花あと・風あと・・・

身近にある花々や風景、生きものたちを写真で・・・
俳句で綴るハイポニストの毎日

ある農民の死

2017-03-15 17:46:08 | 花・・・


 中島正翁が亡くなった。ご存じない方も多いかと思う。安藤昌益の哲学を継承し、自然循環型農業を継承されて、

「都市を滅ぼせ」(双葉社刊)という名著を残されている。享年96。

平成の初期にこの著にめぐり合い、10年ほど前に知己を得て、以来ずっと文通してきた。何とも見事な方だった。

初めてご自宅をお訪ねした時、翁は既にかなりのご高齢だったはずだが、下呂温泉に近い農村で奥様とまだ畠を耕しておられた。

炬燵にあたってお話をしたが、お茶うけは菓子ではなく漬物だった。直耕ということの大切さを教わった。

農業は商業や工業ではなく、自らの食料を得るためのもので、それ以上でもそれ以下でもなく、余ったものは人にあげたりいた

だいたり、それで充分幸せに暮らせるのだという、日本古来の山村の小さな循環を、温和な微笑で訥々と語られた。

「都市を滅ぼせ」という過激な名著は、未来を食いつぶす都市の悪行を9項目に掲げて理路整然と説く。

目から鱗の主張であり、おそらく何人にも反論できまい。万人必読の名著である。

翁から届く手紙の封筒は、古いカレンダーを切って折って、糊で張り付けた自作のものであり、

中身の手紙はいつもチラシの裏紙に書かれていた。

ご返事を書くのに便箋や原稿用紙をつい用いてしまう自分の行為をいたく恥じた。

老農民にして哲学者だった。マルクスが階級対立の根源を、ブルジョアジーとプロレタリアートに求めたのに対し、

江戸時代の人安藤昌益はこれを、直耕の人と不耕貧食の人とに求めたと説いた。そして自ら最期まで土を耕した。

こういう人こそ、僕は尊敬する。そしてその道を辿りたいと思う。今本当に必要なのは、人の暮らしの原点を、更めて零から

考え直すことなのだ。合掌。



         林中無策   倉本 聰        毎日新聞朝刊より

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