田園城郭都市構想 Ⅲ

2017年01月19日 | 湖と城郭都市

  

1.ハワードの田園都市構想
2.田園都市論の現代的意義

2-3.住宅地の空間

田園都市論の中でも、住宅地の空間像は日本では最も熱
心に輸入、研究、
実践される。住宅地の空間像の大部分
はハワードではなく
田園都市論に共感し、レッチワー
スの設計を
手がけたレイモンド・アンウィンとパリー・
パーカーによって生み出されたものである。この空間像
とそれを具
現とする設計の規範は、良好な郊外住宅地の
基準として、世界各国で採り入れられることになる。



Barry Parker & Raymond Unwin

ここで、中井は、田園都市論を世界に普及させたという
意味
は、最もパワフルなコンセプトともいえるが、ジェ
ーン・ジェイコブズをはじめとして
これに対する批判も
少なくない。その批判を
集約すれば、都市と住宅の関係
の分離、およ
び多様性の欠如の2点であると指摘する。

①都市と住宅の関係の分離とは、田園都市の住宅は都市
生活と切り離されている、言い換
えれば、住宅空間が都
市の公共空間で営まれ
る人々のパブリック・ライフと有
機的に関連
づけられていないという批判。

一方の多様性の欠如はいうまでもなく、田園都市的
宅地の居住者は均質化されており、多様性
に欠けるとい
う批判である。

いわゆるニュー・アーバニズムは、このような批判に対
応して台頭してきたものと考えることができ、
都市のパ
ブリック・ライフを活性化させるような住宅と公共空間
の関係が模索され、アフォーダブル住宅や社会住宅を含
めることで、居住者層に多様性を確保しようとしている。



写真1

英国、ドーチェスター郊外、パウンドペリーの新規開発。
レオン・クリアーのマスタ
ープランによるこの住宅では
、住宅と街路の関係が意識されている。また、個々の住
宅デザイン
はデザインコードによってコントロールされ
る。



写真2

同じくパウンドペリーの新規開発。街のところどころに
広場が配置される

写真1、2は、イギリス南西部の小都市ドーチェスター
で現在行われている開発。
パウンドペリーと呼ばれてい
るこの開発は、
既成市街地の拡張として行われている新
規開
発で、もともとの土地所有者はコーンウォール公、
すなわちチャールズ皇太子であ
り、皇太子が建築家レオ
ン・クリアーにマス
タープランを依頼した開発として知
られてい
る。

その基本コンセプトは「経済的、環境的、
社会的に持続
可能な開発の形態」として定義
されている「アーバン・
ビレッジ」の建設で
ある。アーバン・ビレッジは、(1)
複合用途開
発、(2)多様な保有形態、(3)比較的高密
度、
(4)高品質のデザイン、(5)公共交通、自転車、
徒歩優先、(6)職住近接による独立性の確保、(7)コ
ミュニティの関与、などによって特徴
づけられるが、い
わばニュー・アーバニズムのイギリス版である。

写真からわかるように、田園都市とは異なり、かなり住
宅と公共空間である街路や広場との関係を重視した空閲
デザインを採り入れている。また写真では識別できない
が、これらの住宅はタイプ、保有形態に多様性がもたせ
られ、また高齢者対象の社会住宅なども含まれることに
よって、開発全体として、均質化されたコミュニティで
はなく、バランスのとれたコミュニティの形成が促され
る。

パウンドペリーは新規開発であるが、既成市街地の再開
発にアーバン・ビレッジのコンセプトを採り入れた例が、
マンチェスターのヒューム地区の再開発。ヒュームは19
60年代に建設された住宅団地がスラム化したため、それ
を1990年代に建て替えた再開発であるが、団地内に周辺
のコンテクス
トを意識した街路が再建設され、やはり街
という公共空間と住宅の関係が重要視されている。ま
たこちらでは複合用途によって、都
市活動の多様性が意
図されていることも見て
とれると述べ、現代日本にあて
はめれば、町家やそれに代わる都市型住宅の空間像であ
り、環境問題や高齢化を考えれば、最適かどうかはさて
おき、有力な選択肢の1つであると指摘し、次のように
問題提起する。

かつて田園都市の住宅は、ほとんど全ての人にとって
終的な棲家像であり、住宅双六のあがりに位置していた
が、状況は変わり、この意味で、住宅地の空間像という
点で、田園都市の意義は薄れているが、その意義が完全
に消滅したわけではない

