Aちゃんが宿題を広げていたという話を書きました。
基本的に教室で学校の宿題をすることはないのですが、この日はお母さんに言われてか自分で判断してか、手提げに宿題一式を入れてきたようで、普段なら教室に着くなり、
「今日はこんな工作がしたい」とか、「絵が描きたいから画用紙ちょうだい」とか、「ブロックしてもいい?」と矢継ぎ早にたずねて、こちらが答える前に、あれやこれや出してくるところ、はぁーとため息をつきながら漢字の書き取りを始めていました。
「Aちゃん、宿題しているの?大変ね。それにしてもえらいわね。BちゃんもCちゃんもブロックで遊んでいるのに、ひとりだけがんばって宿題をして。
さすがに2年生ね。やらなきゃいけないことを先にすませておくのね」
そう声をかけると、あからさまに褒められてうれしくてたまらないという顔をしたかと思うと、漢字を一行書くごとに、はぁーとオーバーなため息をついて、大変さをアピールしていました。
そこで、はぁーとため息をつくたびに、「本当に面倒な宿題なのに、がんばっているのね。」
とエールを送ると、その都度、「先生、わたし、えらい?」とたずねてきて、
「うん、えらいと思うよ。漢字の宿題は間違えないように一文字一文字注意して書かなくちゃならないし、手が疲れてくるだろうしね。Aちゃんは自分の責任をきちんとはたす子なのね」と返し、Aちゃんが照れくさそうな満面の笑みを浮かべるということを何度も繰り返していました。
そんな時間の流れのなかで、先の記事で書いたAちゃんの「Cちゃんにそんないじわるな言い方をしないでよ」の言葉があったのです。
「Aちゃん、ありがとう。Cちゃんの味方をしてくれて。」とお礼を言ってから、AちゃんとBちゃんのふたりに、
Cちゃんはね、おしゃべりするとき、どんなことを話したらいいのか思いつくのがちょっと苦手なのよ。だから、つい、前に聞いたことをもう一回聞いたりしちゃうのよ。
今、ひとつひとつ、こんなおしゃべりをしたら楽しいなって言葉を覚えているところだから、やさしく教えてあげてね」と伝えました。
それから、Aちゃんに、「Bちゃんはいじわるな子じゃないけど、それ前にも聞いたよって思ったから、あんなふうに言ったのね。
Aちゃんは、前にも聞いたよって思っても、そう言われたらCちゃんが悲しくなるかもしれないって思って、ちょっと考えて、いやなことを言わないように気をつけているのね。
そういえば、Aちゃんがお友だちにいじわるな言い方をするの聞いたことがないね。
いとこの子たちの話をするときも、大好きって話だけよね。
のどのところまで言葉が出かかっているときも、おともだちがいやと思うかもって考えて我慢しているの?」とたずねると、Aちゃんは得意そうにこっくりしました。
それから、もうだいぶがんばったから……という態度で、「もう、宿題はこれくらいにしておこうかな」とつぶやきました。
見ると、漢字を6行ほど書いただけで、宿題の半分も終わっていない様子。
Aちゃん、勉強に対する強い拒絶心がある上、数秒おきに気が散る特性があるのです。
家庭での勉強の世話をする親御さんの大変さがうかがえます。
「Aちゃん、よくがんばったよね。他の子が遊んでいるから、遊びたくなるのを我慢して宿題をするのは、お家でひとりで宿題をするより、いっぱい我慢が必要だったでしょ。
こんなにがんばったし、ここまでがんばってやめちゃったらもったいないんじゃない?」と言うと、「そうかな?」と言いながら、続きを仕上げていました。
そうして宿題をしながら、「先生、今日、教室で一番えらい人って誰?一番やさしいのは誰?一番いいこは誰?」と何度も聞いていました。
「えらいとかやさしいとかいいこなのは、一番とか二番とか競争するものじゃないけど、確かに、今日、Aちゃんはえらかったね。すごくやさしいいいこだから先生はびっくりした」と答えると、
本当にうれしそうににこにこして、しばらくすると、また、
「先生、今日、教室で一番えらい人って誰?一番やさしいのは誰?一番いいこは誰?」と聞き、毎回、同じように答えていると、そのたびに満足そうな笑みを浮かべていました。
そして、途中から、いつもの過激な言葉を使う癖で、
「今日、一番、最悪な悪い子はわたしだわ。わたしなんか死んじゃえばいいのよ。一番悪いのはわたしに決まっているわ」と言っては、わたしから、
「そんなことないよ。Aちゃんはとえもえらい子よ。すごくやさしいいいこだから先生はびっくりした」というフォローが返ってくるのを期待している様子でした。
次回に続きます。