ナイン (夏の奇蹟)


高校球児たちを中心に創作した青春ドラマです。

74 完投

2012年05月28日 | 日記

4回裏、大量4点をあげ、遂に逆転に成功した浪花高は
5回表、エース岡部が前半の最後のマウンドに立つ。

「守りに入るなよ。」

吉野監督はバッテリーに指示する。

先頭打者岩本は何とかつなごうとバットを力強く握り締めて打席でボールを待つ。

第1球、岡部はスライダーを投げ込む。

「ストライク!」

球審の力強いコールが響く。

第2球、今度はチェンジアップを投げ込むと、打者のバットは空を切る。

2ストライクに追い込んだ岡部はストレートでカウントを取ろうとするが
森山は守りに入るのを恐れ、変化球で打たせて取ろうとする。

岩本は2アウトから投げ込まれる変化球をファウルチップで粘り、
第7球目のフォークを振り切るがショートゴロに終わる。

1アウトで、下位打線に入り岡部は7番、8番打者を連続三振に打ち取る。

5回表の守備を終え、ベンチに戻ってきたバッテリーに

「前半5回迄と言っていたが、まだ投げられそうだな。」

吉野監督がブルペンで投球練習をする
伊藤と西村のバッテリーを横目で見ながら言った。

「はい、代打が出るまで投げます。」

頼もしい口調で言い切る岡部に

「完投を目指してほしいと思います。」

逆転し、ボールに勢いが出てきたエースの投球に森山が太鼓判を押した。

「そうか、それじゃ完投を頭に入れてもらおうか‥」

吉野監督は、その時フト
この試合経過が全国制覇に繋がっているような気がしてきた。

一方、スタンドでは控え選手から、6回からの後半は伊藤がマウンドにあがる、
と聞いた誠が、岡部に完投してほしいとの願いを込めて、自ら指揮をとり
岡部と森山の応援メドレーで後押ししていた。
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73 反撃

2012年05月23日 | 日記

4回裏、遂に同点に追いついた浪花高は、2アウト一、二塁で
3番市川が打席に立つ。

みんなで作った宣誓文の中で、チーム一丸となって戦いたいという気持ちで
試合に臨んだ市川は、何としてもつなごうと積極的にバットを振る。

一方、強力打線を擁し甲子園出場を果たし、自らも甲子園デビューを果たした
川野は自分の投球をアピールする絶好のチャンスと気迫を漲らせる。

2ストライクの後、ファウルチップで粘る市川に
バッテリーは業を煮やし、遂にカウントを取りに豪速球のストレートを投げ込む。

市川はこれみよがしにフルスイングする。

打球は一直線にレフト深くに飛び、そのままスタンドに飛び込む。

「ホームラン!」

塁審の右手がグルグルと回り、二人の走者が次々とホームイン、
市川がガッツポーズでホームベースを踏んで、3点を追加し
4回裏、浪花高は遂に9−6と逆転する。

「よくやった。」

吉野監督はチーム一丸となって逆転を果たしたナインの健闘をたたえた。

一方、強力打線と共に頂点を目指す決定的な存在の川野投手が
逆に浪花打線に打ち込まれた池島高の柳田監督は思わず頭を抱え込む。

4番大谷はスラッガーとして、ここで自分も一発放とうと
闘志を漲らせて打席に立つ。

川野投手はここで押えれば、味方打線の援護で再度逆転できる、と奮い立つ。

そして、サラブレッド投手とスラッガーの息詰まる対戦が始まる。

第1球、川野は得意のストレートを渾身の力を込めて投げ込む。

「ストライク!」

球審の力強いコールが響く。

「さすがだ、カウント取りのストレートとは別格だ‥」

大谷フーッと大きなため息をつく。

第2球、今度は上から下へ落ちるドロップを投げ込む。

大谷はボール球とみなし、見送るがコースいっぱいに入る。

「何てことだ、2ストライクになってしまった‥」

大谷は焦燥感にかられるが、冷静になると前打席の市川のことが頭に浮かぶ。

「そうだ、ファウルチップで粘ろう‥」

川野が投げ込む球を、大谷はことごとくバットに当ててファウルにする。

目に見えて川野の投球数が増えてきたことに不安を感じはじめた西野は、
今度は決め球のストレートをフォークに変えて打ち取ろうとする。

第6球、微妙なコースに飛んできたフォークを、大谷は渾身の力で打ち返す。

「カーン!」

打球はグングンと球速を増し、外野深くへ飛んで行った。

ライト岡田が懸命にバック、フェンス前で捕球する好プレーでアウト、
スリーアウトとなり、4回の攻防を終える。

「3点のリードは大きい。しかし、守りの野球に入るのは危険だ。
 コツコツとアウトを重ねて行こう。」

吉野監督は前半の5回表の守備につくバッテリーに忠告した。
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72 同点

2012年05月20日 | 日記

エース岡部の踏ん張りで、ツーアウト満塁を無得点に切り抜けた浪花高は
4回裏、7番沢田が打席に立つ。

「岡部の力投に応えろ!」

吉野監督は野手に発破をかける。

先頭打者として打席に立った沢田は、何とか出塁しようと積極的にバットを振る。

そして、カウントをとりにきたストレートを捕らえ、豪快にバットを振り切る。

打球は1,2塁間を抜けるクリーンヒットとなる。

「いいゾ、手堅くバントでつなげ。」

吉野監督は8番新田に指示する。

新田は第2球目の高めの変化球にうまくバットを合わせ、
送りバントを成功させる。

1アウト二塁となり、9番岡部が打席に立つ。

「何とかつなぎたい。」

岡部は必死で球にくらいついて、第3球目の高めの変化球をフルスイングする。

「カーン!」

打球は快音を残してセンター前へ飛んで行く。

センターの平山が猛ダッシュをして打球をキャッチする。

スタンドは悲鳴にも似たため息が起こり、明暗を分ける。

2アウト二塁で1番駿足の葉山が打席に立つ。

「球をよく見て、バットを振り切れ。」

吉野監督は葉山に告げると、ベンチ前で腕組みをして見守る。

葉山は駿足を生かして、何とかつなごうと内角高めの球を地面に叩きつけ、
大きなバウンド起こし、全力疾走で一塁へ駆け込む。

「セーフ!」

二死一、三塁となり2番宮本が打席に立つ。

宮本は前打席でのミスをここで返そうと強い気持ちで打席に立つ。

第1球、川野の豪速球がど真ん中に見事に決まる。

「しまった。」

宮本はストレートを見逃してしきりに悔しがる。

第2球、川野は変化球で打たせて取ろうとするが、球はわずかに外れる。

1−1となり、宮本はくさい変化球はファウルで免れ
2−2からカウントを取りに来たストレートを見事に捕らえる。

打球はライト前へのクリーンヒットとなる。

三塁走者が生還、1点をあげ6−6となり、
浪花高は遂に同点に追いつく。

「豪速球のストレートは捕らえにくいが、カウントを取りに来たストレートは
 何とか捕らえられる。」

吉野監督は球数を重ねる川野投手の弱点を見抜いた。

「よーし、球を見極めながらファウルで粘って、
 フルカウントに持ち込んで打ち崩そう。」

4回裏、2アウト一、二塁と一打逆転のチャンスを迎え、
浪花高吉野監督の作戦が始まった。
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71 踏張り

