今夜はこれで好きな酒を飲みながら酔いましょう CODE. EK-スハ203
故郷を想う時
山形県、新庄市。二月の下旬を迎えているその街は、テレビや新聞で報じられている春の予感を思わせるニュースなどとはうらはらに、厳しい寒さが街を囲む山々から吹き付けている。
新庄の駅から歩いて数分のファミリーレストラン。午後六時を過ぎたその店は家族連れやカップルで賑わっている。先に一人でその店に入っている原田涼子。コーヒーを飲んでいる。左手の逆さ時計を見る涼子。そのまま窓の外を見る。窓は外との激しい温度差で曇っている。外を走っている車のヘッドライトが滲んでいる。再び時計を見る涼子。そのままの視線で店の入り口を見る。
タイミングよく店に入ってくる女性、川瀬里奈。小走りで来た様子で少し肩で息をしている。神妙な面持ちで店内を見回している。そして涼子を見つけ、胸の前で小さく手を振る。涼子、満面の笑顔になる。
里奈 「早かった?」
涼子 「ううん、ついさっき。」
あわただしく手袋とマフラーをはずす里奈。
手を息で温め、大げさに震えるしぐさをする里奈。
里奈 「やっぱ、こっち、寒いわ。」
涼子 「今年は特別よ。雪はあんまり多くないんだけどさあ。」
ウェイトレスがオーダーを取りに来る。外国産のビールを注文する里奈。
涼子 「すっごい久しぶりじゃない?どうしちゃったのよ、急に。」
里奈 「おととしの、母さんの葬式以来かな?」
涼子 「そうだっけか?」
里奈 「確かそうよ。あの時はろくに話も出来なかった。天童のおじさんの所に
電話したら、全然、知らない親戚だっていう人が来ちゃったりしてさあ。話す暇もなかった。」
涼子 「ずっと、泣いてたし、そんな雰囲気じゃあなかったもんね」
里奈 「まだ、これからだって思ってたでしょう。て、言うか、まさか、そんな
ふうになるなんて思ってもいなかった。あの時、このまま自分も死んで
もいいと思ったぐらいだった。」
涼子 「………」
里奈 「でも、もう、二年近くたったから平気になったけどさあ。それはもういいんだ。大丈夫になった。… ところでさあ、みんなどうしてる?」
涼子 「妙子も智子もみーんな元気。今日は二人とも、話が急だったから都合つかなくて来れないけど」
愛想のないウェイトレス、ビールを運んでくる。自分でグラスにビールを注いで飲む。
里奈 「忙しいんだ。」里奈、煙草に火をつける。
涼子 「妙子は決算の時期だからどうしても残業なんだって。智子は来週から試験が始まるから今回はどうしても無理とかって言ってた。」
里奈 「智子、仙台だっけ?」
涼子 「うん、学生寮に入ってる。」
里奈 「昔から、頭、よかったからなあ、智子は。」
涼子 「薬剤師の資格、取るとかって、こないだ言ってたよ。」
里奈 「ふうん、そうなんだ。で、たまには帰ってくるの?」
涼子 「ほとんど毎週。」
里奈 「毎週。」
涼子 「そうなのよ、やっぱり、こっちがいいんだって。」
里奈 「親離れ、してないんだ。」
涼子 「多分、そう。絶対そう。ところで、どうして急に来るって言ったのよ」
里奈 「暇だったからなんとなく。」
涼子 「本当にそう?それだけ?なんかあった?」
里奈 「別に、何にも。」
涼子 「それならいいんだけどさ。」
里奈 「……」
里奈 「でっもさあ、早いよね、高校、出てからもう三年もたつ。」
涼子 「あっという間だよ。」
里奈 「走ってる?」
涼子 「走ってない。ハラ、出てきたかも(笑)」
里奈 「走れない(笑)」
涼子 「とにかく、あの頃、よく走らされてたもんね。それしかなかった。雪ん中とかさあ。」
里奈 「陸上部の連中、みんな元気なのかな。」
涼子 「すんごい元気よ。」
里奈 「肘折の合宿、覚えてる?」
涼子 「覚えてるに決まってる。忘れるわけない。早く忘れたいんだけど。」
里奈 「部屋で煙草吸って布団焦がしちゃってさあ。」
涼子 「あたしのせいでさあ。」
里奈 「涼子がいきなり煙を深く吸いこんで、むせちゃって、火のついた煙草、布団の上に放り投げたんだ。」
涼子 「あの時の、塚田先生の顔、マジで怖かったもんね。」
里奈 「でも、あのあと、泣きそうにもなってた。自分の首も危ないと思ったんだよ、あん時。」
涼子 「夜中に山道、三週も走らされた。苦しいのと怖いのでみんな泣きながら走ってたもんね。」
里奈 「おかげさまであれで足腰が強くなったんだ。」
