先日「ウンチが出なくてキツそうにしている」と相談に来られたのは、パピヨンのダイちゃんでした。
診察してみると、肛門に出る直前の直腸に硬くなった直径5cmものウンチ(以下便と言います)が引っかかっていたので、まずは、キツさをとるために硬くなった便を粉砕して取り除いてあげました。
↑便が取れて「ほっと一息」のダイちゃん
さて、では何故ダイちゃんが便が出なくて苦しむようになってしまったかですが、原因は「会陰ヘルニア」という病気でした。
以下に会陰ヘルニアの説明をしておきますね。
普段当たり前のように出る便ですが、便は直腸を通過して肛門から外に出てきます。この直腸と言う場所は非常に軟らかいので支えが無いとすぐ曲がってしまいます。しかし、便が出る為にはその場所が「肛門に向かって真直ぐ」である事が非常に重要となります。では、身体はどのようにしているかというと、骨盤隔壁という筋肉群で直腸を囲む事によって「真直ぐ」を維持しているのです。
この骨盤隔壁の筋肉群が細くなり弱くなって直腸を支えきれなくなると、直腸が曲がったり、その場所にお腹の臓器(小腸や膀胱や前立腺が多い)が変位して出てくることにより便や尿が出なくなることを「会陰ヘルニア」と言います。
↑弱くなった骨盤隔壁の図
この会陰ヘルニアを起こす骨盤隔壁の異常は、男性ホルモンの影響によるところが大きいと言われております。なので、基本的に男の子で、ある程度の年齢に達してから発症します。
そして一番重要な事は、若いうちに去勢手術を受けていれば発症予防ができるということです!
男の子の去勢は他の病気の予防にもなるので、「大きな病気になったら困る方は」ご自宅のワンちゃんに去勢手術を受けさせてあげて下さい。
さてダイちゃんですが上記の理由から貯まった便を出しただけでは解決にはなりませんので、弱くなった骨盤隔壁の補強をして直腸の支えを作って、継続的に便が出るようにしてあげなければなりません。
とは言っても、なくなった骨盤隔壁を再生する事は現在の医療では不可能なので、様々な代用品を使って、骨盤隔壁の機能を補助すると言う事になります。
会陰ヘルニアの手術は様々な方法がありますが、現在、一生涯完璧に補強が出来る手術方法は存在しません。
当院では、現在知られている手術法の中でも、医療用のメッシュを使用しての手術方法を選んで行っております。この方法は、他の方法と比較して術後の成績が良く、飼い主の方にも非常に満足をして頂いております。
↑当院で使用している医療用メッシュ
ということで、手術を受けたダイちゃんは
↑術後翌日の写真(痛々しいですね)
↑術後5日目の写真(少し腫れが引いてきました)
この時点で、便の出方が良好でしたので、無事退院となりました。
↑抜糸の時の状態
ダイちゃんは頑張って、大きな手術を耐えてくれました!
これで、当面は快適な排便生活を送ることができると思います。
追伸:数日後に同じ会陰ヘルニアで来院された別の子はヘルニアの影響で、重度な腎不全を起こしており、残念ながら助けることが出来ませんでした。若いうちに去勢手術さえしておけば亡くさずに済んだ命だけに、獣医師としてはやりきれない気持ちが残ってしまいます。
獣医師 佐藤