のどかなケイバ

一口馬主やってます

女神「橋本隊員奪回作戦!」1

2017-07-11 10:44:50 | 女神
 ここは薄暗い巨大な格納庫の中。目の前にでーんとストーク号があります。今このストーク号を見上げてる影が2つあります。1つは香川隊長です。彼はテレストリアルガードの隊員服を着ています。
 もう1つの人影は女性のようです。真っ白いワンピースのスカートを着ています。頭にはとてつもなく大きなつばの真っ白い帽子があります。帽子からのぞく顔を見ると、前髪が異様に長く、眼どころか、鼻も隠れてます。実はこの女性は女神隊員なのです。よーく見ると、髪の毛の隙間からヘッドセットが見えます。翻訳機のようです。かなり精巧にできてるようで、まるで本人がしゃべってるように聞こえます。ちなみに、巨大な口ですが、日本人にもこれくらいの口の持ち主はいます。その点は気にならないようです。
 隊長が説明してます。
「これがストーク号だ」
 女神隊員はストーク号を見て、このストーク号に攻撃されてる自分を思い出しました。隊長はそれを察したらしく、
「この飛行機は嫌か?」
「・・・いつか私も乗らないといけないんですよね」
「ああ」
 女神隊員は黙ってしまいました。
「次に行くか」
 隊長はドアを開けました。

 2人が格納庫の外に出ました。外は抜けるような青空です。女神隊員は白い帽子のつばの先端をつまむと、空を見上げました。と言っても、どこからか見られてるかもしれません。顔を見られるといろいろと面倒なので、少しだけ顔を上げてます。
「私の星と同じ青い空だ」
 女神隊員はぽつりとつぶやきました。
「すみませーん!」
 女神隊員の背後から突然声が。女神隊長が振り向くと、フェンスの向こうにカメラを持った若者が数人いました。
「ヘルメットレディさんはいませんかーっ?」
 ヘルメットレディとは女神隊員のことです。初めて巨大化したとき、ヘルメットを被っていたので、世間ではいつの間にかそう呼ばれるようになってました。
「いないよーっ!」
 隊長は大声でそう返事しました。若者たちはまた何かを叫んで質問したようですが、隊長はそれを無視するように別の格納庫の勝手口のようなドアを開けました。

 ドアが開き、2人が入ってきました。
「ふふ、あんた、大人気じゃないか」
 薄暗い格納庫の中、ヘロン号が1機見えます。格納庫は大きく、ヘロン号が3機横に並んでもまだ余裕のある大きさなのですが、今は1機だけです。
「ヘロン号だ。あんたにとっちゃ、ストーク号以上に見たくない機体だと思うが」
 確かに女神隊員は黙っていました。この飛行機にうなじを撃たれ、女神隊員は死ぬ寸前まで追い込まれました。今はきっと巨大化してヘロン号を踏み潰したい気分だと思います。
 けど、あのとき銃爪を弾いたのは橋本隊員でした。忌まわしい飛行機は目の前にありますが、それを操った男はすでにテレストリアルガードにはいません。女神隊員にとってそれは救いでした。
 女神隊員はふとヘロン号の脚下を見ました。そこには目地のような線が走ってました。よーく見るとその線は、四角くヘロン号を囲んでました。
「この線は?」
「エレベーターだよ」
「エレベーター?」
「この下に整備場があるんだ」
「へー、今度その整備士のみなさんにも会って、あいさつがしたいですね」
「それが・・・ できないんだ」
 隊長の思わぬ返答に、女神隊員は返事の言葉がみつかりません。
「前にも話したが、5年前ユミル星人襲撃のとき、日本とアメリカはヴィーヴルと急遽契約し、ユミル星人を追っ払ったんだ。実はそのとき、日本政府とアメリカ政府はヴィーヴルからいくつかの技術供与を受けたんだ。その技術は地球人からみたらとてつもないオーバーテクノロジーだったんだ。当然いくつかの国はそのオーバーテクノロジーの開示を迫ったが、日本政府もアメリカ政府もそれを一切無視したんだ。
 でも、一部の国からみたら、喉から手が出るほど欲しいオーバーテクノロジーだ。やつらは強硬手段に出てくる可能性も捨てきれないんだ」
「技術者を拉致?」
「まあ、そんなところだな。
 だからストーク号の整備士もヘロン号の整備士も、人前に姿を現すことは絶対ないんだ。我々だってテレストリアルガード結成式の日以来、一度も会ったことがないんだよ。
 我々もなんでストーク号が宙に浮くのか、なんでテレポーテーションができるのか、どういう原理でビーム砲を撃ってるのか、まったくわからないんだ。
 我々がいつも携行してるレーザーガンも、ヴィーヴルのオーバーテクノロジーを元に作られてるんだ。だから万一盗まれたときは、自動的に木端微塵に爆発する仕組みになってるんだ」
 この地球には今でもいい国と悪い国がある。それを聞いて女神隊員はとても残念に思いました。この星はまだ成熟できてないからです。
「ところで、その前髪、眼に入って痛くないのか?」
「あは、私の眼には瞬膜という透明なまぶたがあるから、気にならないんですよ」
「なんだ、爬虫類なのか?」
 隊長さん、瞬膜は人間にはありませんが、他の哺乳類や鳥類にもありますよ。ちなみに、女神隊員の前髪はウィッグです。本来そんなに長い前髪ではありません。