涼子 「あたしはあれで、一生、煙草は吸わないと思った。」
里奈 「あたしはあれで煙草覚えた。(笑)面白かったよね、あの頃。」
涼子 「東京、どう?」
里奈 「おもしろい。」
涼子 「あたしなんか、東京の生活なんて想像もつかない。わかるのはここよりあったかいってことぐらい。」
里奈 「東京、雪ないからなあ、雪なんかうんざりだ。見たくもないよ。雪のか
わりにそこらじゅうに人が積もってるけどさ。」
涼子 「積もるほど人が多い?」
里奈 「まあ、そういうこと。涼子にはわかんないだろうけど、そんだけ人が多
い。金曜の夜の歌舞伎町なんて、まっすぐ歩けない。もっともみんな酔っ払ってるから真っ直ぐあるってないんだけどさ。」
涼子 「毎晩、お祭りみたいなもん?」
里奈 「(笑)まあ、早い話がそんなもんだよ。」
涼子 「ふうん、で、みんなどこ行くのよ?」
里奈 「遊びに行くに決まってるじゃん。」
涼子 「どこに?カラオケとかクラブとか?」
里奈 「まあ、そうだけど、ようは酒だよ酒。酔っ払って騒いで男が女追っかけ
て、女が男をだまして、そんなのが朝まで続く。馬鹿な男があたしみたいなのにだまされて、そんで気がついてみたら自分がだまされたりしてさ。お酒とお金と男と女がぐるぐる回ってんだ、東京は。」
涼子 「ん、よくわかんないなあ。あたしにはよくわかんない。それより、男をだましてんの?」
里奈 「もののたとえだよ。そんな感じってこと。だまされたことはあるかもしれないけど、だましたことはありません。」
涼子 「ならいいけど。それより里奈、そのお化粧ってさあ、向こうじゃみんなそんななの?」
里奈 「あ、これかあ、これは向こうでもちょっと特別かな、まあ、このぐらいなら東京にはいくらでもいるけど。」
涼子 「さっきからここ通る人、みんな横目で見てる。このあたりじゃあかなりなもんよ。」
里奈 「知ってる。だから田舎っていやなんだ。なんか変わったもの見るとすぐ物珍しげに見る。そんですぐにあれは変わってるとかさあ、どこの誰だとか言ってさ。そんでありもしないこと隣近所に言いふらす。だから田舎はいやなんだよな。」
涼子 「気にしなくていいんじゃない。どっちにしてもここには住んでないんだから。そんなことよりもさ、高校出てからもう三年もたつんだよ。なんかすっごい早い。三年でそんなに東京になじめるものなの?」
里奈 「一年もいりゃあ充分だよ。すぐなれる。でも最初の一ヶ月は電車の乗り方とか駅の中とか覚えんの大変だった。酔っ払っても家まで帰れるようになれば立派な都会人よ。向こうはさ、こっちと違ってなんもかもが変わるのが早い。早すぎる。こっちは何年たっても変わらないだろう。どこぞのじいちゃんが死んだとか、台風でサクランボがやられたとか、そんなのしかない。」
涼子 「確かにそうかも。」
里奈 「東京なんかさ、半年もたてば住んでる人間も町も流行の洋服もみんな変わっちゃう。彼氏も彼女もとっかえひっかえだし。でも、ほとんどの人間があたしみたいに田舎から出てきたもんばっかりなんだ。みんなそれをはずかしいことのように思っててさあ。ろくに挨拶もしないでアパートの隣の部屋に誰が住んでるかもわからない。隣の部屋で誰かが死んでてもしばらく誰も気づかない。」
涼子 「なんで誰も気づかない?」
里奈 「一人暮らしだからに決まってるだろ。誰かが気がつかないとわからない。電話かけていつも出ないとか、親しい人が不審に思ってたずねてくるとかさ。じゃないと誰もわからない。」
涼子 「で、どうなっちゃうの?」
里奈 「死んで腐って臭って警察来て、あ、死んでる、なんてそんな世界。」
涼子 「どうしてそんなところ、住むの?なんかつらい、さびしくない?」
里奈 「確かにね。でも田舎にいるよりはまし。少なくともあたしにとってはね。そんだけだよ多分。田舎は面白くない。東京は面白い。そんだけだよ。まじめに考えればさあ東京でその気になれば、いくらでもお金が稼げるってことかな。涼子はずっとここだからそんなのわかんないと思うけど。わかんないほうがいいのかもしれないけどさ。」
涼子 「確かにわかんない。でも、どうやってお金、稼いでんのよ。水商売?」
里奈 「今はキャバクラ。わかる?」
涼子 「そんぐらいはわかる。」
里奈 「これが結構稼げるんだ。頑張れば結構稼げる。でも、出てくお金も多いからほとんど残らないんだけど。世の中、不景気って言うけど結構みんな持ってる。あたしの客なんか、お金に糸目つけないってのもいるよ。男ってみんな馬鹿だよ。店に通いつめて、結局、最後はあたしの体が目的なんだろうけどね。」
