田園城郭都市構想 17

2017年02月07日 | 湖と城郭都市

1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義
日本型田園都市構想
4.和歌山市都市計画と学園城郭都市
5.近代ニュータウンの系譜
       -理想都市像の変遷-

5-4 イギリス:ニュータウン政策の新展開
5-4-3
ミルトン・キーンズの新たな成長


「ミルトン・キーンズ成長戦略
2031

ミルトン・キーンズの新たな成長・再生戦略は、①ニ
ュー
タウンの新たな拡張と既存コミュニティの再生を
関連づけつ
つ一体的に進めようとしていること、②都
市の拡張と再生を
通じてコンパクトで環境負荷の少な
い持続可能な都市への転
換を実現しようとしているこ
と、③新たな公共交通システム
の導入や近隣センター
の形成など都市インフラの改造を大胆
にすすめようと
していることなど、数多くの先進的な提案を含
んでい
る。今後の世界各国のニュータウン再生にも多くの示
を与えるものと言ってよい。

しかし既に述べたように、その後のイギリスでは2008
年の
リーマン・ショックの影響を受けて国の財政収支
が大幅に悪化
し、2010年に成立した新たな保守党政権
のもとで厳しい財政
運営(緊縮財政)が続けられてい
る※。そうした経済環境のもと
で、サステイナブルコ
ミュニティ・プラン(2003)など政府の
集中的な投資
を伴う計画が大幅に見直され、あるいは廃止され
るな
どの変化も現れている。ミルトン・キーンズを始め、
南東
部地域の成長エリアに含まれるニュータウンの拡
張や再生計
画も、その影響を受けざるを得ないであろ
う。

※ 新自由主義的緊縮財政からポスト・ケインズ主義

  的成長財政への転換し、「格差拡大×デフレ経済
  」脱却が大前提。


2013年7 月、Milton Keynes Council は「ミルトン・キ
ーン
ズ:コア戦略(The Milton Keynes Core Strategy)」
を決定した。
2010 年から2026 年を計画期間とするこ
の計画は、ミルトン・
キーンズ成長戦略の実現に向け
ての第1段階の法定計画とし
ての性格を有している。
計画は2005年に着手され、Milton
Keynes Partnership
当初これに参画していたが、その後、政
府の計画の変
更などによって、このコア戦略にも何度か修正が
加え
られている。

2013年に公表された「コア戦略」では 2010年から2026
年の間の住宅建設戸数は「少なくとも28,000 戸」とさ
れ、「成
長戦略」の計画からは大幅に縮小されている。
新たな公共交通
機関の整備等には触れられているが、
都市の拡張や既存コミュ
ニティの再開発については明
らかにされておらず、大幅に後退
した印象を受ける。
都市建設の計画がその時代の経済社会環境に影響され
るこ
とは、いつの時代にも避けられない。今後のイギ
リスの経済動
向とともにミルトン・キーンズの拡張・
再生計画の動向を注意
深く見守っていくこととしたい。
また、イギリスのニュータウ
ン計画の復活を心から期
待したい。

5-5 おわりに

わが国では、ニュータウン建設の意義や目的が単に住
宅・宅地の供給や、良好な居住環境
の形成にあるとい
うとらえ方が支配的であるように思う。それ故、もは
やニュータウンの時
代は終わったとする指摘も少なく
ない。しかし、近代ニュータウンの系譜を辿ってみれ
決してそうではないことが分かる。ニュータウンの
歴史は、新都市の建設を通じて社会を変
革し、理想社
会、理想都市を実現しようとする人類の挑戦の歴史で
あり、新しい価値創造の
歴史であった。

たとえば、近代ニュータウンの原点とも言えるロバー
ト・オーウェンのニュー・ラナークでの取り組みは、
労働者の居住環境の改善のみならず、教育を始めとす
る彼らの生活全般を改革しようとする社会改良実験で
あった。オーウェンの思想は、ボーンビルやポート・
サンライトなどのモデル工業村に継承され、「田園都
市」を実現させる原動力ともなった。また、シャルル・
フーリエのファランジュとファランテールの構想も、
資本主義社会の矛盾を乗り越える理想共同体の実現を
試みたものであった。

一方で、ウィリアム・モリスのアーツ&クラフツ運動
やイギリスのドメスティック・リバイバル(住宅復興)
の運動から生まれた田園郊外は、「都会の中での田園
居住」という、それまでにない全く新しい生活様式を
誕生させた。そして、「近代家族」という新しい家族
による「モダン・ライフ」が実現した。同じ頃アメリ
カでは、フレデリック・ロウ・オルムステッドが、リ
バーサイドなどのデザインを通じて、後に「芝生文化」
と呼ばれるアメリカ特有の住文化、住宅地風景を誕生
させた。