2012年05月16日 | 日記

前半戦のマウンドを任されたエース岡部は、
4回表、ツーアウト1塁でクリーンナップを迎える。

2番平山にファウルで粘られ、疲労を隠し切れない岡部に
吉野監督がマウンドに伝令を送る。

「ここはとりあえず伊藤にマウンドを譲って、終盤に投げることを考えよう。」

吉野監督の指示に、岡部は一瞬、顔を曇らせて

「ここでマウンドを降りれば、オレの最後の夏は終わってしまうような気がする。」

訴えるような目で話す岡部に

「そうだな、ここは岡部に任せるのに賛成だ。」

賛同する森山に、伝令の久保は駆け足でベンチに戻り、
バッテリーの意向を吉野監督に告げる。

吉野監督は納得し、試合再開となる。

3番岡田はつなぐことを頭に入れ、打席に立つ。

第1球、岡部は渾身の力を込めてストレートを投げ込む。

打者は見送り、1ストライクとなる。

第2球、変化球でかわそうとするが、球が浮きバットがうまく捕らえる。

「カーン!」

快音を残して、ボールは外野深く飛んでいく。

一塁走者は全力疾走で三塁に達し、打者も二塁に滑り込みセーフ、
ツーアウト二、三塁となる。

絶好の追加点のチャンスにスラッガー松本が打席に立つ。

「ここは敬遠しよう。」

前打席でストレートを長打されたことを考え、森山がサインを出す。

岡部は意を決したように、首を大きく横に振る。

「わかった、しかしストレートは禁物だゾ。」

森山が厳しい顔で釘を刺す。

岡部はうなづき、第1球、気合のこもったスライダーを内角低めに投げ込む。

「ストライク!」

主審が力強くコールする。

スラッガー松本はバットを力強く握り直すと、第2球目からは
投げ込まれる変化球を左右に器用にスタンドへファウルを飛ばす。

「球数を投げさせるつもりだな。」

バッテリーは2ストライクを取りながらも、松本に翻弄される。

「敬遠だ。」

森山はストレートで長打を浴びるより、敬遠策を選択する。

ツーアウト満塁となり、5番大山が打席に立つ。

川野投手の登場により、池島高に声援を送る観衆が目立つ中、
今大会のハイライトともいえる浪花高のトランペツト演奏も負けてはいない。

「どうやら、前半のクライマックスを迎えたようですね。
 場内の大声援からして、決勝戦の様相を呈して来ました‥」

野球中継のアナウンサーが興奮気味に話し始める。

そして、岡部が大山に第1球を投げ込む。

「ボール。」

変化球で打たせて取ろうとするが、選球眼のよい大山は見送る。

第2球、渾身の力を込めて内角低めに豪速球を投げ込む。

「ストライク!」

狙っていたストレートを見逃した大山は一瞬、焦る。

「チェンジアップで勝負だ。」

森山は打者の打つ気を誘い、内野ゴロに打ち取ろうとする。

そして、第3球目のチェンジアップをフルスイングするが空振りとなる。

「いいゾ、変化球で攻めろ。」

攻めの投球を要求する森山に、岡部はきわどいコースに変化球を投げ続け
遂に第6球目に、空振りの三振に打ち取る。

「よく踏ん張った。満塁を無得点に押さえたのは大きい。
 これで勝算が見えてきたぞ。」

吉野監督は、汗だくになってペンチに戻って来たバッテリーに告げ、
4回裏の打線の活躍に期待を託した。
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70 作戦

2012年05月13日 | 日記

3回表、マウンドに立った岡部はベンチで吉野監督に言われたことを頭に浮かべる。

「川野投手とはこの後も対戦することになると思う。
 そういう意味でも後半は伊藤に実践させてやりたい。
 岡部には5回迄まかせるから、球数を気にしないでどんどん責めるんだ。
 マシンガンにはバッテリーの作戦で切り抜けるんだ。」

岡部は6番岩本に対し、よくコントロールされたストレートを
コースぎりぎりに投げ込む。

「ストライク!」

第2球、打つ気満々の打者にキレのあるスライダーを投げ込む。

岩本はフルスイングするが空振りとなる。

「いいゾ。今度はチェンジアップだ。」

森山は3球で押えようと強気のサインを出す。

岡部は大きくうなづき、決め球を投げ込む。

「ストライク!」

主審のコールが響き渡り、打者はガックリと肩を落としてベンチにさがる。

7番小山はスイングを繰返して打席に入る。

バッテリーはストレートと変化球をうまく組合わせて連続三振に打ち取る。

スタンドの力強いトランペット演奏が続く中、岡部は8番西野も平凡な内野ゴロに打ち取り、
池島の強力打線に投げ勝った自信を抱いてベンチに戻る。

「作戦が大成功だ、その調子でクレバー投球でマシンガン打線を制せ。」

鼻息荒い吉野監督のゲキが飛ぶ。

一方、川野投手も新人らしからぬ度胸の据わった投球で
浪花打線のクリーンナップを寄せつけず、三者を三振凡打で打ち取る。

「さすがだ、親父の血をひいた投球をするな。」

吉野監督は1点のビハインドを考慮に入れ、ため息まじりに言った。

4回表、9番川野を三振に打ち取った岡部は
ワンナウトで1番駿足の武井を打席に迎える。

「くさい球はファウルで粘れ。」

柳田監督が選手たちに指示する。

岡部は武井に第1球、フォークを投げ込むと打者は見送る。

「ボール。」

第2球、内角へ高めの変化球を投げ込むと、武井はファウルで逸れる。

1-1から武井はまるでマシンガンの球を打ち返すようにファウルを連発し、
投球数は2ケタに達する。

額に汗をにじませながら黙々と投げ込む岡部に

「スローボールで勝負しよう。」

森山のサインにうなづき、岡部が度肝を抜く大きく曲がるカーブを投げ込む。

打者は一瞬戸惑うが、バットを振り切る。

「ストライク!」

主審のコールを聞いて、バッテリーはホッと大きなため息をつく。

ツーアウトとなり、2番平山が打席に立つ。

平山は前打者に相当数の球数を投げた岡部を頭に入れ、
第1球目の変化球をフルスイングする。

打球はグングン伸びていくが、わずかに左に切れる。

「いいから積極的に打っていけ。」

4回まで投げ込んできて、球数が増すと疲れを見せる岡部に
柳田監督がファウルで粘るよう指示する。

平山はまるでマシンガンでトレーニングをするように、
投げ込んで来る球を次々と打ち返す。

「何てことだ、岡部の疲労が心配だな‥」

ベンチでは吉野監督が腕組みをして傍観する。

平山はついにフルカウントに持ち込むと、カウントを取りにきた
変化球がわずかに逸れ、フォアボールで出塁する。

「いいゾ、クリーンナップでつなぐんだ。」

柳田監督は追加点を頭に入れた作戦に出る。

一方、精根尽き果てた様相のマウンドの岡部を見て
吉野監督はブルペンで投げ込みを始めた伊藤の方を見ながら

「タイム。」

審判に申し出ると、伝令をマウンドに送る。

浪花高応援スタンドでは、すっかり名物となったトランペットの力強い演奏が鳴り響いていた。
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69 展開