涼子 「まさか、そこまでしちゃってるの?」
里奈 「さすがにそこまで、出来ない。お店の子で売っちゃってるのもいるけど。」
涼子 「はあ……。でもこっちでも山形の市内でそんなことしてるのもいるってうわさを聞くけど
里奈 「そういうご時世なんだよ。こっちも開けてきたってことじゃない。」
涼子 「新幹線がここまで来るようになってからなんか変わった。変になったような気もする。かなり無理すれば東京に日帰りで遊びにいける。」
里奈 「近くなったってことかな。でもやっぱりここは遠いけど。」
涼子 「ねえ、さっき新庄の駅まで迎えに行ったときから気になってるんだけどさあ…」
里奈 「ああ、これね。こんなの普通よ、いまどき高校生でもやってる。」
涼子 「…刺青…。本物?」
里奈 「うん、あたしは胸だけだけど、肩とか太ももとかいろんなとこに書いてるやついっぱいいるよ。
涼子 「……」
里奈 「書きたいんだったらしょうかいするよ。ちょっと痛いけどいい色出すやつ知ってる。
涼子 「いい、いい、そんなのぜったいいい。」
里奈 「(笑)そりゃそうだ。涼子に、こんなの似合うわけない(笑)」
涼子 「なんか話だけ聞いてると東京で何してるんだかわけわかんない。いつも何食べてんの?」
里奈 「大体、起きるのが夕方だろう。そんでコンビニで買ったもの食べて、店に出たら客が頼んだもの適当につまんで、そんで、店、跳ねたら、店の子とラーメン屋かなあ、大体そんな感じ。」
涼子 「だめだあ、そんなのじゃ絶対,体、壊す。」
里奈 「ビタミン剤、いろいろ飲んでるから大丈夫よ。」
涼子 「絶対よくないよ。ビタミン剤が体に悪いとは言わないけど、あんまりいいとも思えない。ちゃんとご飯食べなきゃだめよ。」
里奈 「東京のご飯、まずいんだあ。あれってきっと水が悪いからなんだろうな。生水飲むと、やっばいなってつくづく思う。」
涼子 「こっちで育った人は絶対そう思うよね。」
里奈 「当たり前だよ。」
涼子 「いっそのこと、こっち帰ってきてこっちで仕事見つけて、こっちで暮らせばいいじゃないよ。」
里奈 「帰ってこれるわけがないよ。」
涼子 「どうしてよ。」
里奈 「去年、かあちゃんが死んだでしょ。こっちに親がいるわけでもないし、親戚もいない。ずっと借家だったから帰る家もない。場所がない。とおちゃんはあたしがまだちっちゃいときに女作って家、出ちゃってるしさ。酒田のほうにいるって話をずっと前に聞いたことあるけどもう関係ない。ずうっとかあちゃんに女手ひとつで育てられて高校まで出してもらって。だからいつか東京でマンションでも買って、呼んで暮らそうと思ってた矢先、かあちゃんが死んじゃって。帰ってきたくても帰る場所がないんだよ。帰る意味がないんだよ。」
涼子 「でも、里奈の故郷はここだよ。ここしかないんだよ。ここで生まれてここで育ったんだよ。確かにこの辺、冬は大変かもしれないけど、夏になったら肘折の山のほうなんかすっごいきれい。いまだにここで生まれてよかったと思うぐらい。わざわざ都会でそんなにすさんだ生活を我慢して送ることなんかないじゃないよ。」
里奈 「すさんでなんかいない、我慢もしてない!こう見えても東京の生活、楽しんでんのよ!涼子にはわからないだけ!」
涼子 「……里奈…」
寒冷地の夜の老け込みは早く、店の客退けは早々で、まばらになっている。強力な暖房
がかけられているが寒々しい空気が流れている。
涼子 「帰ってきちゃえばいいでしょう」
里奈 「こっちに帰ってきてコンビニで働いてあんたらとファミレスでお茶飲んで暮らせって?さっきも言ったけどあたしには帰る場所もないし意味もないんだよ。」
涼子 「東京にいるよりはぜんぜん幸せだと思う。」
里奈 「どこが?向こうとこっちじゃ稼げるお金のケタが違うんだよ。時給七百円で、コンビニで弁当、売ってどこが幸せなのよ。」
涼子 「でも、そうやって暮らしてる友達もいる。」
里奈 「あたしにはもうそんなつつましさはないのよ。」
涼子 「そんなことない!あたしの知ってる里奈だったらそれぐらいのこと充分出来るはずよ。」
里奈 「住むところが変わって時間が過ぎれば人は変わっちゃうものなのよ。」
