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「善き人のためのソナタ」 DAS LEBEN DER ANDEREN

とにかくお見事というか、本当に完成度が高く見応え充分で、観終わった後すぐ誰かに勧めたくなる、そんな映画だった。

舞台は1984年、壁崩壊前の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)に所属し、国家に忠誠を誓う真面目で優秀で、だけど生き方は不器用な男ヴィースラー大尉。
そんな彼が、反体制の動きに加担している疑いのある劇作家ドライマンとその同棲相手の舞台女優クリスタに対して証拠を見つけるべく日々監視しているうちに、やがて彼の心の中に大きな変化が沸き起こり…というのが大筋なんだけど、そこにはとんでもないサスペンスフルな展開が用意されていて、特に後半の畳み掛けるような緊張感溢れるストーリー展開には、ほとほと感心させられた。



そして頭脳明晰ではあるけれど、人権を無視した尋問という行為に対して何ら自責の念も疑問すら持たず、結婚もせず、多分孤独な人生を送っていたそんな彼であったけれど、「盗聴」することによってはじめて開かれた窓から入ってきたものは、それまで出会うことのなかった本であり、音楽であり、自由闊達な議論であり、人間らしく振舞える生き方。

そうした「監視」を続けることによって大きく変わっていくヴィースラー。
一人暮らしのアパートで娼婦を時を過ごしたあと、まだしばらくそばにいて欲しいと懇願するヴィースラー。
シュタージの悪口を話す子供に親の名前を聞こうとしつつ、思い直してボールの名前を訊くヴィースラー。
最初の家宅捜査でタイプライターが見つからなかったことを知って小さくガッツポーズするヴィースラー。




そんな中、そうした彼なりの気持ちが徒(あだ)となって起こってしまう悲しい出来事。
とにかく映画「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」でのアレクサンダー・ヘルト演じる尋問官モーアをも想起させるヴィースラーに扮するウルリッヒ・ミューエの押さえに抑えた素晴しい演技に激しく心揺さぶられてしまった。



そして彼のみならず主役のあとの2人、さらにはサポートする他の共演者の演技もまた見事で、社会主義国家の闇の部分を絶妙の間合いで丁寧に描き、こうした演技を引き出した弱冠33歳の新鋭フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督のこれが初監督だとはとても思えない類まれなる手腕に拍手!

中でも心温かくさせてくれるエンディングには、心の中で一筋の涙が流れ落ちた、そんな気分でありました。

思えば、ちょうどこの映画の時代に二度ばかしベルリンに行ったことがあって、ベルリンの地下鉄『Uバーン』に乗って東ドイツの駅を通り過ぎるたびに、何とも言いようのない緊張感が漂ってきていたけれど、西ベルリンでノホホンとしていたものには窺い知れないことが『東』では行われていたことを実感。

ともあれ、「ドイツ映画史上、最も素晴しい作品である」とヴェルナー・ヘルツォークが語るのも納得の今年公開の映画の中では最も観て欲しい映画で、強く強くオススメであります。





今日の1曲 “ Die Sonate vom Guten Menschen ”: Gabriel Yared / Stéphane Moucha

「この曲を本気で聴いた者は悪人になれない…」
劇中、シュタージによってあらゆる創作活動を奪われた老演出家イェルスカがドライマンに誕生日祝いとして贈るのが、この邦題の由来ともなっている『善き人のためのソナタ』の楽譜。
そしてドライマンが奏でるこの曲を盗聴器越しにヴィスラーが聴くシーンは、やはり感動的でした。
台本段階から参加しこの美しいソナタを提供したのはガブリエル・ヤレド。まさに小品といった趣ですが、心に染み渡ります。
ちなみにプラハ交響楽団の演奏によるサントラはガブリエル・ヤレドと監督が選んだソナタの名曲3曲が日本盤のみボーナストラックとして収録されちょります。
ソナタを聴くなら公式ホームページへ。
アルバム全体に試聴はコチラから
コメント ( 5 ) | Trackback ( 25 )
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コメント
 
 
 
こんにちは♪ (ミチ)
2007-04-20 10:07:24
この作品が地元で公開されて本当に良かった!
私も今イチオシの作品です。
今年のベストテン入りも確定しています。
芸術が人の心に深く入り込むというのがいいですよね。
持ち出したブレヒトの詩集もナイスアイテムでした。
あのような自由なやわらかい感じの詩はヴィースラーには驚きだったのでしょう。
素晴らしいラストに拍手です。

話は変わりますが、今日は食事会で「ネネ・グース」に行ってまいります〜(笑)
 
 
 
◇ミチさん (nikidasu)
2007-04-23 00:33:47
一度、ここで終わりかなと思っていたシーンの後、敢えて続けなくてもいいのではと思った矢先の、何とも心温かくさせてくれるラストシーンにすっかりやられてしまいました。
とにかく、より多くの人に観てもらいたい作品です。
 
 
 
Unknown (和海)
2010-11-20 04:47:18
初めまして。フランス、ボルドーに住んでいます。昨夜11月18日Arteで善きひとのためのソナタを見ました。仏語の題名はla vie des autres (直訳すると、その他の人々の生活です)この映画について、全く情報のない白紙の状態で見ました。全く期待せず、暇つぶしの感覚です。一言、動感しました。静かな動感です。翌日、今朝、インターネットで仏語の題名で検索し、貴方のブログを見つけました。同感です。
 
 
 
◇和海さんへ (nikidasu)
2010-11-20 17:39:41
Bonsoir はじめまして、そしてようこそです。
ちなみに Arte で映画を放映する時は BBC のように字幕付きで放映しているのでしょうか?
ちょっと気になるところです。
 
 
 
善きひとのためのソナタ (和海)
2011-01-19 05:24:14
今晩は。Arteではフランス語に吹き替えになってました。主人(仏人)も、この映画がたいへん気に入り、昨年ブルレを購入しました。今晩、娘と3人で見ています。お断り無しに、失礼とは思ったのですが、私のtwitterのカウントで貴方のブログを紹介させていただきました。善い映画、そして善いブログを発見することができました。
 
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