①まず第一に、唯一といってもよい住宅地像から、多様
な住宅地像の選択肢の1つへと変化したものの、依然と
して人々が求める理想住宅地であるという事実は変わら
ない。田園都市の提供した郊外住宅地像は、戸建て指向
が依然として強いわが国にあっては、引き続き重要な選
択肢であり続ける。

②第二に、レッチワースの住宅もパウンドペリーの住宅
も、デザイン面で共通している点があることに気づく。
レッチワースの住宅の設計にあたって、アンウィンは
セックス地方の伝統的集落を念頭においていたが、パウ
ンドペリーではド一セット地方の伝統的集落がイメージ
されておち、デザインに非常に強いテーマ性が与えられ
ていると同時に、ヒューマンスケールとその地方固有の
バナキュラーなデザインが強調されており、そこに機能
重視の近代主義に対するアンチテーゼを感じると述べる。



写真3 The village of Finchingfield in north Essex

4.都市の自立経営

ハワードは、田園都市は資本家によって出資設立された
株式会社によって開発され、地主である株式会社が土地
や建物を居住者に賃貸し、その賃貸収入を株式会社が再
度インフラの整備に投資するというシナリオを描く


田園都市論が他の理想都市論と決定的に異なっているの
は、それが田園都市の実現のシナリオを綿密に検討し、
描き出している点にある。この意味では田園都市論の核
心ともいえる「都市の自立経営」の理念だが、わが国で
はこれまであまり力点が置かれておらず、それが取り上
げられる場合は、開発利益の公共還元というコンテクス
トにおいてがほとんど。

ハワードの理念に従って、レッチワースは、株式会社で
開発運営され、その後、会社法人を経て、現在は財団が
その運営にあたる。このような例は極めて特殊で、都市
の経営は日本と同様に、イギリスでも一義的には自治体
の責任である。ハワードの提唱する株式会社による「都
市の自立経営」は、その方式自体も検討に値するだけの
現代的意義を有していると考えられるが、当面の現実の
問題意識としては、その精神を現代に照らしてどう解釈
するかということになる

開発利益の還元論から見れば、ハワードの「都市の自立
経営」論は、地域への投資は地域から回収するという論
理構成として捉えることになるが、中井は、「都市の自
立経営」の核心は、地域から得られた収入を再び地域に
再投資する点にあると考える。

そして、ここでいう株式会社は、営利を目的とした会社
ではなく、現代的にそれを解釈するならば、民間の非営
利法人
、すなわちNPOという方が正しい。このNPOは、
テナントである地域の住民と密接な関連を保ちながら、
住民の付託によって地域の管理を行っていると述べる。

日本でも、全国各地でまちづくり協議会が設立され、地
域の運営管理に関わるようになってくるが、これらのま
ちづくり協議会の活動は、ほとんど、無償もしくはわず
かばかりの運営資金で、基本的には住民の良き意志に基
づくボランティア精神を土台に形成される。田園都市論
のいう「都市の自立経営」の精神は、まちづくり協議会
を、財政的な安定を.一定程度に確保させたNPO化する
独立した専門領域として確立することで生きると解釈、 
さらにこの議論を発展させ、ハワードの「都市の自立経
営」の考え方は、都市、人々が集合して居住、活動する
場における「公的なもの」とは何かという問いに対し
々な可能性を提供
してくれるように思われる。少なくと
もハワードは、地域が地域の自発によってその管理に携
わるとき、その主体は何であれ、それは「公的なもの」
と同等にみなすことができると考えていたとする。実際
ハワードは政府というものを信頼していなかった。だか
らこそ、「公的なもの」を政府以外の主体に見出そうと
したのである。

さらに、中井は、このような見方は、長く「公的なもの」
=「政府」という図式が定着していたわ日本では新鮮で
あり、日本では、「公的なもの」とは何かという問いか
けが始まったばかりであり、地域の公共性とは何か、あ
るいは地域の公的な主体とは何か、それは政府とどう異
なるのか、などまだまだ議論すべきことが多く、「公的
なもの」=「政府」という図式から脱却し、公共性の再
編を行うために、ハワードの「都市の自立経営」論は、
大きな手がかりを与えると期待を寄せる。