2012年05月06日 | 日記

二死一塁と反撃のチャンスを迎え、
打席に立った3番市川がホームラン性の大きな当りを放つ。

「やった、ホームランだ。」

ベンチは総立ちとなり、打球の行方を見守る。

その時、突然強い浜風が吹きライトフェンスを越えようとした球は
ライトを守る岡田の近く迄押し戻される。

一塁走者宮本は二塁ベースを回ったところで失速、
ライトフライに終わったと思い込み、その場に立ち止まる。

打球を見守っていた打者市川もガッカリと肩を落とす。

スリーアウトとなり、2回裏を終わったと思ったその時、
再度、目を疑うような光景を見ることになる。

ライト岡田が夏の日差しをまともに浴び、ボールを見失い
まさかの落球をする。

ベンチに戻りかけた宮本は全力疾走で三塁ベースに向かうが、
ライトからの好返球でタッチアウトとなる。

ガックリと肩を落としてベンチに戻ってきた宮本に

「コラ! ツーアウトなんだから何が何でも本塁に突っ込むのが鉄則だゾ。」

吉野監督が激しく叱責する。

市川の、観衆を一喜一憂させた一打で無得点に終わった浪花高は
3回表の守備につく。

岡部はマウンドで8球の投球をしながら、場内が突然現われたルーキー、
川野投手をバックアップする雰囲気を肌で感じる。

ミットを構える森山もスタンドの雰囲気に強い違和感を感じていた。

そして、スタンドで応援する誠もそれは強く感じていた。

「こうなるとトランペットの力を借りるしかないな。」

誠はメモ用紙を取り出し、エネルギーあふれる曲名を書き出し、
トランペットを演奏するリーダーの永田隆司に手渡した。

「よーし、いよいよオレたちの実力を発揮する時が来た!」

隆司はメンバーに曲名を告げると自ら指揮者となり、演奏をはじめた。

今度は三塁側スタンドが俄然 活気づき、スタンドの観衆の視線を集める。

場内がコンサート会場と化したことに対抗し、
一塁側スタンドからはスタンドの観衆も誘った力強いコールが鳴り響く。

「いやー、思わぬ展開となりましたね‥」

テレビ中継のアナウンサーが予期せぬ出来事に異常な盛り上がりを見せる
スタンド風景を解説しながら、興奮気味に話し始めた。

そして、試合は3回表の攻防に入る。

甲子園球場の異様な雰囲気に加え、更に加速する応援合戦に、
岡部は戸惑いながらも、力強くマウンドのプレートに足をかけた。
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68 選手交代

2012年05月03日 | 日記

2回裏、浪花高の攻撃が始まる。

池島高ベンチに大きな動きがある。

「ピッチャー、津村に代わって川野。」

アナウンスが場内に響くと観衆は騒然となる。

「川野って‥」

吉野監督は一瞬ハッとする。

「池島の川野といえば、十数年前甲子園を沸かし、プロ野球選手になった
 川野雄大投手がいたが、まさか‥」

急遽マウンドに上がった川野は、無名の1年生投手だが
グラウンドならしの8球の投げ込みは堂々とした風格があった。

その時、急遽マウンドに上がった川野について
テレビ中継のアナウンサーが興奮気味に話し始めた。

「津村に代わってマウンドに立った1年生の川野君は、かつて
 やまびこ打線で甲子園を沸かした時のエース川野雄大投手の息子さんです。」

「あの投球フォームといい、度胸といいやっぱり川野投手の息子か‥」

吉野監督の頭に言いようもない不安が芽生える。

川野投手の8球の投球練習が終わり、
2回表、浪花高の1点を追った攻撃は1番葉山から始まる。

「球をよく見てジャストミートを心がけるんだ。」

吉野監督は葉山に指示する。

第1球、豪速球のストレートが投げ込まれてきた。

「ストライク!」

主審のコールが響く。

「よく制球された速い球だ。」

呆然と立ち尽くす葉山を見ながら、吉野監督がつぶやく。

第2球、今度はキレのあるスライダーが投げ込まれる。

「ストライク!」

コースいっぱいに決まる。

いきなり2ストライクと追い込まれた葉山は、
打席を外して豪快なスイングを繰返す。

そして、ゆっくりと打席に立ち、第3球を待つ。

マウンド上の川野はボールを掌中に収め、意を決したような
真剣な表情でミットを構える西野を見る。

「よーし、3球で決めよう。」

西野のサインにうなづいて川野が大きなモーションを起こす。

そして、第3球目に打者の手許で大きな落差のあるフォークを投げ込む。

「ストライク!」

主審が力強くコールする。

3球三振に終わった葉山は悔しそうな表情でベンチに戻る。

「見事な投球だ、打高投低との前評判の池島にとんでもないピッチャーがいたな。」

吉野監督は川野の投球を見て、重い1点を予感する。

そして、2番宮本が打席に立つ。

宮本はバットを力強く握り締めて打球を待つ。

第1球、いきなり胸元にフォークが飛び込んでくる。

「ストライク!」

今までに見たこともないような落差のある球に宮本は驚愕する。

第2球、内角低めにストレートがきれいに決まり、
第3球目のカーブもコースいっぱいに決まる。

1,2番打者を連続3球に三振打ち取った川島は、マウンド上で
余裕の表情を見せてクリーンナップを迎える。

3番市川は突然彗星のごとく現われた
高校野球界のサラブレッド川野投手に

「オレは浪花高の3番打者だ!」

と心に言い聞かせて、異常なまでの闘志を抱く。

市川はすっかり恒例となったスタンドの力強いトランペットの演奏を聞きながら
力強くバットを握り締めて打席に立った。

第1球、外角へのストレートを打ち返すがファウルとなる。

第2球目の変化球はコースをはずれ、1-1となる。

そして第3球目のフォークを捕らえるが、ファウルとなる。

2-1となり、市川は投げ込まれるくさい球は全てファウルにし、
ついにフルカウントに持ち込む。

「いいゾ。球がよく見えている。」

吉野監督が冷静に投手と対戦する市川を頼もしく見る。

そして、第8球目のフォークはわずかに外れ、
市川はフォアボールで一塁に出る。

「1年生投手に負けてたまるか!」

4番スラッガー大谷はフルスイングを繰り返した後、打席に立つ。

第1球、打たせて取ろうと投げ込んだ内角高めのスライダーを
見送るが、コースぎりぎりに入る。

第2球、内角高めのフォークを打ち返すがファウルとなり、2-0と追い込まれる。

「何とかつながないと川野のペースにはまってしまう‥」

大谷は必死で球に喰らい付き、くさい球をファウルにし
2−2とした後、第7球目のストレートを豪快に打ち返す。

打球は一直線にライト方向へ飛んでいく。

スタンドの観衆は外野深く飛んでいくボールに釘付けとなる。

そして、この後、甲子園球場に住むといわれている魔物が
スタンドの観衆の目を翻弄させる奇妙なゲーム展開を繰り広げる。
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67 意地

