総選挙結果を考える-再び小泉政権批判-

衆議院総選挙投票日から日付が変わって午前2時現在、
選挙結果の大勢が明らかとなった。自民党は議席を大きく伸ばし、
単独で絶対安定多数の確保が確実となった。事前調査からある程度
予測できた結果とはいえ、改めて結果を知らされると、暗い気分になる。
これからの4年間、大多数の国民の暮らしが良い方向に進むとは思えない。
1年前のアメリカ大統領選の結果を知った時も、ちょうど同じような
落胆を味わったことを思い出す。

果たして小泉政権がこのまま続投して、私たちにとって何か良いことが
あるのだろうか。まず年金はどうだろう。自民公明の年金制度案は、実際は
「年金制度改革」とはほど遠い、旧来型の制度維持である。マニフェストに
よれば、両党とも国民年金の財源として、従来型の保険料と税(国庫)の混在を
続けるつもりのようだ。しかし大量の保険料滞納者による年金財政破綻の
危機を考えると、国民年金の財源は、野党各党(民主、共産、社民)が提案
していたように、すべて税収によってまかなうようにすべきであった。
その上で低所得者(特に若者)に対する税負担を抑えるため、民主党案のような
年金消費税でなく、法人税課税等、累進的な課税システムを取り入れるべきで
あった。

年金の「保険」としての機能は、少子高齢化によって、もはや立ちゆかない。
そもそも「保険」は各人がお金を出し合って、リスクを集団的に管理することで
なりたつものだ(年金の場合は「老後の生活のリスク」)。そこにはリスクに
対するコンセンサスと、保険に対する信頼がなければならない。しかし保険料を
払うことに負担を感じこそすれ、制度への信頼は持てないという現在の低所得
若年層にとっては、保険料を払うことそれ自体が、新たな生活上のリスクと
なってしまっている。

よって今のような「自分の将来にとっての保険」なのか、それとも
(若者から高齢者への)「所得再配分」なのか、位置づけがはっきりしない
年金のあり方を廃すことにより、これからの年金の機能は、一律税収を財源と
する、高齢者への「所得再配分」であると明確にすべきである。(いわば
高齢者に対する「公的扶助」の位置づけ。よって高齢者への給付は、所得に
対して逆進的な形態を取るべきであり、同時に上述したように、納税は累進的な
形態であるべき)。このように年金の機能を明確にすることで初めて「年金制度
改革」と言えるのに、保険と税の混合を維持しようとする自民公明のアイデアは、
位置づけの曖昧な旧来の年金制度を温存するだけであり、若者の不公平感や制度
そのものの見通しの悪さは全く改善されない、不毛な政策である。

次に外交政策はどうだろうか。小泉政権が誕生してから、靖国参拝と教科書問題
をはじめ、東アジア諸国との関係は悪化の一途を辿った。小泉首相が本当に自分
の個人的信念だけで靖国神社に参拝しているのであれば、それは一国の代表と
して真に愚かしいことだ。いらぬ火種をどうして隣国との間に巻き起こすのか。
そこにどのような「国益」(私はこの言葉も好まないのだが)を見いだす
ことができるのだろう。私には全く理解できない。

小泉首相の取り巻きにも、安倍晋三を初めとする対東アジア強行派が多く、
小泉政権が続く限り、東アジア国際関係は常に緊張の下に置かれるだろう。
金大中政権以降、韓国が中国や北朝鮮に対して融和戦略へ大きく舵を切り、
また世界的にも、米国の経済的・軍事的・イデオロギー的な単独覇権主義が
限界を見せ(イラク政策が顕著である)、覇権の多極化へと向かう現状がある。
このまま対米追随を続け、東アジア外交をなおざりにする小泉政権のやり方は、
日本の将来にとっても、決して賢いものとはいえない。

また自民、民主、公明各党によって、近い将来、間違いなく
憲法改正論議が盛んになるであろう。憲法9条を改正し、国際的な
非難を浴びる米国の軍事戦略にますます追随していくことの、いったい
何が「国際貢献」だろうか。さらにより本質的な問題として、戦後9条の
おかげで歯止めをきかせてきた、日本の軍事大国化(現在の軍事的状況も
決して認められるものではないが、これでもし憲法9条がなかったら、
と思うとぞっとする)が、ますます現実味を帯びることになるであろう。