涼子 「そんなことないよ。そうだ!こっちで暮らしながら、だれかいい人見つけてさあ、結婚でもしちゃえばいいんだよ。そうだよ、家族を自分で作っちゃえばいいんだ。そうだよ。」
里奈 「相変わらず涼子は涼子だ。」
涼子 「あたしの言ってること、なんか変?」
里奈 「ぜんぜん変じゃない。でも今ののあたしでは結婚なんて到底無理。」
涼子 「どうして?」
里奈 「それよりもさ、自分のほうはどうなのよ、彼氏とか出来たのか?」
涼子 「い、一応。」
里奈 「へえ、いるんだ。で、なにやってる人?」
涼子 「山形の中央郵便局。」
里奈 「うわ。超堅気じゃん。」
涼子 「でも、外勤だよ。」
里奈 「外勤って?」
涼子 「配達。」
里奈 「べつにそんなのどうだっていいじゃないこの不景気にそんないいとこないって。」
涼子 「いっつもやめたいとか言ってる。」
里奈 「なんで?」
涼子 「仕事、面白くないって。」
里奈 「面白い仕事なんか絶対ありえない。」
涼子 「うん、そう思う。」
里奈 「殴ってでもいいからそこにしがみついてろって言っときなよ。あたしもそう言ってたって。関係ないけど。」
涼子 「そうだね。」
里奈 「結婚する気あるの?」
涼子 「向こうはあるみたい。でもあたしがまだ踏ん切りがつかない。結婚するって決めたとしてもわくわく出来ない。よくわかんないんだ。」
里奈 「そりゃあ、良子がまだ遊びたりないからだ。」
涼子 「そんなことない。べつに遊びたいとも思わない。」
里奈 「男、いくつなの?」
涼子 「二十七。」
里奈 「ちょうどいい。」
涼子 「二つ三つ上がいい。」
里奈 「決めちゃいなよ。涼子が、うんって言えばいいだけのことだろう。迷うことなんかないよ。」
涼子 「そうなのかなあ。」
里奈 「涼子の場合、特にそう。」
涼子 「どういう意味よそれって。」
里奈 「そういう意味よ。」
涼子 「よくわかんないなあ。そんなことよりもさあ。ねえ、里奈。あたし、思ったんだけど、今夜、家に泊まって。今から駅行けば切符、払い戻しが出来る。なにも明日の朝に帰ってもいいんでしょう?ねえ、うちに泊まって。」
里奈 「そんなこと出来ないよ。」
涼子 「ねえ、どうして突然、あたしに電話なんか、かけてきて今日帰るなんていったの?しかも日帰りのとんぼ返りで。どうして?」
里奈 「たまに涼子の顔見とかないと忘れる。あたしの顔も見せておかないと忘れられる。それじゃあ困るからよ。」
涼子 「ねえ、今夜、家に泊まって。ねえ、そうしようよ。」
里奈 「涼子の顔、見ただけで充分だよ。それに…」
涼子 「それに?」
里奈 「涼子のお父さんやお母さんにこの顔、見せらんない。おめえ誰だって言われる。」
涼子 「そんなことない。」
里奈 「今は無理、泊まれない。何時か笑って泊まれる時が来るって思うけど、そう。そうでも思ってないと東京で生きてらんない。やってらんない。」
涼子 「里奈…」
沈黙の時間、互いにテーブルだけを眺めている。
涼子 「本当に今夜、帰る?」
里奈 「うん。」
涼子 「そろそろ行かないと乗り遅れる。」
里奈 「駅までいい?」
涼子 「うん。今度、いつ来る?
里奈 「・・・・・・」
涼子 「ごめん、そうじゃない、いつ帰れるの?」
里奈 「何とか夏には帰って来たい。来てもいい?」
涼子 「当たり前でしょう。ここ、里奈の故郷なんだから。帰るところはここしかないんだから。」
里奈 「・・・・・・」
涼子 「その前に東京に一回、遊びに行ってもいい?案内とか頼んでもいい?渋谷とか行ってみたい。」
里奈 「いつでもどうぞ。そのかわりおっかないかもよ。」
涼 「おっかない?襲われる?」
里奈 「うそうそ、ぜんぜん大丈夫。もしもなんかあったら走って逃げればいい。それが一番いい方法なんだ。」
涼子 「あたしたち、だてに陸上やってたわけじゃあない。」
里奈 「甲州街道突っ走って、奥多摩の山道走ればいい。だれもかなうやついないよきっと。」
涼子 「甲州街道って知んないけど
そうだよ、絶対そうだ。」
誰もいなくなったレストラン。窓の外には白い雪が降っている。故郷を昔と同じように寸文の狂いもなく、真っ白に染め上げている。
里奈の乗った東京行きの最終新幹線。客足の極端に少ない新幹線。里奈は座ろうともせずにドアの淵に立つ。ゆっくりと流れている故郷の街の灯り。もう当分、この街にくることもないんだろうと考えている。街並みが途切れ、新幹線はトンネルに入って轟音を上げる。里奈はそれを待っていたかのように声を出して泣き崩れている。