2012年05月01日 | 日記

逆転のホームランを浴び、マウンドで意気消沈していた岡部の耳に
スタンドから力強い「鉄人28号」のトランペット演奏が聞こえてきた。

「オレたちにとって最後の夏なんだ。」

エース岡部は奮い立つ。

ホームベースでミットを構える森山は、岡部の全身に覇気が見られ、頼もしく感じられた。

3番岡田が打席に立つ。

岡部は意を決したように大きなモーションを起こし、
森山が避けるストレートで勝負しようと決心する。

「ストライク!」

厳禁としていたストレートの球を捕球した森山は一瞬たじろぐが、
投げ込まれたストレートは球がよく走っていて、打者には打ちづらい球であった。

「よーし、いけるゾ。」

森山は納得したように、マウンドの岡部にサインを送る。

岡部は大きくうなづくと今度はカーブを投げ込む。

「ストライク!」

バットを握ったまま呆然と立ち尽くす岡田を見て

「あんなマシンに負けてたまるかもんか!」

岡部は心の中で叫ぶと、意を決したように再びストレートを投げ込む。

岡田は待ってましたとばかりに豪快にバットを振り切るが空振りに終わる。

「いいゾ。」

森山は白い歯を見せて、力強く返球する。

「スゴイ球だ、一皮むけたようだな。」

ベンチでは吉野監督が驚愕気味につぶやく。

そして、4番スラッガー松本が打席に立つ。

「ストレートで勝負だ!」

強気な岡部に森山は戸惑いながらもミットを構える。

そこへ目にも留まらぬ豪速球が飛んできた。

「ストライク!」

審判の声が響き、球場内から大きな拍手が起こる。

スラッガー松本は鋭い目でマウンドの岡部を睨みながら、

「絶対に打ち返す!」

打席を外してビュンビュンとバットを振りながら、心の中で叫んだ。

第2球、岡部はチェンジアップを投げ込むがボールとなる。

打つ気に逸る松本の様子に森山は外角高目の変化球で打たせて取ろうとサインを出す。

岡部はうなづき、キレのあるスライダーを投げ込む。

松本はフルスイングするがファウルとなる。

2−1と有利なカウントになり、バッテリーはフォークを中心とした変化球を連投するが
コースを外れフルカウントとなる。

「ストレートで勝負だ。」

岡部のサインに森山は首を横に振る。

「松本にはストレートは危ない。」

バットがよく振れている打者に、森山は忠告する。

しかし、岡部はスタンドから流れてくる力強いトランペットに後押しされるように
森山のサインを無視するように渾身のストレートを投げ込む。

「カーン!」

快音を残して球はセンター前へポトリと落ちる。

「しまった!」

岡部は後悔するが、速い打球のため一塁ベースに留まっている松本を見て

「気にするな、次の打者を打ち取ろう。」

森山の諭すようなサインを見て、岡部は冷静さを取り戻す。

二死一塁で5番大山が打席に立つ。

岡部はゆっくりとプレートに足をかけ、投球モーションに入る。

第1球、岡部はキレのあるスライダーを投げ込む。

大山は球をよく見て、ボール球を見送る。

第2球、今度はキレのあるカーブを投げ込む。

「ストライク!」

1−1となり、岡部はストレートで勝負をかける。

第3球、内角低めに制球された豪速球を投げ込む。

大山は待ってました、とばかりにフルスイングするが、
打球は一塁側スタンドへ逸れる。

「いいゾ。球が走っている。」

森山は納得したように首を大きくタテにふる。

「今度は打ってやる!」

打つ気にはやる打者に、岡部は真っ向勝負に挑む。

第4球、再び内角低めにストレートを投げ込む。

大山は豪快にスイングするがバットは空を切る。

打者を空振りの三振に打ち取り、すっかり立ち直った岡部に

「いいゾ。」

森山は歩みより、並んでベンチに戻ると、

「最高の出来だ。」

吉野監督が満面の笑みを浮かべて、エースをたたえた。

浪花高スタンドでは、2回裏の攻撃を前に力強いトランペット演奏が始まった。

選手たちは1点のビハインドを跳ね返そうと闘志を燃やす。
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66 打線爆発