経済政策はどうか。小泉政権は、従来の保守主義的な利益誘導型、
バラマキ型の「護送船団政治」から離れ、民主党とも軌を一にした、
新自由主義的な政策転換を行おうとしている。確かにそれは「構造改革」の
名にふさわしいものであるかもしれない。しかしその中身を見れば、それは
規制緩和による大企業の活動促進であり、私たち一般庶民にとっては、
全く好ましい改革ではない。なるほど経済活動それ自体は、確かに効率的な
ものになるかもしれない。だがそれと引きかえに、私たち庶民に押しつけられる
のは、職場における果てしない競争と、労働強化、さらに広がり続ける所得格差
である。弱肉強食のアメリカ式新自由主義社会が、もうすぐそこに見えている
のだ。

私たちは戦後、「もう充分」というところまで経済成長を達成したのではない
だろうか。「幸福は経済成長によってのみもたらされる」といった、明治以来の
後発国的な考えは、もう捨て去る段階に来ているのではないだろうか。
俗に言う「トリクル・ダウン方式」(パイ全体を拡大することで、最下層の
人々のパイも増大する)の考え方は、パイが充分に拡大された現在の状況では、
すでに「最大多数の最大幸福」の達成にとって非効率的なものとなっている。
従来の保守主義的自民党政治が行き詰まった今こそ、パイの拡大よりも
その「配分」に政策の思考を転換する良い機会であったのに、小泉政権は
それと全く逆の方向に進もうとしている。

また今回の自民党選挙運動の目玉である「郵政民営化」も、この文脈で
考えるべきであろう。そもそも「郵便事業は先細りなので民営化すべき」
という議論自体がおかしい。採算が取れなくなろうがなるまいが、
ネット環境の整わない人々や、地方の人々にとっての郵便事業の必要性が、
この先も減少するとは思えない。地方における郵便サービスの必要性については、
採算うんぬんの原理とは別の次元で考えるべきである。郵便事業は、非効率的な
事業は切り捨てるといった民間宅配業者の論理、すなわち「市場の論理」を
通じては、決して充足できない種のサービスである。

最後により重要な問題として、郵政公社が保有する350兆円もの資金流出の
結果が懸念される。世界的な金融市場の規制緩和は、俗に言う「グローバル・
カジノ」と呼ばれる問題を生み出している。地球規模の経済的リスクの高まり
(顕著な例は1980、90年代の南米およびアジア諸国における経済危機など)、
企業間および国家間の格差拡大、大企業による途上国の経済的搾取などは、
こうした金融市場の自由化による、膨大な資本の蓄積と移動の自由をその
原動力としており、これらはまさに、グローバリゼーションの影の部分を
縁取っている。こうした弊害に対し、現在では資本の海外流出に対する規制や、
資本移動への課税といった対策が必要であるのに、郵政民営化による
保有資産開放はそれと全く逆の方向、すなわち国際金融市場をますます
肥大化させてしまうことになるだろう。

失望に任せて、自民党の政策的欠点について長々と書いてしまった。
しかしここまで書いておいて何だが、本当に大事なことは「それでも
どうして今回、多くの人々が自民党に投票したのか」という問題だろう。
政治は、しばしば政策とは異なる次元でコトが進むものだ。これはむしろ、
日本人の政治意識の性格の問題かもしれない。この点については、今後
より突き詰めて考えていきたい。

総じて今回の選挙では、小泉首相のたくみなパフォーマンスに対し、もともと
首相と同じ方向を向いている民主党が埋没し、自民党の増長を許したといえよう。
民主党の限界が明らかになった今、民主党内で内部分裂が起こり、右派が
自民党と、左派が社民党と合併することも予想される。そうなれば現在の
「右向け右の2大政党制」ではなく、政党間の政策的な相違がより明らかに
なるだろう。ともあれこれからの4年間、私たちの生活はより不安定化
(或いはより停滞)することが予想される。願わくばそれをきっかけに、
国民がより望ましい政治のあり方に思いを致すことに期待したい。
しかしその間犠牲を、そして「痛み」を強いられる多くの人々、また自分
自身や周りの人々の生活に思いを馳せると、ますます気分が暗くなってくる
のである。
コメント ( 3 ) | Trackback ( 2 )
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コメント
 
 
 
選挙結果 (東北のこやなぎ)
2005-09-12 04:08:16
お邪魔します。「選挙」つながりでトラバさせていただきました。

 
 
 
Unknown (さくらこ)
2005-09-13 13:36:21
はんちゃんさすがわかりやすくよませていただいたよ>_<

こういうのって勉強してないとうまく言えんもんね。。。。

ブログで紹介させてもらいます>_<
 
 
 
おおう (nicholasnickleby)
2005-09-13 23:18:11
コメントサンキュー。

明日院試だってのに、選挙結果を知ったら

テンション高くなって、がーっと書いちゃったよ(ーー;)。

長くなっちゃったのに、読んでくれてありがとうよ。



 
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