二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「犬と網タイツ」 ~森山大道の現在

2016年01月05日 | 写真集、画集など
<2014.08.27>



現在のところ、森山さんの最新写真集である。
アナウンスはされていないが、フィルムではなく、デジタルカメラで撮影されているのだろう。
・モノクロ
・タテ位置(すべて)
・ローキー(写真がどれも黒の世界に沈んでいる)
・欄外に撮影の日付がある
・撮影順にならべられている

本の体裁は白い紙に文字が印刷されているだけ。非常に素っ気ないものである。
いつか雑誌「日本カメラ」で紹介されたとき、森山さんのカメラは、ニコンのコンパクトデジタルカメラ、COOLPIX S9500であった。
http://blog.goo.ne.jp/nikonhp/e/c94608786e14343642838b80ab7d6a2e

こういう写真集がいったいどのくらい売れるのか心配になる。一般のアマチュア写真家が好んで買うような、ある種の“嗜好品”とは、ほど遠い世界に屹立している。
現実は森山さんのまなざしでバラバラに解体されていて、これらを読み解こうとする者のたくらみを無化してしまうように思える。
むろんそれが森山大道の写真であり、衝撃であった。そういう意味では森山節は健在であるというべきだろう。


<2014.9.09>


<2014.09.16>

本書で森山さんは、めずらしく、やや長めのあとがきを書いている。
その一節を引用させていただこう。

《ほぼ半世紀あまりに渡って、さまざまな現実世界を写(コピー)しつづけることで、ぼくはぼくにとっての仮想都市(シャングリラ)を、自らの体質と欲望と想像にそって、造ろうとしてきたのではないか。そしてその都市とは、決して佳い匂いの漂う美しき夢の都市などではなく、雑然と人々と事物とが交差し氾濫する俗世界である。つまり、そんな都市を見たくて、造りたくて、ぼくは紆余曲折の凸凹道をカメラと共に歩きつづけてきたのだろう。
それは、どこかジグソーパズルのゲームを思わせるが、こと写真の場合、パズルピースがキリも限りも、決して全体像が完結することなどありえないので、ぼくは日々写し重ねつづけることで、仮想する未完都市へ向けて、一枚でも多くの断片(ピース)を嵌めつづけていくよりほかにはないわけだ。》


わたしの場合、写真集というのは、「視る」という行為より「読む」という行為に近い。
したがって、これはと思った写真集ならば、何度でも読み返し、何日間もつきあって、ようやく納得できるということになる。
写真集を読むとは、わたしには「異例の愉しみ」に属するといいかえてもよい。

「犬と網タイツ」から、森山ファンの多くは、名作「光と影」を連想するだろう。あの作品では、光を使って影を描いた。そこでは時間は風となる。
風が砂を運んでくる。
吹き溜まりには、捨てられたもの、まだ現実世界に留まってはいるが、断片化して本来の意味をなさなくなったものが溜まっている。
それをふたたび風が運び、違った画像をつくりあげる。森山さんは、そういう風を味方にしつつ、都市をほっつき歩いている。
実業の世界に住む人からは、世の中からドロップアウトしたような、一円のカネにもならないような、不可解な行為・・・と見えるだろう。


<2014.12.12>


<2015,02.20>


<2015.03.18>


森山大道の写真は、都市写真である。
しかし、意味を問うまえに、彼は立ち去っていく。ほぼ一瞬の、擦過するまなざし。
「犬と網タイツ」には視るものが感情移入出来るような写真はない。ものも人間も、モノクロの世界に凍りついている。

わたしは森山さんの写真集で、よく思い出すのは、
「仲治への旅」
「サン・ルゥへの手紙」
「NORTHERN」
あたりであるが、雑誌等に発表された初期作品群も好きである。
それらの写真集は、心のいちばん奥深くに沁みこんでいる・・・と自分ではかんがえている。
それらの写真集では、森山さんの「歌」が聞こえてくるからである。抒情性といってもいいかも知れないが、甘っとろい感傷的なものではなく、ブラックな抒情性というものおかしいが、非常な辛口であるとはいえるだろう。荒木経惟さんは写真の中で泣きを見せるが、森山さんが泣いている写真は、わたしは視たことがない。

森山大道は、いまや世界的な写真家である。あとがきにも英訳が添付されている。
1938年生まれだから、現在77歳になるのかな(?_?)
健脚でないと、森山さんのような写真は撮影できないが、まだまだ現役バリバリであるところもすごい! の一語。

彼の撮影に同行させてもらうとしても、わたしはたぶん、一日でへばってしまうだろう(^^;)
最後に付け加えておくと、犬も網タイツも、この写真集には収録されていない(笑)。
ずいぶん探し回ったけれど、なぜ犬と網タイツなんだろう、該当するショットが見あたらない。
う~ん、過去へのちょっとした挨拶・・・なのかも知れない♪

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