すきま医学(niche medicine)

日常診療で気付く、成書では解決されない、医学・医療のニッチな疑問点をエビデンスを基に考察します

体温と「免疫力」の関係 「免疫力」の測定法とは? 現代人は低体温?                    

2017-08-08 21:03:09 | 臨床医学

 「体温が1度下がると免疫力は30~40%低下し、1度上がると5~6倍になる」と言われています。引用回数の多さには目を見張るばかりです。これに関連して新たなビジネスも誕生しています。低体温が感染症のみならず、成人病やアレルギー、悪性腫瘍、認知症等の原因であり、平熱を1度上げるだけでそのリスクを回避できるとも言われています。

 

 約60年前のデータですが、東京都内の10~50歳代の健康とみなされる男女3,000人余りを対象に、午前、午後、また四季を通じて、水銀体温計による座位での30分間の「腋窩検温」を行った結果、日本人の平均体温は36.89度とされました[1]。

 

 一般向けには体温計の製造・販売会社として有名なテルモ株式会社が、0~100歳の住民1,645人を対象に2012年から1年間にわたり行った共同研究によると、予測式電子体温計で測定した平均腋窩温は36.2~36.3度となっています[2]。確かに現代人の体温は低下ぎみです。しかし、この共同研究では「起床・就寝時」に布団の中で測定しており、日中はもっと上昇している可能性があります。

 

 「平熱は35度台です」と主張する患者さんに正しい方法で測定してもらうと36度台であった、というのは日常的によく経験されることです。「腋窩温が36度未満」の時に一般的に「低体温」と呼んでいるそうです(医学的には直腸温等の深部温が36度未満の状態を指します。腋窩温では35度未満に相当します)

 

 体温は身体内部の温度を知るために測っています。本当は「直腸検温」の方が望ましいのですが、日本では体表の温度である「腋窩温」で代用しています。従って、「内部温」を反映できるような緊密な閉鎖空間の形成に注意・工夫する必要があります。「現代人は低体温だ」という前に、今一度測定方法にも関心を寄せる必要があるのではないでしょうか。

 

 手術中に正常体温に保つ群(36.6±0.5度)と低体温の群(34.7±0.6度)とに割り付けて、信頼度の高い深部温である「鼓膜温」を用いて、術創部の感染や術後の回復の早さなどを調べると、低体温群の方が有意に創部の感染が多く、入院期間も長いことが判りました[3]。しかしこの低体温群は、「腋窩温」に換算すると平均で34.2度ということになり、通常ではまず観察されない温度です。白血球の重要な免疫能である「遊走・貪食能」も低体温時に低下するとされていますが、29とか33度といった高度から中等度低体温下での実験結果です[4][5][6]

 

 「体温が1度下がる」とは日本人の平均体温である36.89度または標準体温とされる36.5度から平熱が1度下がること、「体温が1度上がる」とは個々人の平熱から1度上がることを意味しているようです。つまり、35.5度~37度台という狭い範囲で「免疫力」が劇的な変化を遂げることになります。

 

 そもそも「免疫力」とは何でしょうか。その測定方法とは。その劇的な変化の裏付けは。免疫学の講義では習わなかった「免疫力」という言葉の意味をネット情報や書籍で調べてみました。

 

 「免疫力」とは「体内に侵入したウィルスや細菌などの病原体や毒素を異物として認識し、生体を防御するためにこれを排除しようとする力」のことで、リンパ球の数や比率、毛細血管からのリンパ球の遊走能で評価しているようです(引用文献は一切明示されておりませんが、こんな簡単な測定方法でいいものでしょうか。免疫システムは非常に複雑です。その学習のために苦労した学生時代の日々が嘘のようです)。

 

 「免疫力」という言葉を、抗血栓薬のことを「血液サラサラの薬」と呼ぶように、一般の方の理解が進むように使用する分には良いのですが、「免疫力」が30~40%低下するとか5~6倍になるというためには、「その測定方法が予め確立されている必要があります」。確かに「低体温」は身体に良くないような気もしますし、そのための体温を上げる方法論(食事や運動、服装、入浴などに関する指導内容)に関しても医学的問題があるとは思われませんが、たいした検証もされずに情報が氾濫している現状はいかがなものでしょう。

 

 [文献]

[1] 田坂定孝, ほか: 健常日本人腋窩温の統計値について. 日新醫学 44: 633-638, 1957.

[4] 木村昭夫, ほか: Moderate Hypothermia下における多核白血球の遊走並びに貪食能の検討. 日救急医会誌 9: 18-19, 1998.

[5] 木村昭夫, ほか:中等度低体温下における単球の遊走・貪食並びに殺菌能の検討. 日救急医会誌 9: 332-335, 1998.

ジャンル:
科学
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