終
故郷を想う時
山形県、新庄市。二月の下旬を迎えているその街は、テレビや新聞で報じられている春の予感を思わせるニュースなどとはうらはらに、厳しい寒さが街を囲む山々から吹き付けている。
新庄の駅から歩いて数分のファミリーレストラン。午後六時を過ぎたその店は家族連れやカップルで賑わっている。先に一人でその店に入っている原田涼子。コーヒーを飲んでいる。左手の逆さ時計を見る涼子。そのまま窓の外を見る。窓は外との激しい温度差で曇っている。外を走っている車のヘッドライトが滲んでいる。再び時計を見る涼子。そのままの視線で店の入り口を見る。
タイミングよく店に入ってくる女性、川瀬里奈。小走りで来た様子で少し肩で息をしている。神妙な面持ちで店内を見回している。そして涼子を見つけ、胸の前で小さく手を振る。涼子、満面の笑顔になる。
里奈 「早かった?」
涼子 「ううん、ついさっき。」
あわただしく手袋とマフラーをはずす里奈。
手を息で温め、大げさに震えるしぐさをする里奈。
里奈 「やっぱ、こっち、寒いわ。」
涼子 「今年は特別よ。雪はあんまり多くないんだけどさあ。」
ウェイトレスがオーダーを取りに来る。外国産のビールを注文する里奈。
涼子 「すっごい久しぶりじゃない?どうしちゃったのよ、急に。」
里奈 「おととしの、母さんの葬式以来かな?」
涼子 「そうだっけか?」
里奈 「確かそうよ。あの時はろくに話も出来なかった。天童のおじさんの所に
電話したら、全然、知らない親戚だっていう人が来ちゃったりしてさあ。話す暇もなかった。」
涼子 「ずっと、泣いてたし、そんな雰囲気じゃあなかったもんね」
里奈 「まだ、これからだって思ってたでしょう。て、言うか、まさか、そんな
ふうになるなんて思ってもいなかった。あの時、このまま自分も死んで
もいいと思ったぐらいだった。」
涼子 「………」
里奈 「でも、もう、二年近くたったから平気になったけどさあ。それはもういいんだ。大丈夫になった。… ところでさあ、みんなどうしてる?」
涼子 「妙子も智子もみーんな元気。今日は二人とも、話が急だったから都合つかなくて来れないけど」
愛想のないウェイトレス、ビールを運んでくる。自分でグラスにビールを注いで飲む。
里奈 「忙しいんだ。」里奈、煙草に火をつける。
涼子 「妙子は決算の時期だからどうしても残業なんだって。智子は来週から試験が始まるから今回はどうしても無理とかって言ってた。」
里奈 「智子、仙台だっけ?」
涼子 「うん、学生寮に入ってる。」
里奈 「昔から、頭、よかったからなあ、智子は。」
涼子 「薬剤師の資格、取るとかって、こないだ言ってたよ。」
里奈 「ふうん、そうなんだ。で、たまには帰ってくるの?」
涼子 「ほとんど毎週。」
里奈 「毎週。」
涼子 「そうなのよ、やっぱり、こっちがいいんだって。」
里奈 「親離れ、してないんだ。」
涼子 「多分、そう。絶対そう。ところで、どうして急に来るって言ったのよ」
里奈 「暇だったからなんとなく。」
涼子 「本当にそう?それだけ?なんかあった?」
里奈 「別に、何にも。」
涼子 「それならいいんだけどさ。」
里奈 「……」
里奈 「でっもさあ、早いよね、高校、出てからもう三年もたつ。」
涼子 「あっという間だよ。」
里奈 「走ってる?」
涼子 「走ってない。ハラ、出てきたかも(笑)」
里奈 「走れない(笑)」
涼子 「とにかく、あの頃、よく走らされてたもんね。それしかなかった。雪ん中とかさあ。」
里奈 「陸上部の連中、みんな元気なのかな。」
涼子 「すんごい元気よ。」
里奈 「肘折の合宿、覚えてる?」
涼子 「覚えてるに決まってる。忘れるわけない。早く忘れたいんだけど。」
里奈 「部屋で煙草吸って布団焦がしちゃってさあ。」
涼子 「あたしのせいでさあ。」
里奈 「涼子がいきなり煙を深く吸いこんで、むせちゃって、火のついた煙草、布団の上に放り投げたんだ。」
涼子 「あの時の、塚田先生の顔、マジで怖かったもんね。」
里奈 「でも、あのあと、泣きそうにもなってた。自分の首も危ないと思ったんだよ、あん時。」
涼子 「夜中に山道、三週も走らされた。苦しいのと怖いのでみんな泣きながら走ってたもんね。」
里奈 「おかげさまであれで足腰が強くなったんだ。」
涼子 「あたしはあれで、一生、煙草は吸わないと思った。」
