仁左衛門日記

The Diary of Nizaemon

菊次郎の夏

2018年04月15日 | ムービー
『菊次郎の夏』(1999年/北野武監督)を見た。
物語は、「東京の下町。小学3年生の正男(関口雄介)は、祖母(吉行和子)と二人暮らし。父は早くに事故で死に、母は遠くの町で働いていると祖母から聞かされている。夏休みになり、友達は家族で旅行に出掛けてしまい、サッカークラブは夏休み中の練習が休みなことから、すっかり一人きりになってしまった正男なのだった。宅配便の配達が来た時、引き出しの中に偶然に父と母の写真を見つけ、母の現住所を知ってしまった正男は、いてもたってもいられなくなり・・・」という内容。
なけなしの2,000円を悪い中学生にカツアゲされそうになったところを助けてくれた祖母の友人のおばさん(岸本加世子)は、一人でどこかに出かけようとしていた正男の事情を聞く。
冷たいものを御馳走しながら話を聞き、母を訪ねて行こうとしていたことを知ると、自分の旦那(ビートたけし)を同行させることにしたのだが、この男がとんでもない奴だった。
(^_^;)
妻からもらった5万円をギャンブルで使い果たし、正男の2,000円も出させようとする。
女房に「しっかり連れて行くのよ」と言われたが、次に映し出された場面が競輪場なのが笑えるのだった。
(^。^)
さらには、タクシーを奪ったり、ヒッチハイクを断られた長距離トラックのフロントガラスに石を投げつけて割ってしまったり、好き放題をしながら旅を続けるのだが、車の女(細川ふみえ)のような良い人にそうそう出会えるわけもなく、ヤクザ(関根大学)達にボコボコにされてしまったりもする。
とはいえ、デブのおじちゃん(グレート義太夫)、ハゲのおじちゃん(井手らっきょ)、やさしいおじちゃん(今村ねずみ)達は不思議な奴らだったけれども、一応は良い人ということになるのか。
(^_^)
少し切ない夏の物語だった。

龍三と七人の子分たち

2017年09月30日 | ムービー
『龍三と七人の子分たち』(2015年/北野武監督)を見た。
物語は、「ヤクザの組長だった高橋龍三(藤竜也)。隠居してからは息子・龍平(勝村政信)の家で暮らしていた。龍平家族が嫁の実家に帰省中、オレオレ詐欺の電話にまんまと騙されたものの、500万円の現金を用意できなかった龍三は、家にある金目の物をかき集め、指定の場所へと向かった。金を受け取りに現れた田村(山崎樹範)は、龍三が持ってきた物の中にあった暴力団の金バッジや、合流してきた山本故夫(マサ/近藤正臣)の姿に驚き、金を用意できなかった詫びにと指を詰めようとした龍三の様子を目の当りにし、怖くなって逃げ出す。その夜、昔の仲間・武田茂吉(はばかりのモキチ/中尾彬)が若い奴らに絡まれている所へ出くわした2人だったが、マル暴の村上刑事(ビートたけし)が現れ、大きなトラブルに発展することなく、その場は収まった。龍三はそこで西(安田顕)が支配する"京浜連合"という半グレ集団の存在を知り・・・」という内容。
暇を持て余している龍三達は、かつてのヤクザ仲間達と集まろうとハガキを出し、西郷さんの銅像前への集合を呼び掛ける。
そこへ集まってきたのが、スティーブ・マックイーンに憧れ常に拳銃を持ち歩いているという"早撃ちのマック"(品川徹)、仕込杖のステッキを持ち歩き、若い頃は何人もの極道を血祭りに挙げてきたという"ステッキのイチゾウ"(樋浦勉)、いつも五寸釘を持ち歩き、手裏剣のように投げつける"五寸釘のヒデ"(伊藤幸純)、カミソリで相手の喉を切るという"カミソリのタカ"(吉澤健)ら、充分すぎるほどに個性的なメンバーだ。
(^。^)
7人で立ち上げた"一龍会"に、自称・元少年特攻志願兵の"神風のヤス"(小野寺昭)も合流し、京浜連合と構想を繰り広げる。
何とも昔気質で実直なヤクザ達と今時のずる賢い半グレ集団達の比較が面白い。
妙に笑える小ネタの連続は、『アウトレイジ』(2010年/北野武監督)、『アウトレイジ ビヨンド』(2012年/北野武監督)といったハードなやくざ映画とは一線を画すが、こういった何だか力の抜けたようなエピソードの連続も北野作品の特徴の一つであり、他の監督が真似できない展開の面白さがあるように思う。
焼鳥や競馬場のエピソードなど、「そういうことになるんじゃないかな?」という予想の通りになったとしても、それでも笑えてしまうというのが凄いのだ。
(^_^)

