ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

命売ります

2016-11-24 17:31:34 | 本のレビュー

あの三島由紀夫が、こんなエンターテインメント小説を公にしてるなんて!
ついぞ、最近まで知りませんでした。学生時代、三島には耽溺していて、「豊饒の海」や「仮面の告白」、「アポロの盃」は繰り返し読んだというのに……私の生まれる前年の1970年、自刃した三島は当時45歳。  私と同じ年ではありませんか!  子供の頃から読んできた文豪や大作家も、多くが若くして世を去っています。

芥川龍之介が35歳、太宰治が39歳、そして三島――夏目漱石だって49歳で故人になってるのだもの。澁澤龍彦も、まだ若かったですね。
だから、仰ぎ見ていた作家たちが、いつのまにか自分よりも若くなっていたら、誰に何を学べばいいのか? とさえ思ってしまうのです。

ああ、話が横道にずれてしまいました。日本が世界に誇る天才三島といえば、華麗にして絢爛たる文学世界が思い浮かぶはず。「ピタゴラスの天球の音楽」、「ギリシア美術のような端麗さ」と形容された至上の美。
しいて言うなら、王朝文学に見られるような香り高さに、高等数学の整然たる美しさをぶつけてきたようなものかもしれません。

この「命売ります」――1960年代の高度経済成長期に書かれたもの(多分)らしいのですが、当時の風俗が21世紀の現代とさほど遠く隔たっていないことにちょっとびっくり。それなりの、ハイテクノロジーもすでにあったようだし。
主人公の青年は、ニヒルの極みにある存在として描かれ、自殺企図に失敗した後、自分の「命」を売るという珍商売をはじめることに。そこにやってくる得体のしれない顧客と際スパイ組織らしきものが、ミステリー仕掛けとなって、一気読みすること間違いないしの面白さ!

「純文学」の頂点に位置するような三島由紀夫が、こんな通俗性たっぷりのハードボイルド小説をものするのにも驚くけれど、作中にあらわれる比喩の絶妙さ、文章の流麗さはさすがミシマというところ。 中途から追われる立場になった主人公が、安宿の天井の上に広がっているだろう星空を思い描くところ、ラストの蒼穹を見上げながらの孤独感を描写した箇所―実に素晴らしい!
今、世界的な日本人作家として村上春樹が、不動の地位を得ていますが、やはり三島の方がはるかに格上ですね。それは、闇に冷たくきらめく白刃のような狂気を内蔵した天才だから?
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