里奈 「あたしはあれで煙草覚えた。(笑)面白かったよね、あの頃。」
涼子 「東京、どう?」
里奈 「おもしろい。」
涼子 「あたしなんか、東京の生活なんて想像もつかない。わかるのはここよりあったかいってことぐらい。」
里奈 「東京、雪ないからなあ、雪なんかうんざりだ。見たくもないよ。雪のか
わりにそこらじゅうに人が積もってるけどさ。」
涼子 「積もるほど人が多い?」
里奈 「まあ、そういうこと。涼子にはわかんないだろうけど、そんだけ人が多
い。金曜の夜の歌舞伎町なんて、まっすぐ歩けない。もっともみんな酔っ払ってるから真っ直ぐあるってないんだけどさ。」
涼子 「毎晩、お祭りみたいなもん?」
里奈 「(笑)まあ、早い話がそんなもんだよ。」
涼子 「ふうん、で、みんなどこ行くのよ?」
里奈 「遊びに行くに決まってるじゃん。」
涼子 「どこに?カラオケとかクラブとか?」
里奈 「まあ、そうだけど、ようは酒だよ酒。酔っ払って騒いで男が女追っかけ
て、女が男をだまして、そんなのが朝まで続く。馬鹿な男があたしみたいなのにだまされて、そんで気がついてみたら自分がだまされたりしてさ。お酒とお金と男と女がぐるぐる回ってんだ、東京は。」
涼子 「ん、よくわかんないなあ。あたしにはよくわかんない。それより、男をだましてんの?」
里奈 「もののたとえだよ。そんな感じってこと。だまされたことはあるかもしれないけど、だましたことはありません。」
涼子 「ならいいけど。それより里奈、そのお化粧ってさあ、向こうじゃみんなそんななの?」
里奈 「あ、これかあ、これは向こうでもちょっと特別かな、まあ、このぐらいなら東京にはいくらでもいるけど。」
涼子 「さっきからここ通る人、みんな横目で見てる。このあたりじゃあかなりなもんよ。」
里奈 「知ってる。だから田舎っていやなんだ。なんか変わったもの見るとすぐ物珍しげに見る。そんですぐにあれは変わってるとかさあ、どこの誰だとか言ってさ。そんでありもしないこと隣近所に言いふらす。だから田舎はいやなんだよな。」
涼子 「気にしなくていいんじゃない。どっちにしてもここには住んでないんだから。そんなことよりもさ、高校出てからもう三年もたつんだよ。なんかすっごい早い。三年でそんなに東京になじめるものなの?」
里奈 「一年もいりゃあ充分だよ。すぐなれる。でも最初の一ヶ月は電車の乗り方とか駅の中とか覚えんの大変だった。酔っ払っても家まで帰れるようになれば立派な都会人よ。向こうはさ、こっちと違ってなんもかもが変わるのが早い。早すぎる。こっちは何年たっても変わらないだろう。どこぞのじいちゃんが死んだとか、台風でサクランボがやられたとか、そんなのしかない。」
涼子 「確かにそうかも。」
里奈 「東京なんかさ、半年もたてば住んでる人間も町も流行の洋服もみんな変わっちゃう。彼氏も彼女もとっかえひっかえだし。でも、ほとんどの人間があたしみたいに田舎から出てきたもんばっかりなんだ。みんなそれをはずかしいことのように思っててさあ。ろくに挨拶もしないでアパートの隣の部屋に誰が住んでるかもわからない。隣の部屋で誰かが死んでてもしばらく誰も気づかない。」
涼子 「なんで誰も気づかない?」
里奈 「一人暮らしだからに決まってるだろ。誰かが気がつかないとわからない。電話かけていつも出ないとか、親しい人が不審に思ってたずねてくるとかさ。じゃないと誰もわからない。」
涼子 「で、どうなっちゃうの?」
里奈 「死んで腐って臭って警察来て、あ、死んでる、なんてそんな世界。」
涼子 「どうしてそんなところ、住むの?なんかつらい、さびしくない?」
里奈 「確かにね。でも田舎にいるよりはまし。少なくともあたしにとってはね。そんだけだよ多分。田舎は面白くない。東京は面白い。そんだけだよ。まじめに考えればさあ東京でその気になれば、いくらでもお金が稼げるってことかな。涼子はずっとここだからそんなのわかんないと思うけど。わかんないほうがいいのかもしれないけどさ。」
涼子 「確かにわかんない。でも、どうやってお金、稼いでんのよ。水商売?」
里奈 「今はキャバクラ。わかる?」
涼子 「そんぐらいはわかる。」
里奈 「これが結構稼げるんだ。頑張れば結構稼げる。でも、出てくお金も多いからほとんど残らないんだけど。世の中、不景気って言うけど結構みんな持ってる。あたしの客なんか、お金に糸目つけないってのもいるよ。男ってみんな馬鹿だよ。店に通いつめて、結局、最後はあたしの体が目的なんだろうけどね。」