2012年04月28日 | 日記

1回表、猛打を誇る池島打線を無得点に押さえた後
その裏にエース津村に打者一巡の猛攻で5点を挙げ意気あがる浪花高校は2回表の守備につく。

「このペースで一気に戦い抜こう!」

吉野監督は鼻息荒く選手たちに発破をかけた。

2回表、5番大山が打席に立つ。

第1球、岡部はカーブを投げ込む。

「ストライク!」

キレのある球がコースに決まる。

「いいゾ。」

森山はスックと立ち上がり返球する。

第2球、今度はスライダーを投げ込むが、わずかにコースを外れ1−1となる。

ここで大山が打席を外し、バットをビュンビュンと素早く振り回す。

「スゴイ腕力だ、ストレートは厳禁だな‥」

森山は痛感する。

そして、第3球目に決め球にしているチェンジアップを投げ込む。

「カーン!」

大山はうまくタイミングをとり、豪快に球をジャストミートし、
センター前へ運ぶ。

「やられた‥」

森山はマスクをとり、打球を追った後、ゆっくりと座る。

6番岩本が打席に立つ。

岡部は一塁ランナーを気にしながらセットポジションにつく。

森山は打者の構える足元を見ながら、ミットを低めに構える。

第1球、岡部はスローカーブを投げ込む。

「ボール」

球はコースを大きく外れる。

第2球、チェンジアップを投げ込む。

打者は豪快にスイングし、球を打ち返すがファウルとなる。

そして、第3球目のスライダーをジャストミートし、
1,2塁間を抜けるクリーンヒットを放つ。

無死一、二塁となり7番小山が打席に立つ。

「高めの変化球で打たせて取ろう。」

森山のサインにうなづき、岡部は第1球目にスライダーを投げ込むが
キレがなく、打者は豪快にバットを振り切りセンター前へ運ぶ。

二塁走者は一気に走り、本塁へ滑り込み、セーフ、
一塁ランナーも三塁に達する。

1点返し、なおも無死一、三塁で8番西野が打席に立つ。

「大量得点で津村を楽にするためにも、オレがつないで
 一気に逆転するぞ。」

西野はつなぐことを頭に、打席でボールを待つ。

第1球、岡部はチェンジアップを投げ込む。

「ストライク!」

コースいっぱいに入る。

第2球、キレのあるスライダーを投げ込む。

「ストライク!」

2-0となり、岡部はスローカーブで打者を翻弄しようとするが、
西野はうまくタイミングを合わせて振り切り、ライト前へ運ぶ。

三塁走者は悠々ホームイン、一塁走者も懸命に走り三塁へ駆け込み、
打者も二塁に達する。

2点を返し、なおも無死二、三塁と反撃のチャンスが続く池島ベンチで

「ペースに乗ってきたゾ。ここでつないで大量得点だ。」

柳田監督の意気があがる。

9番津村は打席に入る前にスイングを繰返す。

「ここは絶対に1アウトだ。」

森山はマウンドの岡部に強気のサインを送る。

岡部は大きくうなづき、キレのある変化球を投げ込む。

「ストライク!」

第2球、今度はカーブを投げ込む。

「ストライク!」

よく制球されたボールで2ストライクをとる。

「チェンジアップで決めよう。」

森山のサインにうなづき、第3球を投げ込む。

「ストライク!」

主審のコールがグラウンドに響き、打者は見送りの三振となる。

「よーし、その強気の投球だ。」

森山は岡部を直視し、ボールを返球する。

そして、前打席でストレートをセンター前へはじき返した
1番武井が打席に立つ。

「ストレートは厳禁だゾ。」

森山は岡部に釘をさす。

岡部は大きくうなづいてモーションを起こし、第1球目にフォークボールを投げ込む。

「ボール。」

第2球、今度はスローカーブを投げ込む。

「ボール。」

コントロールの定まらない岡部に

「チェンジアップで決めよう。」

岡部はうなづき外角低めに投げ込むが、ボールとなる。

「満塁にして、打たせて取ろう。」

森山は無理にカウントを取りにいって長打を打たれることを避けようとする。

第4球、フォークを投げ込むとコースいっぱいに決まる。

1−3となり、第5球目には再びチェンジアップを投げ込むが
コースをはずれフォアボールとなる。

一死満塁となり、2番平山が打席に立つ。

「内角を攻めて、打たせて取ろう。」

森山はダブルプレーで討ち取ろうとする。

第1球、岡部はスローカーブでストライクを取る。

「よーし、次はフォークで決めよう。」

第2球、岡部はフォークを投げ込むが大きく外れる。

1−1からバッテリーはカウントを有利にしようとチェンジアップを選択する。

一方、打席の平山は前打席を凡打で終わった悔しさを晴らそうと
気迫を漲らせてバットを構える。

そして、第3球、岡部がカウントをとりにいったチェンジアップを
平山はフルスイングでジャストミートする。

打球は大きな弧を描いてそのまま外野スタンドへ突き刺さる。

「ホームラン!」

審判の右腕がグルグルと回り満塁ホームランを告げると、
一塁側スタンドは総立ちとなり、歓喜の渦と化す。

「逆転だ!」

池島ベンチは逆転の殊勲打を放った平山を全員が整列して、笑顔で迎える。

「ここで一気に攻めて、エースを引きずり降ろそう!」

柳田監督は選手たちに発破をかける。

一方、浪花ベンチでは

「ここが正念場だ、岡部、踏ん張れ!」

吉野監督の伝令がマウンド上に集結した選手たちに告げられる。

そして、応援スタンドではすつかり名物となったトランペットが
「鉄人28号」を力強く演奏し始めた。
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65 立ち上がり

2012年04月25日 | 日記

昨年の優勝校、高星高を最小得点1点差で制し、ベスト8を果たした
浪花高校は、今度はベスト4進出を目指して今大会屈指の打撃力を誇る
池島高と対戦することになる。

「池島打線は強力な破壊力がある。次の試合は投手の踏ん張りに尽きる。」

吉野監督は岡部と伊藤に告げた。そして、

「何でもバッティングセンターで160キロ近い球を打ち返すトレーニングをしてきたと聞いている。
 特にクリーンナップはストレートは10割は固いそうだ。」

「じゃ、変化球で勝負するしかないんですか?」

森山は尋ねた。

「そういうことだな、しかし‥」

吉野監督はしばらく考えこんだ後

「変化球の中でもチェンジアップとスローカーブをうまく組み立てる必要がある。」

バッテリーは2日後に控えた試合に向けてトレーニングに励む。

数日後、池島高戦を迎える。

「1回を無得点で押えれば見通しが立つ。」

吉野監督は序盤戦の重要性を強調した。

1回表、マウンドで池島高の強力打線に臨むエース岡部はこれまで経験したことのない緊張感を味わっていた。

1番駿足の武井が打席に立つ。

「変化球で打たせて取ろう。」

森山のサインにうなづき、内角高めのスライダーを投げ込む。

「ボール。」

武井はボールをよく見て見送る。

第2球、今度はチェンジアップを試してみる。

「ストライク!」

武井は悔しがる風もなく次の球を待つ。

そして、第3球目に岡部は有利なカウントを頭にいれた
制球力のあるストレートを投げ込んでみる。

「カーン!」

快音を立てて、打球はセンター前へ飛ぶ。

「ストレートは厳禁だ。」

森山は岡部にたしなめる。

そして、2番平山が打席に立つ。

第1球、スローカーブを投げ込む。

「ボール。」

平山も選球眼よくボール球を見送る。
 
第2球、変化球を投げ込む。

「ボール。」

2ボールとなり、駿足の一塁走者が盗塁のため大きなリードをとる。

第3球、投げ込み練習を続けたチェンジアップでストライクをとる。

1−2から再びチェンジアップを投げ込むと、平山はフルスイングして球を捕らえるが
サードゴロに終わる。

一死一塁でクリーンナップを迎える。

3番岡田が打席に立つと一塁走者は大きくリードをとる。

岡部は牽制しようとするが、森山は投球に集中するよう指示する。

第1球、チェンジアップを投げ込むと岡田は球をよく見て見送る。

第2球、内角高めのスライダーを投げ込むと岡田は豪快にバットを振る。

打球はレフト深くを襲うが沢田が懸命にバックし、捕球する。

二死一塁でスラッガー松本が打席に立つと池島ベンチは動きを見せる。

一塁走者の盗塁を頭に入れて、松本は積極的な打法に入る。

第1球、外角低めのボール球に強引にバットを出す。

一塁走者は懸命に二塁に駆け込むが、ファウルとなり一塁に戻る。

第2球、今度は内角に変化球を投げ込むと打者は豪快にバットを振がファウルとなる。

そして、第3球目のチェンジアップが見事に決まり打者は見送りの三振となる。

無得点に押さえベンチに戻った岡部を吉野監督が拍手で迎える。

「よくやった、1回を無得点に押さえたのは大きい。
 向こうは投手力は問題ないので打線に期待しよう。」

吉野監督は少し余裕の表情を見せて言った。

スタンドではすっかり恒例となった、力強いトランペット演奏が始まり
観衆の目を惹いていた。

そして、吉野監督の予想通り1回裏は池島高のエース津村を襲い
打者一巡の猛攻で大量5点を先取する。

「この試合はいただきだな。」

選手たちはひそかに心の中でつぶやいていたが、この後、
そんな選手たちを蒼白させるような池島打線の猛攻が待っていた。
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64 ベスト8