5.残された課題

これまで、田園都市論を構成する①「ソーシャル・シテ
ィ」、②「都市と農村の結婚」、③「住宅地の空間像」
④「都市の自立経営」の理念について、その現代的意義
を考察。その内容はあくまでも筆者の覚え書きであるか
ら、それぞれについて議論すべきところはまだまだある
が、依然としてまだ2つの大きな課題が残されていると
次のように述べている。

その第一は、『明日』の副題に『真の改革に至る平和
的道程』とされていることが何よりも物語るように、こ
ういつた田園都市論を通じて、ハワードが最終的に思い
描いていたことは、社会改革であったということである。
では現代日本における新田園都市論にも、究極の目標と
して社会改革があるとすれば、「社会改革」の現代的意
義は何なのか。

第二は、ハワードの田園都市論が、様々な理念を具現
化したパッケージとしてレッチワースで提示した、新た
な田園都市論はどのような「レッチワース」を示しうる
か?田園都市の個々の理念についての現代的意義を、再
度、パッケージとして組み立て直すという作業が必要と
なると指摘する。

そして、第一の課題に対して、現時点での仮説を述べる
とすれば、新田園都市論の目指す社会改革とは「国家依
存型社会からの脱却と市民社会の確立」ということにな
り、第二の課題は、新田園都市論の「レッチワース」は、
ひょっとするとレッチワースのような具体的な都市の集
住形態ではなく、非空間的な集住の理念のような予感が
するが、だが、100年後の現代においてもこのような
仮説や予感をもたらす創造力を備えたハワードの田園都
市論は、やはり奥深いと再確認し結んでいる。

【エピソード】 
    
     

 

Dorchester Prison development 'will not include affordable homes',
Jul. 15, 2016, BBC NEWS

財政難はどの国でも同じ?


【脚注及びリンク】
-----------------------:--------------------------- 

  1. 田園都市 Wikipedia
  2. 田園都市とエソテリシズム 吉村正和 2004.03.05
  3. 田園都市論の現代的意義 中井検裕 家とまちなみ
    45、2003.7.8
  4. 住宅地計画論 1.ハワードの田園都市構想園都市
  5. 都市思想の二人の巨人、ジェイコブズとハワード: 宮
    﨑洋司市
  6. 近代ニュータウンの系譜―理想都市像の変遷-、
    佐藤健正、2016.06 28
  7. 平成 28年度 主要事業 彦根市
  8. 都市づくりの基本方針(全体構想) 彦根市
    橋梁長寿命化修繕計画による対策橋梁について
    滋賀県
  9. 彦根市都市計画道路網見直し検討調査
  10. 「まちづくりはひとづくり」をめざし 市民主
    導のまち創る-近世城下町 彦根市本町地区の2
    例の場合-(これからの都市づくりと都市計画
    制度 全国市長会) 中島一 2005.05.09
  11. 中国城郭都市社会史研究 川勝守 著 汲古書院
  12. 都市計画の世界史、日端康雄 講談社現代新書
  13. ドイツ流 街づくり読本  水島信
  14. 続・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  15. 完・ドイツ流 街づくり読本 水島信
  16. 都市計画1 日本の都市計画制度の概要 大谷英一
  17. 都市計画2 都市の歴史と都市計画 大谷英一
  18. 都市計画の理論 系譜と課題 高見沢実編集
  19. 道路をどうするのか 五十嵐敬喜・小川明雄 岩
    波新書
  20. 日本の道路史 武部健一 中公新書
  21. 道のユニバーサルデザイン 鈴木敏 技報堂
  22. 道路が一番わかる 窪田陽一 技術評論社
  23. 「道路」についての国際比較 藤井聡 2010.3.14
  24. 彦根市都市計画道路網見直し指針 
  25. 地域別のまちづくり方針(地域別構想)-彦根市
  26. 彦根市新市民体育センタ整備基本計画 2016.10.31 
  27. 彦根市立図書館|簡易検索
  28. 中心市街地の活性化に関する法律 Wikipedia
  29. 富山市におけるコンパクトなまちづくりの進捗と
    展望 2014.11.26
  30. アウガ Wikipedia
  31. 富山市 人と環境に優しいまち 公式HP
  32. 青森市 都市計画マスタープラン 公式HP
  33. コンパクトシティはなぜ失敗 するのか 富山、
    青森から見る居住の自由 2016.11.08, Ya hoo!ニュー
  34. <アウガ>2副市長辞任 青森市政混迷増す 河北新
    2016.01.28

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