魔法使いの店で、
煌びやかに並ぶ王女への献上の品々。
その中で一番端にあるアクセサリー。
おそらくはアルバートにとって
王女への献上した品々の中で。
1番、昔の作品になるのだろう。
その品を。
ハーデスは前に、見た事があった。
あら?貴方様もお分かりになりますのね。この品の素晴らしさを。
満面の笑みで嬉しそうに話す王妃の胸元に光り輝くペンダント。
エルフ(長命種)の国の特使として。
大変しちめんどくさい事ではあるのだが、私がエルフの国と、人の国へと。
至極平和的に自由に渡れる特権を得るための仕事のひとつである。
国王への挨拶と、祝賀パーティーの際。
王妃の謁見の機会があった。
装飾品に特に興味がなかったハーデスが気になったのは、王妃のペンダントの中に込められていた魔法だった。
これは、制作した者以外、
人には見抜くことは困難だろう。
魔法に長けた長命種の私だからこそ、微かに感じ取れる。
それほどに薄く、小さな術式。
だが、その小ささに見合わぬ
堅固な護りと守護の魔法。
これは、いわゆる”お守り”なんてレベルじゃない。
これでは、王妃の近くに悪意を持って近づける者など皆無であろう。
てっきり、王妃はその魔法の効力を”素晴らしい”と評しているのだと解釈していたが。
この品はね、故郷である国に居た、私の専属の”魔法使い”が作った物なのですよ。
ほう。それはそれは。
得心いたしました。ならばこそのこの堅固な守護の術式。アクセサリーとしての実用性を兼ね備えていながら、ここまでの守護を発揮できる物はなかなか、ありますまい。
守護の、術式…?
王妃は寝耳に水といった様子で、とても驚いた顔をする。
おや、ご存知ではありませんでしたか?
ええ…そんなことは一言も。
大変珍しい、特殊な魔法、術式でありますよ。悪意を持った者は貴女様には近づけず。困った時にはその助けになる者が自然と呼び寄せられる。
まあ、そのような魔法が…?
アルバート…。
王妃は少し照れたように、嬉しさを滲ませながら。周りに聞こえぬよう、小声で名前を呟いた。
その王妃の表情で、ハーデスはようやく悟る。王妃は魔法の効力など、微塵も理解していなかったのだ。と。
どうしたんだい?
珍しくぼーっと、魔法使いの店に並べた品々を見ているハーデスに、アルバートが声をかけた。
ハーデスは、そのまま、王妃が身につけていたペンダントの”レプリカ”を見続けながら。
以前に、王妃が存命の頃に謁見した機会があってな。アレを。身につけていたんだよ。
私はその頃装飾には興味がなかったんだが、妙に気になってな。
原因は、アレに込められた魔法だよ。
ハーデスはアルバートの方を見る。
お前が、どれだけ。
“彼女”を護りたかったのか。
それをふと。思い出していたんだ。
アルバートは少し驚いた表情をして。
きみには”見えて”いるのかい?
ふん。忘れたのか?私は長命種だぞ。
お前ら人にとっては、昔は神と混同される程の存在だったんだ。
その程度の術式、いくら小さく淡く、隠していようと。見えない訳がないだろう?
ふん。と笑うハーデス。
懐かしげに、二人はあのペンダントを眺めながら。
そうか…巧妙に隠したつもりだったけれどね。
王妃は、嬉しそうだったぞ。
まさか、きみは見えた術式を彼女に話したのかい?そうか…それは…酷いな…
アルバートを見ると、いつもの穏やかな表情ではなく、心なしか照れているのか顔が赤くなっていた。
お前と知り合う前だったんだ。
仕方ないだろう?
あの時は若さもあってね。自分で言うのもおこがましいが、彼女を守る為の物としては傑作だと思ったものさ。
されど、どれほど堅固な守護の魔法も。
この程度のものだったかと後から思い知らされたものだけれどね。
大切な人は、魔法だけでは、護れないものだね。
そうだな…。
寂しげなアルバートの言葉に同意しながらも。
ハーデスは、
だが。
あの時の王妃の嬉しそうな微笑みが、私をこの店へと導いたのだ。
今ならば、王妃の、ペンダントに向けたあの眼差しの意味が。私にも少し…わかる気がするよ。
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余談
魔法使いはめんどくさくてあの棚にあるものは全てレプリカの非売品だとハーデスに説明していたが、実は最初のペンダントだけは王女に返されてしまっていた(こちらの物語ではポジティブな意味になるが)ひとつしかない本物で。
それを、恥ずかしくて言い出せなかったというオチだったらしい笑
ハーデスはそれも”見えて”わかっていたのか、どうなのか。
イメージで見ているので、前の私が書いた物語を読むと、
王国に送った方がレプリカだとも書いているし。
店に飾ってある方がレプリカだったのか。本物だったのか。
わりと曖昧wwていうか魔法使いにとっては売り物ではなく、店に飾って、国へと捧げる品だったから、あんまり気にしてなかったのかな。
それとも、今回はハーデスの視点から物語を見ているから、彼の中ではレプリカと説明されてそう言う印象だったって感じなのかな。