エベネザー・ハワードの田園都市運動は、地域自主管
理の思想、協同の原則に基づく社会像をめざす社会改
良運動であるとともに、「都市と田園の結婚」という全
く新しい都市像を目指す都市計画運動であった。同時
にそれは、連携都市(social city)の形成を通じてロン
ドンの過密を緩和し、新しい都市圏構造を実現しよう
とする大都市圏の改造運動でもあった。そして、それ
は戦後イギリスのニュータウン政策に受け継がれた。

アメリカの田園都市運動から生まれた近隣住区論(C.A.
ペリー)とその実践モデルとして実施されたラドバーン
開発(C.スタイン、H.ライト)もまた、都市化によっ
て失われた近隣コミュニティの再生、アメリカの伝統
である小規模集団による直接参加型民主主義の再建と
いう社会改良運動の側面と、自動車時代にふさわしい
コミュニティ空間の実現という都市計画運動としての
側面を持つもので、後に世界の都市計画に大きな影響
を及ぼした。

さらに1920年代に起こった近代建築家の運動は、建築
家が歴史上初めて モニュメンタルな建築や宗教建築
ではなく、一般市民の住宅と居住環境を自らの創作活
動のテーマとして取り上げ、合理的、機能的な居住空
間と都市のあり方を追求した画期的な挑戦であった。

以来、(多くの失敗もあったが)ニュータウンはどの
時代にも、その時代の要請に応える新たな社会像、生
活像、空間像の実現を目指すパイオニアであり続けて
きた。それ故、その試みが絶えることがあってはなら
ない。日本の都市計画関係者には今後ともニュータウ
ンへの挑戦を続けてもらいたいと願っている。



こうして結ばれ、良き書き手と凡庸な読み手の旅路を
終える。さて、先を急ごう。

                 この項つづく
 

【エピソード】

    
 

毎週火曜日、パンの移動販売車がくるのでお気に入り
のパ
ンを買った時、この間の豪雪で、自宅に帰ったの
は深夜過ぎだった言う。彦根が渋滞が原因だったと。
「人の口には戸は立てられない」という言が葉が過ぎ
る。観光の最大のリスクはこのような風評被害である
ことを痛感する。インバウンドの過熱もいいが、「防
災都市・彦根」にはそれが要なのだと静かに思う。

【脚注及びリンク
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  1. 田園都市 Wikipedia
  2. 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
    JAPAN インタビュー前編 2007.03.02
  3. 利用者が“便利”だと思えるパーク&ライド ECO
    JAPAN インタビュー後編 2007.03.09
  4. 第1回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.05
  5. 2回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.07
  6. 第3回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.19
  7. 第4回 ポストケインズ派経済学とは何か 佐々
    木啓明 2011.10.26
  8. 第8次彦根市交通安全計画 2012,03.22
  9. Core Strategy (2013) - Milton Keynes Council
  10. "The New Towns: There Problems and the Future
    Department for Communities and Local Government,
    2002.11.21
  11. 日本エシカル推進協議会Japan Ethical Initiative-
    エシカル日本
  12. 明治期廃絶城郭の公園化について ―史跡の保存
    活用の前史として― 佐々木孝文
     2015.06.26
  13. 都市とは何か 都市計画なぜ必要か - 東北大学
    奥村誠  2015.10.15
  14. 和歌山市都市計画マスタープラン 和歌山市
    2017.01.12
  15. 和歌山市立地適正化計画 2016.12.22
  16. 日本型田園都市構想―イギリス田園都市と比較し
    京田辺市を見直す―2001.12.11 西村利也
  17. 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
  18. 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
    45、2003.7.8
  19. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  20. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード:
    宮﨑洋司市
  21. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.06 28
  22. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  23. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 26
  24. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.07 03
  25. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  26. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
    橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  27. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  28. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    のまち創る-近世城下町彦根市本町地区の2
    例の
    場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度全
    国市長会) 中島一 2005.05.09
  29. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  30. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  31. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  32. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  33. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  34. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  35. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  36. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  37. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  38. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  39. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  40. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  41. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  42. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  43. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  44. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  45. 彦根市立図書館|簡易検索
  46. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  47. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
    展望 2014.11.26
  48. アウガ Wikipedia
  49. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  50. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  51. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Yahoo!ニュー

  52. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河
    北新聞 2016.01.28
     
        

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