涼子 「まさか、そこまでしちゃってるの?」
里奈 「さすがにそこまで、出来ない。お店の子で売っちゃってるのもいるけど。」
涼子 「はあ……。でもこっちでも山形の市内でそんなことしてるのもいるってうわさを聞くけど
里奈 「そういうご時世なんだよ。こっちも開けてきたってことじゃない。」
涼子 「新幹線がここまで来るようになってからなんか変わった。変になったような気もする。かなり無理すれば東京に日帰りで遊びにいける。」
里奈 「近くなったってことかな。でもやっぱりここは遠いけど。」
涼子 「ねえ、さっき新庄の駅まで迎えに行ったときから気になってるんだけどさあ…」
里奈 「ああ、これね。こんなの普通よ、いまどき高校生でもやってる。」
涼子 「…刺青…。本物?」
里奈 「うん、あたしは胸だけだけど、肩とか太ももとかいろんなとこに書いてるやついっぱいいるよ。
涼子 「……」
里奈 「書きたいんだったらしょうかいするよ。ちょっと痛いけどいい色出すやつ知ってる。
涼子 「いい、いい、そんなのぜったいいい。」
里奈 「(笑)そりゃそうだ。涼子に、こんなの似合うわけない(笑)」
涼子 「なんか話だけ聞いてると東京で何してるんだかわけわかんない。いつも何食べてんの?」
里奈 「大体、起きるのが夕方だろう。そんでコンビニで買ったもの食べて、店に出たら客が頼んだもの適当につまんで、そんで、店、跳ねたら、店の子とラーメン屋かなあ、大体そんな感じ。」
涼子 「だめだあ、そんなのじゃ絶対,体、壊す。」
里奈 「ビタミン剤、いろいろ飲んでるから大丈夫よ。」
涼子 「絶対よくないよ。ビタミン剤が体に悪いとは言わないけど、あんまりいいとも思えない。ちゃんとご飯食べなきゃだめよ。」
里奈 「東京のご飯、まずいんだあ。あれってきっと水が悪いからなんだろうな。生水飲むと、やっばいなってつくづく思う。」
涼子 「こっちで育った人は絶対そう思うよね。」
里奈 「当たり前だよ。」
涼子 「いっそのこと、こっち帰ってきてこっちで仕事見つけて、こっちで暮らせばいいじゃないよ。」
里奈 「帰ってこれるわけがないよ。」
涼子 「どうしてよ。」
里奈 「去年、かあちゃんが死んだでしょ。こっちに親がいるわけでもないし、親戚もいない。ずっと借家だったから帰る家もない。場所がない。とおちゃんはあたしがまだちっちゃいときに女作って家、出ちゃってるしさ。酒田のほうにいるって話をずっと前に聞いたことあるけどもう関係ない。ずうっとかあちゃんに女手ひとつで育てられて高校まで出してもらって。だからいつか東京でマンションでも買って、呼んで暮らそうと思ってた矢先、かあちゃんが死んじゃって。帰ってきたくても帰る場所がないんだよ。帰る意味がないんだよ。」
涼子 「でも、里奈の故郷はここだよ。ここしかないんだよ。ここで生まれてここで育ったんだよ。確かにこの辺、冬は大変かもしれないけど、夏になったら肘折の山のほうなんかすっごいきれい。いまだにここで生まれてよかったと思うぐらい。わざわざ都会でそんなにすさんだ生活を我慢して送ることなんかないじゃないよ。」
里奈 「すさんでなんかいない、我慢もしてない!こう見えても東京の生活、楽しんでんのよ!涼子にはわからないだけ!」
涼子 「……里奈…」
寒冷地の夜の老け込みは早く、店の客退けは早々で、まばらになっている。強力な暖房
がかけられているが寒々しい空気が流れている。
涼子 「帰ってきちゃえばいいでしょう」
里奈 「こっちに帰ってきてコンビニで働いてあんたらとファミレスでお茶飲んで暮らせって?さっきも言ったけどあたしには帰る場所もないし意味もないんだよ。」
涼子 「東京にいるよりはぜんぜん幸せだと思う。」
里奈 「どこが?向こうとこっちじゃ稼げるお金のケタが違うんだよ。時給七百円で、コンビニで弁当、売ってどこが幸せなのよ。」
涼子 「でも、そうやって暮らしてる友達もいる。」
里奈 「あたしにはもうそんなつつましさはないのよ。」
涼子 「そんなことない!あたしの知ってる里奈だったらそれぐらいのこと充分出来るはずよ。」
里奈 「住むところが変わって時間が過ぎれば人は変わっちゃうものなのよ。」
涼子 「そんなことないよ。そうだ!こっちで暮らしながら、だれかいい人見つけてさあ、結婚でもしちゃえばいいんだよ。そうだよ、家族を自分で作っちゃえばいいんだ。そうだよ。」
