読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『スタンダールのオイコノミア』

2017年05月14日 | 人文科学系
柏木治『スタンダールのオイコノミア』(関西大学出版部、2017年)

スタンダール…学生時代に『赤と黒』や『パルムの僧院』などを読んでリアリズム小説ってこんなのを言うのかなと少々不思議に思ったことがある。私が学生時代に読んだのは新潮文庫の小林正訳だったと思うのだが、少し前に野崎歓の新訳が出て、またスマッシュヒットくらいに売れたが、誤訳が山ほどあるという批判が起きたりした。

この著書でも軽く触れられているが、世界文学全集などに確実に収録される上の二作品は別として、最近はこの時代の文学などというものがほとんど若者に読まれなくなっている。私自身この時代の文学というものへの関心がほとんどなくなってしまったのだから、今の若者は当然だろうというような、まったく理路の立たない理屈でそう思っている。

そういう世相を反映してなのかどうかしらないが、この著者もいわゆる文学作品の文体分析だとか、テキスト読解型の作品分析の方法はとらなかったとあとがきで述べている。ここでは、スタンダールが生きた19世紀初めのフランスという、金と経済が社会を動かすようになった時代、まさにバルザックが活写した時代の、ジャーナリズムやサン=シモン主義など、スタンダールが関わりをもった分野を詳細に調べて、スタンダールの立ち位置を明らかにしようとしている。

そういう意味では、リアリズムだ、個人主義だ、エゴイズムだといった従来のスタンダール研究とは一線を画する研究だと言えるのかもしれない。ただ第一章を始めとした、スタンダール研究の前提となるような、時代背景の記述はたいへん興味深いし、ためにもなったが、スタンダールそのものがバルザックなどとは違って、そうした社会との関わりを持ちたくない(?)タイプの作家であったわけで、そうした手法の研究が、スタンダールの新たな局面を解明してくれることにはならない点が残念だと思う。


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