
データ野球で昨年全国制覇を果たした高星高の作戦に屈したエース岡部に代わって
2回表からマウンドに立った伊藤も、回を重ねる毎に相手校のデータ野球に翻弄、
再三ピンチを迎えるが何とか前半5回を無得点で投げ切った。
試合前は予想もしなかった1回で降板し、ライトの守備についていた岡部も
目を惹くばかりの見事なスタンドの応援団に感化され、しかも
徐々に甲子園の雰囲気にも慣れてきて、
「この夏は最後の挑戦なんだ。」
グラウンド整備を傍観している吉野監督に
「この夏はボクにとつては最後の夏なんです。
後半はボクに投げさせてください。」
岡部は意を決して願い出た。
「よし、わかった。
実はその言葉を待ってたんだ。」
吉野監督は満面の笑みを浮かべてエースをまじまじと見た。そして、
「佐藤は前半ですでに80球に達している。
その点からも有利に投げられるはずだ。」
と言って、岡部を励ました。
やがて、グラウンド整備が終わり、後半戦に入る。
6回表、浪花高は7番沢田が打席に立つ。
すっかり場内の観衆を魅了した吹奏楽の応援に後押しされ打席に立った沢田は
「オレが粘って佐藤に球数を投げさせて上位打線につなごう。」
と心に決め、くさい球はファウルにして8球目のストレートを狙い撃ちする。
しかし、打球は平凡なサードフライに終わる。
8番ライトを岡部に譲った新田に代わり2年生の高田が打席に立つ。
そして、高田も打席で粘り7球目の変化球を捕らえるが内野ゴロに終わる。
9番岡部は第3球目のストレートを振り切るがセカンドゴロに終わる。
6回裏、再びマウンドに立った岡部にスタンドからダイナミックに響き渡る
見事なトランペットの演奏が起こる。
「このモチベーションは何だ。」
力強いトランペットの演奏を聞きながら、その時
岡部は異次元の世界にいるような錯覚を覚えていた。
5番野山を打席に迎え、岡部はコントロールされたストレートを決める。
第2球、打つ気をさそう高めのスライダーを投げ込むが
野山は見送り、ボールとなる。
第3球、再び変化球を投げ込むと野山はバットを豪快に振り切るが、空振りとなる。
2-1と追い込んで、岡部はキレのあるスライダーを投げ込む。
「ストライク!」
コースいっぱいに入り、見送りの三振に打ち取る。
「いいゾ、その調子だ。これから下位打線だ。
強い気持ちで投げ込め。」
森山は変化球にキレが戻った、エースを頼もしそうに見る。
6番木村はフルスイングを繰返して打席に立つ。
第1球、キレのある変化球がコースに決まる。
第2球、豪速球のストレートも見事に決まる。
たちまち2-0と追い込んだ後、第3球のフォーク、第4球のスライダーはコースをはずれ、2-2となる。
「ストレートで勝負だ。」
森山がサインを出すと岡部は首を振り
「チェンジアップでいくぞ。」
自信たっぷりの表情に、森山は大きくうなづいてミットを構える。
第5球、ゆっくりとしたモーションからチェンジアップを投げ込む。
「ストライク!」
審判の手が高々と上がり、打者は見送りの三振に終わる。
そして、7番岩井は第3球目のスライダーにうまくバットを合わせるが
センターフライに終わる。
6回裏を完璧に押さえ、ベンチに戻った岡部に
「1回とは別人のように堂々と投げていた。
どうやら甲子園の雰囲気にも慣れてきたようだな。」
吉野監督が岡部の肩をポンとたたいて激励した。
そして、7回表は、1番葉山から攻撃が始まる。
葉山は快投を見せたエースに触発されたように1球目から積極的に打ってでる。
そして、第3球目のストレートを豪快に振り切り1,2塁間を抜けるクリーンヒットを放つ。
無死一塁で2番宮本が打席に立つ。
宮本はバントの構えをするが、1,2球目のボール球をよく見て、
第3球目の高めの変化球にうまくバットを合わせてバントを成功させる。
一死二塁で3番市川が打席に立つ。
応援スタンドから一段と力強い「鉄人28号」のトランペット演奏が流れる。
市川はフルスイングを繰り返し、二塁走者を返すぞ、とばかりにマウンドの佐藤を睨む。
第1球、佐藤は気迫のこもったストレートを投げ込むと
市川はその球をジャストミートする。
打球はグングンと外野方向へ伸びて行くが、
レフトが全力疾走して球に追いつき、ジャンプして捕球する。
レフトの超ファインプレーにスタンドは大歓声が起こる。
「絶対に抜けたと思ったが‥」
市川はヘルメットを叩きつけて悔しがる。
二死二塁となり、打席に4番スラッガー大谷が立つ。
「このチャンスは絶対に生かすぞ。」
大谷はバットを力強く握り締めて投球を待つ。
第1球、目を見張る豪速球が決まる。
「まだこんな球が投げられるのか‥」
大谷は少し怯むが、再び強い気持ちで打席に立つ。
第2球、再びストレートを投げ込むが、わずかにコースを外れる。
第3球、高めの変化球ほ見送り2-1の後、
第4球目の変化球をフルスイングするがファウルとなる。
2-2から佐藤は変化球で打たせて取ろうとするが、
大谷はファウルで免れる。
そして、第6球目のストレートを豪快なスイングで打ち返し
センター前に運ぶ。
二塁走者は全力疾走でホームへ滑り込み、セーフ
浪花高に待望の1点が入る。
なおも二死一塁と追加点のチャンスに5番森山が打席に立つ。
「ここでつないで追加点だ。」
森山は何とか塁に出ようと打つ気を漲らせてバットを構える。
そして、第4球目の外角高目の変化球を豪快に振り切る。
打球は外野へ飛ぶが、ライトが捕球し、スリーアウトとなる。
そして、終盤の8回は両校エースが踏ん張り、無得点に終わる。
1点リードで最終回の攻撃を迎えた浪花高のスタンドでは、
打線の奮起を期待してトランペットの演奏が一段と激しく響く。
「オイ、スタンドの応援に応えるためにも一発ほしいな。」
吉野監督が選手たちに発破をかける。
9回裏、先頭打者岡部は佐藤の力投に屈し、空振りの三振に終わる。
1番葉山は力強いスタンドの応援団のためにも一発放ちたいと
ストレート一本に絞り、送球を待つ。
そして、第3球目の内角へのストレートをフルスイングする。
打球はレフト方向へ一直線に伸びていくが、わずかに切れファウルとなる。
そして第4球目の変化球に手を出しサードゴロに終わる。
2番宮本も一発を狙い積極的にバットを振るが、ファウルを連発し、
結局、変化球を空振りしスリーアウトとなる。
そして、昨年の優勝校高星高は最小得点差の1点を追って、
最終回の攻撃に入る。