2012年04月21日 | 日記

1点差を追って最終回の攻撃を迎えた昨年の優勝校高星は、二連覇に燃え
大会に臨んでいただけに、2回戦を突破してベスト8進出に闘志を燃やす。

「エースの力投に応えろ!」

小林監督が選手たちに発破をかける。

5番野山はスイングを繰り返し何とか出塁しようと意を決して打席に立つ。

第1球、岡部はストレートで決めようとするが、森山は首を振る。

「変化球で打たせて取ろう。」

岡部はうなづき、カーブを投げ込む。

「ボール。」

わずかにコースを外れる。

第2球、カウントを取りにいったストレートを野山はフルスイングする。

打球は高く上がるが、わずかに切れる。

第3球、再び変化球を投げ込むと野山はバットを振るがファウルとなる。

2-1と追い込んだバッテリーは変化球で打ち取ろうとするが
野山はくさい球はファウルで免れ、打席で粘る。

岡部はだんだんじれてくる。

「ストレートで勝負だ。」

森山のサインにうなづいて、岡部は渾身の力を込めて投げ込む。

野山は待ってました、とばかりにフルスイングする。

打球はライト方向に一直線に伸びていき、高田の頭上を越えてフェンスを直撃する。

野山は全力疾走で二塁ベースを踏み、三塁へ行こうとするがコーチがとめる。

無死二塁と同点のチャンスを迎え、7番木村が打席に立つ。

「手堅くパントで走者を進めろ。」

監督の指示に、木村は打席でバントの構えをする。

第1球、岡部はカーブで球を外す。

第2球、外角低めにスライダーを投げ込むと
木村はバットでうまく捕らえる。

打球は一塁線に転がり、走者は三塁に達する。

一死三塁と一打同点のチャンスに7番岩井が打席に立つ。

「思い切ってバットを大きく振れ。」

小林監督は岩井に指示する。

「このバットで何としても三塁走者を還すんだ。」

岩井は気迫を漲らせて、打席でバットを構える。

バッテリーは、内野ゴロを打たせて取ろうと変化球で勝負に出る。

しかし、岡部は三塁走者が気になり、力んで投げ込みキレが無くなる。

0-3とボールが続き、ついにフォアボールを許す。

一死一、三塁となり、森山はマスクを外し、マウンドに向かう。

「落ち着くんだ。」

マウンドに駆け寄った選手たちは、岡部に声をかける。

一方、8番捕手の林は、好投の佐藤のためにも
自分のバットで三塁走者を返そうと、強い気持ちで打席に立つ。

第1球、岡部は渾身の力を込めて豪速球を投げ込む。

「ストライク!」

コースいっぱいに決まる。

第2球、変化球でカウントを取ろうとするがコースを外れる。

「球にキレがない‥」

森山は変化球でカウントを取ることに不安を感じはじめる。

「ストレートでカウントを取ろう。」

森山のサインにうなづき、豪速球を投げ込むがわずかにコースを外れる。

1-2から、再びカウントを取りにいつた変化球は大きくはずれ1-3となる。

「ストレートで勝負だ。」

岡部は渾身の豪速球を投げ込むが、わずかにコースをはずれフォアボールとなり
一死満塁となる。

「1点はしかたない。」

吉野監督は岡部に変化球で打たせて取ろうと指示する。

9番佐藤は、球が定まらない岡部にバットを振らずに
押し出しのフォアボールを狙おうとする。

「ストレートで決めろ。」

森山は岡部に積極的に投げるよう指示する。

岡部は渾身の力で豪速球を投げ込み、2ストライクを決める。

追い込まれた佐藤は、第3球目の変化球を豪快に打ち返す。

打球はセンター前へ飛んでいくが、宮本がキャッチしホームへ好返球、
必死で本塁へ駆け込んだ三塁走者を間一髪、アウトにする。

「やったゾ!」

ベンチでは吉野監督が選手たちと拍手喝さいをして
宮本のファインプレーをたたえる。

そして、スタンドでは高々にトランペット演奏が鳴り響き、
甲子園初出場の浪花高ペスト8を祝福した。
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63 奮起

2012年04月16日 | 日記

データ野球で昨年全国制覇を果たした高星高の作戦に屈したエース岡部に代わって
2回表からマウンドに立った伊藤も、回を重ねる毎に相手校のデータ野球に翻弄、
再三ピンチを迎えるが何とか前半5回を無得点で投げ切った。

試合前は予想もしなかった1回で降板し、ライトの守備についていた岡部も
目を惹くばかりの見事なスタンドの応援団に感化され、しかも
徐々に甲子園の雰囲気にも慣れてきて、