里奈 「相変わらず涼子は涼子だ。」
涼子 「あたしの言ってること、なんか変?」
里奈 「ぜんぜん変じゃない。でも今ののあたしでは結婚なんて到底無理。」
涼子 「どうして?」
里奈 「それよりもさ、自分のほうはどうなのよ、彼氏とか出来たのか?」
涼子 「い、一応。」
里奈 「へえ、いるんだ。で、なにやってる人?」
涼子 「山形の中央郵便局。」
里奈 「うわ。超堅気じゃん。」
涼子 「でも、外勤だよ。」
里奈 「外勤って?」
涼子 「配達。」
里奈 「べつにそんなのどうだっていいじゃないこの不景気にそんないいとこないって。」
涼子 「いっつもやめたいとか言ってる。」
里奈 「なんで?」
涼子 「仕事、面白くないって。」
里奈 「面白い仕事なんか絶対ありえない。」
涼子 「うん、そう思う。」
里奈 「殴ってでもいいからそこにしがみついてろって言っときなよ。あたしもそう言ってたって。関係ないけど。」
涼子 「そうだね。」
里奈 「結婚する気あるの?」
涼子 「向こうはあるみたい。でもあたしがまだ踏ん切りがつかない。結婚するって決めたとしてもわくわく出来ない。よくわかんないんだ。」
里奈 「そりゃあ、良子がまだ遊びたりないからだ。」
涼子 「そんなことない。べつに遊びたいとも思わない。」
里奈 「男、いくつなの?」
涼子 「二十七。」
里奈 「ちょうどいい。」
涼子 「二つ三つ上がいい。」
里奈 「決めちゃいなよ。涼子が、うんって言えばいいだけのことだろう。迷うことなんかないよ。」
涼子 「そうなのかなあ。」
里奈 「涼子の場合、特にそう。」
涼子 「どういう意味よそれって。」
里奈 「そういう意味よ。」
涼子 「よくわかんないなあ。そんなことよりもさあ。ねえ、里奈。あたし、思ったんだけど、今夜、家に泊まって。今から駅行けば切符、払い戻しが出来る。なにも明日の朝に帰ってもいいんでしょう?ねえ、うちに泊まって。」
里奈 「そんなこと出来ないよ。」
涼子 「ねえ、どうして突然、あたしに電話なんか、かけてきて今日帰るなんていったの?しかも日帰りのとんぼ返りで。どうして?」
里奈 「たまに涼子の顔見とかないと忘れる。あたしの顔も見せておかないと忘れられる。それじゃあ困るからよ。」
涼子 「ねえ、今夜、家に泊まって。ねえ、そうしようよ。」
里奈 「涼子の顔、見ただけで充分だよ。それに…」
涼子 「それに?」
里奈 「涼子のお父さんやお母さんにこの顔、見せらんない。おめえ誰だって言われる。」
涼子 「そんなことない。」
里奈 「今は無理、泊まれない。何時か笑って泊まれる時が来るって思うけど、そう。そうでも思ってないと東京で生きてらんない。やってらんない。」
涼子 「里奈…」
沈黙の時間、互いにテーブルだけを眺めている。
涼子 「本当に今夜、帰る?」
里奈 「うん。」
涼子 「そろそろ行かないと乗り遅れる。」
里奈 「駅までいい?」
涼子 「うん。今度、いつ来る?
里奈 「・・・・・・」
涼子 「ごめん、そうじゃない、いつ帰れるの?」
里奈 「何とか夏には帰って来たい。来てもいい?」
涼子 「当たり前でしょう。ここ、里奈の故郷なんだから。帰るところはここしかないんだから。」
里奈 「・・・・・・」
涼子 「その前に東京に一回、遊びに行ってもいい?案内とか頼んでもいい?渋谷とか行ってみたい。」
里奈 「いつでもどうぞ。そのかわりおっかないかもよ。」
涼 「おっかない?襲われる?」
里奈 「うそうそ、ぜんぜん大丈夫。もしもなんかあったら走って逃げればいい。それが一番いい方法なんだ。」
涼子 「あたしたち、だてに陸上やってたわけじゃあない。」
里奈 「甲州街道突っ走って、奥多摩の山道走ればいい。だれもかなうやついないよきっと。」
涼子 「甲州街道って知んないけど
そうだよ、絶対そうだ。」
誰もいなくなったレストラン。窓の外には白い雪が降っている。故郷を昔と同じように寸文の狂いもなく、真っ白に染め上げている。
里奈の乗った東京行きの最終新幹線。客足の極端に少ない新幹線。里奈は座ろうともせずにドアの淵に立つ。ゆっくりと流れている故郷の街の灯り。もう当分、この街にくることもないんだろうと考えている。街並みが途切れ、新幹線はトンネルに入って轟音を上げる。里奈はそれを待っていたかのように声を出して泣き崩れている。
終