 処変わってここは競馬場です。今はメインレースの最中で、馬群が4コーナーを廻ったところです。
「よーし、そのまま! そのままーっ!」
 芋を洗うような満員の観衆の中で物凄く熱く声を張り上げてる男がいます。橋本隊員、いや、橋本元隊員です。
 先頭を走ってた馬がそのまま1着でゴールインすると思った瞬間、後ろから猛然と追い込んできた馬がゴール寸前で交わしてゴールイン。
「くそーっ!」
 橋本さんは握りしめていた競馬新聞を床に叩きつけました。
 たくさんの人が競馬場の中から掃出されてきます。その中に橋本さんの顔があります。橋本さんは苦虫を噛み潰したような顔をしてます。
 橋本さんはふと眼の前の看板を見上げました。パチンコ屋の看板です。橋本さんはなんとなくそのパチンコ屋の中に入っていきました。
 が、こんなときはたいてい負けるものです。橋本さんはしょぼくれた後ろ姿でパチンコ屋から出て、はす向かいの中華料理屋に入りました。
 橋本さんが頼んだものはビールと餃子。あとは漬物。テーブル席でそれをちびりちびりとやり始めました。が、そこに、
「だいぶ負けがこんでるようですねぇ」
 橋本さんと相対するように1人の男が座りました。
「ふっ、席はいくらでも空いてるだろ。相席お断りだ」
 男は50代後半から60代て感じの、いかにもそれらしい容姿でした。
「これだけ負けが込むと、懐が淋しくなるんじゃないですか?」
「残念。オレは元々高給な職場にいてなあ、金にはまだまだ余裕があるんだ」
「テレストリアルガードて、そんなに給料がいいんですか?」
 橋本さんがテレストリアルガードの隊員だったことを知っている。この男はやはりよからぬ存在のようです。が、橋本さんは顔色1つ変えることなく、ビールを飲みました。
「そろそろ本題に入ったらどうだ」
「実を言いますと・・・ あなたが知ってるオーバーテクノロジーを我々に教えてもらいたいんですよ。もちろんそれなりの報酬は出しますよ」
「ふっ、残念、オレに訊いたってムダだ。オレはただ機械を扱っていただけだ。中身がどうなってるのか、一度も見たことがないんだよなあ」
「でも、あなたはヘロン号を自由自在に飛ばすことができるんですよねぇ。ある程度仕組みを知らないとそんなことはできないんじゃないですか?」
「知らないと言ったら知らないんだ。あんた、もう帰れ!」
「ふふふ、じゃ、出直してくるとしますか」
 男は立ち上がりました。橋本さんは何事もなかったように、餃子にかぶりつきました。

 満月の下、橋本さんはシティホテルの中に入って行きました。自分が借りた部屋に入ると、どかっとベッドに倒れこみました。
 橋本さんは毎日毎日こんな怠惰なことしてちゃいけないと思ってます。いくら貯金があるとはいえ、それもそのうち尽きます。でも、橋本さんはすでに40半ば。今更雇ってくれる会社は限られます。
 唯一考えられる手は、テレストリアルガードに戻ること。でも、橋本さんのプライドは異様に高いようです。今更あの隊長に頭を下げるなんてことはできません。だいたい今テレストリアルガードには、あの1つ眼の宇宙人がいます。あの女は生理的に絶対ムリです。
 じゃ、さっきの男について行く? いくらヘロン号の中身を知らないとはいえ、コックピットのレイアウトは手に取るように覚えています。これだけでも十分売れるはずです。
 でも、橋本さんはそこまでゲスではありません。金で国やテレストリアルガードを売るほど落ちぶれてはいないのです。まだまだ最低限のプライドは有してるようです。
 橋本さんはいつの間にか、寝込んでしまいました。
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小説
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