「この夏は最後の挑戦なんだ。」

グラウンド整備を傍観している吉野監督に

「この夏はボクにとつては最後の夏なんです。
 後半はボクに投げさせてください。」

岡部は意を決して願い出た。

「よし、わかった。
 実はその言葉を待ってたんだ。」

吉野監督は満面の笑みを浮かべてエースをまじまじと見た。そして、

「佐藤は前半ですでに80球に達している。
 その点からも有利に投げられるはずだ。」

と言って、岡部を励ました。

やがて、グラウンド整備が終わり、後半戦に入る。

6回表、浪花高は7番沢田が打席に立つ。

すっかり場内の観衆を魅了した吹奏楽の応援に後押しされ打席に立った沢田は

「オレが粘って佐藤に球数を投げさせて上位打線につなごう。」

と心に決め、くさい球はファウルにして8球目のストレートを狙い撃ちする。

しかし、打球は平凡なサードフライに終わる。

8番ライトを岡部に譲った新田に代わり2年生の高田が打席に立つ。

そして、高田も打席で粘り7球目の変化球を捕らえるが内野ゴロに終わる。

9番岡部は第3球目のストレートを振り切るがセカンドゴロに終わる。

6回裏、再びマウンドに立った岡部にスタンドからダイナミックに響き渡る
見事なトランペットの演奏が起こる。

「このモチベーションは何だ。」

力強いトランペットの演奏を聞きながら、その時
岡部は異次元の世界にいるような錯覚を覚えていた。

5番野山を打席に迎え、岡部はコントロールされたストレートを決める。

第2球、打つ気をさそう高めのスライダーを投げ込むが
野山は見送り、ボールとなる。

第3球、再び変化球を投げ込むと野山はバットを豪快に振り切るが、空振りとなる。

2-1と追い込んで、岡部はキレのあるスライダーを投げ込む。

「ストライク!」

コースいっぱいに入り、見送りの三振に打ち取る。

「いいゾ、その調子だ。これから下位打線だ。
 強い気持ちで投げ込め。」

森山は変化球にキレが戻った、エースを頼もしそうに見る。

6番木村はフルスイングを繰返して打席に立つ。

第1球、キレのある変化球がコースに決まる。

第2球、豪速球のストレートも見事に決まる。

たちまち2-0と追い込んだ後、第3球のフォーク、第4球のスライダーはコースをはずれ、2-2となる。

「ストレートで勝負だ。」

森山がサインを出すと岡部は首を振り

「チェンジアップでいくぞ。」

自信たっぷりの表情に、森山は大きくうなづいてミットを構える。

第5球、ゆっくりとしたモーションからチェンジアップを投げ込む。

「ストライク!」

審判の手が高々と上がり、打者は見送りの三振に終わる。

そして、7番岩井は第3球目のスライダーにうまくバットを合わせるが
センターフライに終わる。

6回裏を完璧に押さえ、ベンチに戻った岡部に

「1回とは別人のように堂々と投げていた。
 どうやら甲子園の雰囲気にも慣れてきたようだな。」

吉野監督が岡部の肩をポンとたたいて激励した。

そして、7回表は、1番葉山から攻撃が始まる。

葉山は快投を見せたエースに触発されたように1球目から積極的に打ってでる。

そして、第3球目のストレートを豪快に振り切り1,2塁間を抜けるクリーンヒットを放つ。

無死一塁で2番宮本が打席に立つ。

宮本はバントの構えをするが、1,2球目のボール球をよく見て、
第3球目の高めの変化球にうまくバットを合わせてバントを成功させる。

一死二塁で3番市川が打席に立つ。

応援スタンドから一段と力強い「鉄人28号」のトランペット演奏が流れる。

市川はフルスイングを繰り返し、二塁走者を返すぞ、とばかりにマウンドの佐藤を睨む。

第1球、佐藤は気迫のこもったストレートを投げ込むと
市川はその球をジャストミートする。

打球はグングンと外野方向へ伸びて行くが、
レフトが全力疾走して球に追いつき、ジャンプして捕球する。

レフトの超ファインプレーにスタンドは大歓声が起こる。

「絶対に抜けたと思ったが‥」

市川はヘルメットを叩きつけて悔しがる。

二死二塁となり、打席に4番スラッガー大谷が立つ。

「このチャンスは絶対に生かすぞ。」

大谷はバットを力強く握り締めて投球を待つ。

第1球、目を見張る豪速球が決まる。

「まだこんな球が投げられるのか‥」

大谷は少し怯むが、再び強い気持ちで打席に立つ。

第2球、再びストレートを投げ込むが、わずかにコースを外れる。

第3球、高めの変化球ほ見送り2-1の後、
第4球目の変化球をフルスイングするがファウルとなる。

2-2から佐藤は変化球で打たせて取ろうとするが、
大谷はファウルで免れる。

そして、第6球目のストレートを豪快なスイングで打ち返し
センター前に運ぶ。

二塁走者は全力疾走でホームへ滑り込み、セーフ
浪花高に待望の1点が入る。

なおも二死一塁と追加点のチャンスに5番森山が打席に立つ。

「ここでつないで追加点だ。」

森山は何とか塁に出ようと打つ気を漲らせてバットを構える。

そして、第4球目の外角高目の変化球を豪快に振り切る。

打球は外野へ飛ぶが、ライトが捕球し、スリーアウトとなる。

そして、終盤の8回は両校エースが踏ん張り、無得点に終わる。

1点リードで最終回の攻撃を迎えた浪花高のスタンドでは、
打線の奮起を期待してトランペットの演奏が一段と激しく響く。

「オイ、スタンドの応援に応えるためにも一発ほしいな。」

吉野監督が選手たちに発破をかける。

9回裏、先頭打者岡部は佐藤の力投に屈し、空振りの三振に終わる。

1番葉山は力強いスタンドの応援団のためにも一発放ちたいと
ストレート一本に絞り、送球を待つ。

そして、第3球目の内角へのストレートをフルスイングする。

打球はレフト方向へ一直線に伸びていくが、わずかに切れファウルとなる。

そして第4球目の変化球に手を出しサードゴロに終わる。

2番宮本も一発を狙い積極的にバットを振るが、ファウルを連発し、
結局、変化球を空振りしスリーアウトとなる。

そして、昨年の優勝校高星高は最小得点差の1点を追って、
最終回の攻撃に入る。
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62 データ野球

2012年04月12日 | 日記

1回裏、マウンドに立った岡部は軽く8球の投球を終え、
高星高の1番長谷川を打席に迎える。

「まずストレートだ。」

森山がサインを送る。

岡部は大きくうなづくとモーションを起こし、豪速球を投げ込む。

「ストライク!」

審判のコールを聞きながら、森山はよく制球された投球に満足し
次に変化球を要求する。

岡部はうなづき、森山のミット目掛けてスライダーを投げ込む。

「ボール」

わずかにコースを外れる。

「キレが悪いな‥」

森山は不安な気持ちを隠しきれずに返球する。

「次はカーブだ。」

1岡部は、森山のサインにうなづきカーブを投げ込む。

「ボール」

やはりキレがない。

1-2となり、バッテリーはカウントをとりにストレートを投げ込む。

「ストライク!」

タイスコアとなり、森山はフォークを要求する。

岡部はうなづき、ボールの縫い目を確かめるとモーションを起こし
森山の構えるミットにフォークを投げ込む。

「ボール」

森山は今日の岡部の変化球に不安を感じながらも、
いつものように投げ込む回数を重ねていくと、
キレが戻ることに期待して、ストレートで決めようとする。

第6球、球速のあるストレートが決まり、
見送りの三振で1アウトとなる。

2番松井が打席に立つ。

松井はしきりにベンチを振り返る。

「やけにベンチを気にしているな。」

森山は不思議に思い、ベンチに目をやる。

すると、監督の横にいる記録員がサインを送っている。

「なんだ、アイツ、監督のような気でいるぞ。」

森山は別に気に留めることなくミットを構える。

そして、今日の決め球のストレートを要求する。

岡部が第1球を投げ込むと、松井は待ってましたとばかりにフルスイングする。

バットはジャストミートし外野へ飛んでいくが、センターの宮本が懸命にバックし捕球する。

3番野村はスイングを繰返して打席に入るが、今度もベンチの方をしきりに振り返る。

「どういうことだ、やけにベンチを気にしてるぞ。」

考え込む森山を見て、岡部が手招きをする。

森山はマスクを取り、岡部の元へ小走りに近寄る。

「高星の打者はベンチの記録員のサインを重要視している。」

「それで‥」

森山はふとデータ野球のことが頭に浮かぶ。

「1回戦でバックネット裏で熱心に記録を取っている学生が目についたんだが、
 よく考えてみると高星ベンチのあの記録員のようなんだ。」

「そうか‥ アイツやけに眉が濃くて利発な容貌をしている。
 手ごわい相手だな。」

森山は少し怯み

「今日はストレートは走っているが、変化球にキレがない。
 このままだとデータ野球に負けてしまう。思い切って伊藤に代えてもらおうか。」

森山の提案に岡部はうなづく。

「とりあえずこの回は何としても押えるんだ。」

森山は小走りにホームベースに戻り、ポジションにつく。

3番打者への第1球、岡部はフォークを投げ込むが、コースを外れる。

第2球目はスライダーを投げるがやはりコースを外れる。

「ストレートで決めよう。」

森山のサインに岡部は豪速球を投げ込むが、コースを外れる。

「どうしたんだ、アクシデントかな‥」

ベンチでは吉野監督が心配そうにマウンドの岡部を見つめる。

第4球、再びストレートを投げ込むと打者はフルスイングし、打ち返すがセカンドフライに終わる。

1回裏、何とか無得点に押さえてペンチに戻った岡部に吉野監督が

「どこか調子が悪いのか?」

心配そうに尋ねると、森山が例の記録員のことを詳しく話す。

「そうか‥ 甲子園の雰囲気に慣れていない岡部には
 大きなプレッシャーになっているようだな。」

と言って、少し考え込んだ後

「わかった、後はまだデータ記録のない伊藤に任せよう。
 だが、一応ライトの守備について待機、というかたちを取ろう。」

吉野監督の決断で、この後、エース岡部に代わって
2年生の伊藤がマウンドに立つことになる。
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61 1回表