戦場のメリークリスマス

2016年12月24日 | ムービー
『戦場のメリークリスマス』(1983年/大島渚監督/日本・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド)を見た。
物語は、「1942年。日本の統治下にあるジャワ島の日本軍俘虜収容所。朝鮮人軍属カネモト(ジョニー大倉)がオランダ軍の男性デ・ヨンを強姦するという事件が起きた。早朝、ハラ軍曹(ビートたけし)が事件処理にあたり、日本語が堪能なイギリス陸軍ジョン・ロレンス中佐(トム・コンティ)が立ちあわされた。そこへ、軍律会議出席のためバビヤダへ向かう所長のヨノイ陸軍大尉(坂本龍一)が現れる。状況を察した彼は、ハラに後の報告を命じて出発した。バビヤダではイギリス陸軍ジャック・セリアズ少佐(デヴィッド・ボウイ)の軍律会議が開廷された。異様な眼差しでセリアズを凝視するヨノイは・・・」という内容。
セリアズはヨノイが所長であるレバクセンバタの俘虜収容所に移送される。
俘虜に様々な情報の提供を求めるヨノイだが、俘虜のリーダーであるヒックスリー(ジャック・トンプソン)やロレンスは一切協力しようとはしないし、セリアズも反抗的で、ヨノイの怒りを買う。
収容所内において支配する側とされる側の人間が登場する物語だが、ヨノイはセリアズに強く魅かれ、ハラはロレンスに対して友情めいた感情が生まれる。
このハラという人は、典型的な日本軍人だったのだろうが、ガチガチに凝り固まった考えの持ち主というわけでもないようだった。
冒頭の事件処理の場面ではカネモトには切腹を求めながらも、遺族への年金のことを口にしていたし、クリスマスの夜、ハラは独房に入れられていたロレンスとセリアズの2人への"クリスマスプレゼント"として、独断で独房から解放してしまう。
サンタクロースからのクリスマスプレゼントというわけだが、相手が自分と違う信条や価値観の持ち主だからといって真っ向から否定するという人ではないようだった。
随分と粗野な男に描かれてはいたけれども、好奇心にあふれる人ではなかったのかと想像した。
ハラを演じたビートたけしが、その後、北野武監督としてカンヌ映画祭など世界中から称賛されることになるとは、この作品の公開当時、一体誰が想像しえただろうか。
メリークリスマス。
酒はいいねぇ。
そういう話。

ニンゲン合格

2015年05月24日 | ムービー
『ニンゲン合格』(1999年/黒沢清監督)を見た。
物語は、「とある病院の一室。目を覚ました吉井豊(西島秀俊)は立ち上がることができず、ベッドから転げ落ちてしまう。それを見て驚く看護師。彼は14歳の時の交通事故が原因で10年間に及ぶ昏睡状態から突然目覚めた男なのだった。彼のその入院中に家族は離散したらしく、目覚めて以来、病室には父の友人・藤森岩雄(役所広司)が10年間の出来事を記録したビデオテープや雑誌を持っては訪ねてきた。退院後は、吉井家を借りて釣堀を営んでいる藤森と同居を始めた豊だったが・・・」という内容。
豊が永い眠りから目を覚ましてから退院するまでの間、どれくらいの日数があったのかは描かれていなかったが、その間家族は誰一人として姿を現さなかった。
病院へやってきたのは藤森ともう一人、交通事故の加害者・室田(大杉漣)という男だけで、どうやら彼は入院中の費用負担をしていたらしく、もうこれで最後にしてくれと数十万円の現金を置いて去っていく。
加害者という立場のこの男の10年間にわたる苦悩が上手に表現されていたように思う良い台詞だ。
豊は24歳にもなるので身体はすっかり大人だが、精神年齢は14歳のままなのだろう。
家に引きこもりがちになるし、時々出掛けた際には店先に積んであるダンボールを踏みつけたり、ゲームセンターで暴れたり、遠くまで歩いたり走ったりと、これまで発散できなかったエネルギーを一気に解き放ったりしている様子である。
自分が置かれている現実を理解したり、何もできなかった過去を諦めたり、自分の気持ちと現状との折り合いをつけていくにはやはり時間が必要なのだろう。
かつて、父・真一郎(菅田俊)と母・幸子(りりィ)が営んでいたポニー牧場を再興し、自分が14歳だった頃に一度時間を戻そうと考えたのは懸命だ。
ほとんど詳細な説明がされないままに坦々と物語が進んでいく展開だが、突然に笑いを誘う演出があったりと、どこか北野武監督作品と似たところが感じられる。
少し不思議な感じの面白い作品だった。

