上に丸みのある薬ビンを置き、仰向けに寝て痛い部分を押し当て転がる。最後に肩にくるがもしこの痛みがなかったら眠れただろう。
 アシアナのベッドで目を瞑り眠ろうとすると右肩と首の付根が疼きだす。左右の手を替えては揉み解す。楽になるのはその時だけで、手を放すとまた疼きだす。我慢が出来なくなると水浴場へ行き、汲み置きの冷水を肩に流す、冷たさが肩の疼きを麻痺させる。震える身体を毛布で包む。身体が温まる前に眠りたい、温まるとまた肩が疼き始める。諦めて周りを見ると同じ様なインド人が天井を見詰めている、お互いの目が合うと黙って合図を送る。眠れないのはぼくだけではない、ぼくは少し安心する、眠れる奴は幸せだ。刑務所内のアシアナでは薬物治療はしてくれるが睡眠薬まではくれない。
ぼくは病院の文句ばかり言っていたが、良く考えてみると精神病院は楽だ。痛みを感じないで眠れる。眠っている8時間は何も考える必要はない。
 子供の頃のぼくを思い出していた。若い父や母と姉がいた。兄弟で遊んだ小川、あの頃は楽しかった。

コメント
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