2012年04月10日 | 日記

2回戦は、真夏の太陽が照りつけるグラウンドが乾いた状態の、
暑いコンディションでの対戦となった。

試合前のグラウンド練習に入る前に、選手たちの元へスタンドの応援団から一通のメモが回って来た。

「この中から各自、好きな曲を選べということだ。」

吉野監督が戸惑い気味に告げた。

「わかった、打席に立ったとき演奏してくれるんだ。」

森山は今日から応援合戦に加勢する吹奏楽のメンバーが頭に浮かんだ。

「へえー、いいなア。」

市川が満面の笑みを浮かべて言うと

「うん、モチベーションがあがりそうだな。」

トップバッターの葉山が言うと、一番に好きな曲を選んだ。

すると、次々と選手たちはメモ用紙に書かれた曲選びに没頭し始めた。

「おいおい、もうすぐ相手校の練習が終わるぞ。
 みんなグラウンド練習の準備だ。」

吉野監督が、守備練習の為のバットを手にして言った。

しばらくして吉野監督を先頭に、浪花高の選手たちがグラウンドに散った。

すると観客席からこれまでに聞いたことの無いような
見事な吹奏楽の演奏が始まった。

「浪花高校の応援スタンドから、見事なトランペットの演奏が始まりました。」

テレビ中継のアナウンサーが声高に言って、

「どうやらプロの演奏家が父兄の中におられるようで、
 今日の浪花高校の応援に駆けつけた模様です。」

と付け加えると、

「それは楽しみですね、1回戦では一番地味な応援でしたからね。」

解説者が思わず笑みを浮かべて答えた。

やがて、両校のグラウンド練習が終わり、サイレンと共に2回戦が始まった。

先攻の浪花高校の1番葉山が打席に立つと、
グラウンドに「宇宙戦艦ヤマト」のトランペット演奏が響き渡った。

グラウンドの投打の対戦と並行して、澄み渡ったトランペットの演奏も観客の気を惹いた。

高星高エース佐藤は派手なスタンドの応援団を無視するかのように
ゆっくりとプレートに足をかけ、モーションを起こす。

そして、1番葉山にコントロールされた豪速球を投げ込む。

「ストライク!」

見事に内角低めに決まる。

葉山は打席を外し、スイングを繰返して再び打席に立つ。

第2球、今度は変化球でカウントを取りに来るが、わずかに外れる。

そして、第3球の外角へのストレートを葉山はフルスイングするが
球速が勝り、内野フライに終わる。

2番宮本が打席に立つと、勇ましい曲が始まる。

マウンドの佐藤は気にかけることなく、大きなモーションを起こし、
第1球を堂々と投げこむ。

「ストライク!」

力強い審判のコールがグラウンドに響く。

第2球、今度は変化球でコースいっぱいに決める。

たちまちツーストライクと追い込まれた宮本は、スタンドを見て

「オレには最高に力強い後押しがあるんだ。」

心で叫んで、バットを構えマウンドの佐藤を睨みつける。

そして、第3球のボール球を見送った後、
第4球のスライダーにうまくバットを合わせる

「カーン!」

打球はグングンライト方向へ飛んで行くが、わずかに外れてファウルとなる。

スタンドからため息が漏れると、再びトランペットの力強い演奏が始まり
宮本は奮い立つ。

そして、第5球目のストレートを豪快にスイングするが、空振りとなる。

「チクショー!」

思わず声をあげ、ベンチに引き上げる。

3番市川が打席に立つと、再びアナウンスを吹き消すような
力強いトランペットの演奏が始まる。

今度もマウンドの佐藤は無視して、モーションを起こす。

第1球、打つ気を振り払うようなスローボールが飛んで来る。

「何だ、こんな球!」

と言いながらも、豪快にバットを振る。

しかし、バットは空を切り空振りとなる。

「しまつた!」

市川は心の中でつぶやくと、額の汗を拭った後、バットを構える。

第2球、今度は目を見張るような豪速球が飛んでくる。

市川は呆然と見送るが、コースいつぱいに入り2−0となる。

マウンドの佐藤はかすかに笑みを浮かべて、モーションを起こす。

そして打者を翻弄するように、見事なチェンジアップで3球三振に打ち取る。

見事な投球で3人の打者を打ち取った佐藤は、マウンドを下り
拍手で迎えるベンチへゆっくりと戻って行く。

そして、今度は浪花高エース岡部が猛暑のグラウンドへ駆け足で上って行った。
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60 応援合戦

2012年04月06日 | 日記

初出場の浪花高が1回戦突破し、歓喜に沸くスタンドを
テレビで冷ややかに見つめる一人の若者がいた。

「全国大会にしては、ヒンソな応援団だな。」

誠の傍でテレビ観戦していた兄の悟が言った。

「無理ないよ、初出場なんだから‥」

必死に否定する誠に

「甲子園というところは試合も大切だが、応援スタンドの盛り上がりも
 演出の一つなんだぞ。」

将来、プロのジャズピアニストを目指す悟の言葉には説得力があった。

「試合経過では、いいところまで行ける気もするが、
 応援に太鼓だけ、とはいただけないなあ。」

見おろすような兄の口ぶりに

「いいじゃないか、太鼓だけでもみんな必死で応援してるんだから‥」

誠は珍しく兄に食ってかかった。

「何だったらオレの仲間たちを招集してもいいゾ。」

「えっ、ホント‥」

信じられない表情の誠に

「オレは野球にはあまり興味はないが、高校野球だけは別だ。
 特に地元の高校には頂点を目指してほしいと思っている。」

悟は真剣な目をして言った。

「そんなんだ、高校野球には言い知れない魅力があるんだ。」

目を輝かす誠に

「じゃ、トランペットの仲間を5,6人集めるから森山クンに伝えておけよ。」

「わかつた、兄貴、ありがとう。」

その夜、誠は森山に勝利の祝福の電話をかけ、
兄の申し出を伝えた。

「そいつはありがたいなあ。
 実はオレも試合中、グラウンドでパッとしない応援団が気になってたんだ。」

「じゃ、早速、明日応援練習に参加してもらうよう、兄貴に頼んでおくよ。」

「ありがとう、お礼にボクも一発打てるよう頑張るよ。」

森山はうれしそうに答えた。

「ホント、約束だよ。」

誠はうれしそうに言うと

「2回戦は甲子園に応援に行くよ。」

「うん。じゃ、お兄さんによろしく。」

森山は思わぬ誠からのプレゼントに興奮気味に電話を切る。

そして、翌日から華やかなトランペットが応援団に加わり、
地味だつた応援団が、思わず目を見張るような華やかな応援団に変身し
野球部員たちの気持ちを高揚させていつた。

2回戦は前大会準優勝の高星高校と対戦することになつた。

「エースの益田は長身から投げ降ろすスライダーが武器だ。
 球をよく見てバットを合わすんだ。」

吉野監督は徹底的にバッティング練習をさせた。

岡部と伊藤は積極的にバッティング投手を努めた。

数日後、朝からうだるような暑い日の第2試合に
浪花高校はベスト8をかけて、高星高校と対戦する。

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