座頭市

2014年04月03日 | ムービー
『座頭市』(1989年/勝新太郎監督)を見た。
物語は、「江戸時代。按摩を生業として関八州(相模・武蔵・安房・上総・下総・常陸・上野・下野)の界隈を歩き続ける座頭市(勝新太郎)。儀肋(三木のり平)の家に立ち寄った際に賭場で起こした揉め事は、菩薩のおはん(樋口可南子)によって納められたが、八州取締役(陣内孝則)と組んで勢力を拡大しようとしていた五右衛門(奥村雄大)に付け狙われることとなる。その後、旅の途中で浪人(緒形拳)、おうめ(草野とよ実)と知り合った市は・・・」という内容。
勝新太郎が演じる"座頭市"の映画は『座頭市物語』(1962年/三隅研次監督)を第1作として全26作品が作られたようなのだが、初めて見たのがこの最終作。
以前に見た『不知火検校(しらぬいけんぎょう)』(1960年/森一生監督)と同様、盲目の按摩が物語の主人公であるものの、何をするにもがめつい不知火検校に対して、市はすべてに淡々としている。
それは、市の目が見えないのをいいことに飯を横取りする牢内の小悪党に逆らうこともせず、床の上にこぼれた味噌汁を口ですするという場面がそれを象徴していて、身体にハンデがあるからと被害者ぶるわけでも塞ぎこむわけでもなく、すべてを受け入れ、あくまでも飄々としている。
「所詮、世の中に楽しいことなど無いのだから、自分で楽しみを作っていこう」といわんばかりの達観した人生観なのだろう。
それ故、"役人をからかって3日間の牢入り"というエピソードには納得してしまうのだ。
(^_^)
この作品では、"真剣"を使用した撮影中に俳優1人が死亡するという事故が起きていたらしいのだが、よく予定通り劇場公開されたものだと思う。
また、監督・脚本・主演の勝新太郎は、この公開の翌1990(平成2)年にハワイのホノルル空港でマリファナとコカインの所持で現行犯逮捕され、帰国後には日本国内でも麻薬及び向精神薬取締法違反の容疑で逮捕されたとのこと。
ジョー山中が英語で歌っているオリジナル曲も何故か雰囲気がぴったりで良かったし、世界観がすっかり完成されている物語だっただけに次の作品が製作されることがなかったのは残念なのだが、それは上記の理由にもよるのだろう。
今となっては"勝新太郎の座頭市"より"北野武の座頭市"のほうが有名なのかもしれない。

アウトレイジ ビヨンド

2012年10月15日 | ムービー
ユナイテッド・シネマ札幌で『アウトレイジ ビヨンド』(2012年/北野武監督)を見た。
物語は、「前会長を銃殺して暴力団組織・山王会を手に入れた加藤(三浦友和)は石原(加瀬亮)や舟木(田中哲司)といった若手を重用し、古参の幹部達を冷遇していた。ある時、不満を募らせていた富田(中尾彬)、白山(名高達男)、五味(光石研)の所にマル暴の片岡(小日向文世)がやってきて、3人を焚きつけたのだが・・・」という内容。
一昨年に見た『アウトレイジ』(2010年/北野武監督)の続編なので、基本的には前作を知らない人には良く分からない内容ではあるものの、最近の日本映画にしては珍しく台詞がいちいち説明的なので分かりやすくはなっている。
ビートたけしは本作でも監督兼主役。
共演の西田敏行(花菱会・西野役)、神山繁(花菱会・布施役)、塩見三省(花菱会・中田役)といった多くの俳優陣の中で演技が一番下手なのが、やはりビートたけしだった。
前作同様どうにも救いの無い物語だが、主役が死んでないことから更なる続編の可能性があるのではないかと思う。
(^_^)

あの夏、いちばん静かな海。

2006年08月28日 | ムービー
『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年/北野武監督)を見た。
これは数年前にましけ映画サークルの仁左衛門企画で一度見ている。
聴覚障害者の青年・茂(真木蔵人)が、捨てられていたサーフボードを拾って修理し、見様見真似で練習に打ち込み、常連のサーファー達に笑われながらもどんどんと上達していく。
恋人の貴子(大島弘子)はいつも一緒にいるが、彼女も聴覚障害者なので2人の間に一切会話は無く、2人の関係は、はためにはとてもあっさりしている。
サイレント映画でもないのにこんなに静かな映画を見た記憶が無い、と思えるくらいに台詞が少ないのだが、そこに流れる久石譲の音楽がまた心地よい。
北野武は、この映画では監督と同時に企画・脚本・編集に名前があるのだが、この監督の好きな所はあえて(と思うのだけれど)悲しい驚きの場面を作らないことだ。
例えば倉本聰だと、脈絡も無く突然に誰かが死んだ話を持ち出して空気を変えるイメージが強いが、北野武にはそれが無くて、マッタク逆の笑える驚きをくれる。
勿論それは元々が芸人であることに大きな理由があるのかもしれないのだが、そもそも倉本聰を引き合いに出さなくても、話の進め方は優れている人だ。
全体として喜劇ではないので、楽しい場面が回想シーンに使われる所もまた泣けてくる。
映画に旬があるとすれば、この映画を見るのは8月の下旬といったちょうど今頃の時期が最も適しているのではないだろうか、などと勝手に解釈してしまう。
とても良い作品だ。
(^_^)